象が転んだ

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リーマン予想と素数の謎”2の1”(20/7/23更新)〜ゼータの起源とオイラー積と、素数の謎がゼータを生んだ〜

2019年02月17日 04時40分27秒 | リーマンの謎

 前回の”プロローグ”では、リーマン予想を支える素数公式(素数の自明な個数)とギリシャ数学が取り組んだ”素数列”について述べました。
 そして、この素数の謎である”素数が無限にある事の自明な証明”を、2000年ぶりに解読した”オイラー積”という偉大なる”積分解”の偉業と、そのオイラーが発見したゼータ関数と素数の繋がりについての大まかな概略を述べました。
 すこし抽象的な言い方で解り辛いかもしれませんが。”その2”では、この”素数の謎”に深くメスを入れていこうという事で、宜しくです。

 上述した様に、”オイラー積”と”素数の謎”がガチに結びつき、と同時にゼータの発見に繋がり、リーマンに受け継がれるんですが。
 今日は”素数の謎”ではなく、ゼータの発見に繋がるゼータの起源について述べたいと思います。

 
ピタゴラスの積分解

 この”ゼータの起源”についてですが。これは、解析接続と異なり、誰でも理解できるレヴェルです。これだけでも古来から伝わるゼータの謎が理解出来そうですね。
 オイラー以前のゼータ研究と言えば、まずピタゴラス(紀元前500年頃)による”積分解”が挙げられます。このピタゴラス学派による素数概念の発見•素因数分解の発見•素数が無限個ある事の証明の3つが大きくゼータ関数に影響を与えました。”プロローグ”も参照です。 
 つまり自然数を分解し素数を得るという”積分解”の概念が、素因数分解に繋がり、オイラー積を生み、ゼータの発見に結びついた
 故に、素数が2500年前に発見されて以来、現代数学の発展の大きな原動力になってます。

 そして、この素因数分解の困難さこそが、現代のセキュリティの基盤となり、ネット社会を支えてんです。我々はギリシャ時代の数学者と素数に感謝すべきですね。
 ただ前述した様に、今日はこのギリシャ時代の”素数の謎”を巡る旅ではなく、ゼータの起源を探る旅です。ギリシャ時代からいきなり14世紀にまでコマを進めます。


ゼータの起源とオーレムの偉業

 この当時は、具体的な級数という概念はなかったんですが。具体的な数値からなる級数を求めたり、新たな級数を発見する事が主流でした。14世紀のインドで発見されたマータヴァ級数や17世紀のヨーロッパで発見されたメルカトル級数(1668年)などが有名ですが。
 特に、フランスの数学者ニコル・オーレム(1323〜1382)により、14世紀に発見された”オーレムの定理”こそがゼータの起源と言われてます(イラスト左下)。
 因みに、この”オーレムの定理”とは”全ての自然数の逆数の和が∞に発散する”というものです。特に、マータヴァやメルカトルと異なる所は、微積分を用いずに”調和級数の発散”を証明してる所です。

 以下で判る様に、実に単純な証明です。1+1/2+(1/3+1/4)+(1/5+1/6+1/7+1/8)•••>
1+1/2+(1/4+1/4)+(1/8+1/8+1/8+1/8)+•••
=1+1/2+1/2+1/2+•••=∞
 これは、ギリシャ数学に見られる数値計算による想像ではなく、明らかに現代の論理の力によるものです。”自然数に関する和という形の中にゼータ関数の先駆が見える”と、黒川博士は述べておられます。
 大げさに言えば、この簡素に見えるオーレムの偉業がなかったら、ゼータは存在しなかったかもです。
 事実オイラーは1737年に、この発散する美しき調和級数を(怖れる事なく)素数に渡る積に積分解(オイラー積)します。言い換えれば、オーレムの偉業をオイラーが分解したと。


マータヴァ級数

 一方、マータヴァ級数とは、1−1/3+1/5−1/7+•••=π/4と今までは”グレゴリ•ライプニッツ級数”と言われてたものです。このマータヴァ(1340-1425)は南インドの数学者・天文学者で、1400年頃に、これを証明したとされてます。イラスト右上の変なオッサンと言ったら失礼か。
 この級数は結果的に、tanxの逆関数のマクローリン展開(グレゴリ級数)を与え、14世紀のインド数学が現代の数学と同等の域に達してた事を証明する偉大な発見でした。

 この式で注目すべきは、オーレムとは異なる有限値となり、三角関数の微分の概念を使い、更に円周率が出てきた事です。これは後のゼータ関数の研究に大きな影響を及ぼしたとされます。このマータヴァ級数の証明ですが。
 まずtanθをθで微分すると、d(tanθ)/dθ=(sinθ/cosθ)'=1/cos²θ=1+tan²θ。
 ここでtanθ=xとおくと、(dx/dθ)'=1+x²、但し|x|<1より、dθ/dx=1/(1+x²)。
 また公比−x²、初項1の無限公比級数の公式より、1−x²+x⁴−x⁶+x⁸−・・・=1/(1+x²)、故に、dθ/dx=1−x²+x⁴−x⁶+x⁸−•••。
 この両辺をxで積分すると、
θ=x−x³/3+x⁵/5−x⁷/7+x⁹/9−・・・=Σₙ[0,∞](−1)ⁿx²ⁿ⁺¹/(2n+1)。
 tanθ=xより、上式にてθ=tan⁻¹x(=arctanx)とおくと、上式の右辺は、tanxの逆関数のマクローリン展開(グレゴリ級数)の形となってます。
x=1を与えると(ホントはヤバイですが)、
tan⁻¹(1)=π/4=1−1/3+1/5−1/7+•••
=Σₙ[0,∞](−1)ⁿ/(2n+1)と、証明終りです。

 実はこのマータヴァは、ゼータの仲間である”L関数”を最初に研究した人なんですね。
 このL関数は、L(s)=Σₙ[奇数]((−1)^{(n-1)/2}/nˢ=Σₙ[0,∞](−1)ⁿ/(2n+1)=1−1/3ˢ+1/5ˢ−1/7ˢ+1/9ˢ−•••、
で表せますから、L(1)=π/4となってますね。
 因みに、20世紀初頭に活躍する同じ南インド生まれのラマヌジャンは新種の(保系形式の)L関数を発見するのですが、それは同じ南インドの数学の伝統をマータヴァ経由で時空を超えて引き継いだものである。
 更にラマヌジャンは、その新種のL関数の積分解(オイラーの積表示)により、ラマヌジャン予想をリーマン予想として解釈する事も見通したと、「オイラーのゼータ関数」の黒川信重氏も述べてます。


メルカトル級数

 一方、メルカトル級数は1−1/2+1/3−1/4+•••=log2の事で、x−x²/2+x³/3−•••=log(1+x)、但し−1<x≤1、というマクローリン展開にx=1を与えたのと同義ですね。 
 このニコラス・メルカトル(独 1620-1687)も解析学の基礎が未発達の当時、いち早くテイラー展開に相当する概念を見出してました
 これまた、”区分積分”という手法を駆使し、logという対数が登場する辺りも、ゼータ関数にぐっと近付いてくるのが目に見えるようです。イラスト左上の神父みたいな人です。
 この証明は、交代級数を以下の様に、
1−1/2+1/3−1/4+・・・=Σₖ[1,∞](−1)ᵏ⁻¹/k
=Σₖ[1,n]1/(n+k)と巧く変形します。
 これは、Σₖ[1,2n](−1)ᵏ⁻¹/k=
{Σₖ[1,2n](−1)ᵏ⁻¹/k+2Σₖ[1,n]1/2k}−2Σₖ[1,n]1/2k
=Σₖ[1,2n]1/k−Σₖ[1,n]1/k=Σₖ[1,n]1/(n+k)によりますね。
 上の式だけでは少し判りづらいので、n=2の時を考えると、1−1/2+1/3−1/4
=((1−1/2+1/3−1/4)+2(1/2+1/4))−2(1/2+1/4)
=(1+1/2+1/3+1/4)−(1+1/2)=1/3+1/4となるので、上の式が理解出来ます。

 故に、Σₖ[1,n]1/(n+k)=Σₖ[1,2n](−1)ᵏ⁻¹/k
=•••=Σₖ[1,∞](−1)ᵏ⁻¹/k=1−1/2+1/3−1/4+•••となります。
 ここで、lim(n→∞)Σₖ[1,∞]1/(n+k)
=lim(n→∞)1/n*Σₖ[1,∞]1/(1+k/n)。
 ここで区分積分法”より、x=k/nと置くと、0<x<1の範囲で、lim(n→∞)1/n*Σₖ[1,∞]1/(1+k/n)
=∫ₓ[0,1]1/(1+x)dx=log(1+x)[x=0,1]=log2−log1=log2を得ます。
 以上より、1−1/2+1/3−1/4+・・•=log2となり、証明終りです。
 因みに区分積分法とは、
S=lim(n→∞)1/n*Σₖ[0,∞]f(k/n)=∫ₓ[0,1]f(x)dxで表せ、積分区間の面積を極細の長方形で刻み、求める手法
です。

 とにかく、数学は書いて覚える事です。考える前に書いてイメージする事が大切ですよ。逆を言えば、書かない限りイメージする事は不可能です。黒川博士も嘆いてますが、”解らないと嘆く前に書け”と。
 上の証明も書いてみれば、意外に簡単なもんです。読むだけでマスター出来る程、数学は甘くはないんですよ。案ずるより産むが易しですかね。


美しき調和級数とゼータの起源

 上述した様に、マータヴァもメルカトルも、テイラー展開の概念を先取りしてたんですね。まさに、現代の驚異を凌ぐ驚異です。
 故にゼータ関数に、テイラー展開の公式が何度も腐るほど登場するのも頷けます。

 オーレムがマータヴァやメルカトルと異なる所は、微積分を用いず、足し算だけで”調和級数の発散”を証明してる所です。
 ”リーマン教授”に言わせると、この美しき調和級数の発散(オーレムの定理)こそがゼータの起源であると。

 一方で現代数学の原点が、ゼータの起源の先駆者の一人でもあるマータヴァを生んだインドにあったというのも、正直驚きです。
 それに、ギリシャに始まり、フランス(オーレム)、ドイツ(メルカトル)、インド(マータヴァ)の4つの国が、現代数学の基盤を築いた事実も見逃せないですね。 

 前回のプロローグでも述べましたが、オイラーは、このオーレムの”美しき”調和級数にヒントを得て、”オイラー積”Π(p:素数)pⁿ/(pⁿ−1)、という数学史上最大の発見の一つに漕ぎ着け、ゼータ関数を発見したんです。
 ζ(1)=1+1/2+1/3+•••=∞というオーレムの調和級数と、ζ(n)=1+1/2ⁿ+1/3ⁿ+•••=2ⁿ/(2ⁿ−1)•3ⁿ/(3ⁿ−1)•5ⁿ/(5ⁿ−1)•••である”オイラー積”を比較すると、素数が無限に存在する事が証明できますが。それは、オイラー積が”素数全体に渡る積”だからです。
 これは、仮に素数が有限個なら、オイラー積も有限個の積となり、ζ(1)も有限となり、オーレムが発見した調和級数である、ζ(1)=∞に矛盾するからです。故に、素数は無限に存在するんです。
 故に、オイラーの積が素数の謎と結びつき、ゼータに繋がるのが理解できましたね。
 ”自然数の逆数の和”という調和級数が”ゼータの起源”である事実と、オイラー積のお陰で、素数が無限に存在する事を自明な形で証明できたという、2つの事をよく理解しときましょう。 

 という事で次回は、”素数の謎”を探る為にギリシャ時代の数学に舞い戻ります。



10 コメント

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シーズン2登場 (paulkuroneko)
2018-09-24 03:01:28
いよいよ、シーズン2の始まりですね。

解析接続に始まり、ゼータの起源に舞い戻り、素数の謎に突入する。中々渋い演出です。

現代数学が素数という摩訶不思議な数字に長い間振り回されてたとは、少し驚きです。

ゼータという謎多き厄介な関数の起源が、自然数の逆数の和である調和級数だったというのも、非常にロマンチックですね。

リーマンの謎は、ゼータの謎であり、素数の謎だったんです。なるほどです。
数学者はエイリアン (tomas)
2018-09-24 04:49:11
おはようございます。

転んださんも落ちこぼれだったんですね。私と同じです。気分悪くしないで下さい。

私も大学の数学はチンプンカンプンでしたよ。数学の教授がエイリアンに見えたもの。人間には見えなかった。当時はパソコンとかネットとか今みたいにポピュラーじゃなかったから余計に。

でも、何時から目覚めたんですか?急にですが?
何かキッカケがあったんですか?

オイラーもリーマンもケプラーも、大学を卒業する頃から、急に数学に目覚めたんですよね。閃きとか神のお告げとかあったんですかね。でないと、いくら数学素人とはいえ、これだけのものは書けんでしょう。謙遜を含んだとしてもです。

私は一向に閃きませんがね。という事で、転んださんがエイリアンになりませんように祈ってます。
Re.調和級数の起源 (lemonwater2017)
2018-09-24 19:31:35
paulさん、こんばんはです。

 自然数の逆数の和がゼータの起源とは、出来過ぎというか。美しすぎるというか。だから、数学は天才を魅了するんですかね。

 それに、オイラー積も人類が生み出した最高に美しい発見の一つでもありますね。

 次回は、ギリシャ時代にワープし、素数の求め方を書く予定ですが。これも中々ユニークで楽しいです。

 今後も宜しくですね。
Re.キッカケは? (lemonwater2017)
2018-09-24 19:39:39
tomasさん、久し振りですかね。こんばんはです。

 ホントに、あれだけ毛嫌いしてた数学なんですが。50を超えて、のめり込むとは。ま限界もあるんですが。趣味と思って、気楽に構えて行きたいと思います。本気になった時点で、崩壊しますから(笑)。

 でも、日本だけでなく、世界の数学の教育は硬過ぎるというか、バカ正直過ぎるというか。もっともっと自由度と柔軟性が欲しいですね。

 その2の2は、素数について学ぼうですが。これはホント面白いです。素数の謎がリーマン予想に結び付いたのも頷けますよ。
Unicodeの不完全さと絵文字の充実 (paulkuroneko)
2018-09-26 01:04:12
こんばんわ。

転んださんも大変ですね。文字化けの修正に追われますね。

私も殆どAndroidスマホに頼りきりで、PCはあんまり見ないのですが。AndroidとPC間(Windows)で、またスマホとタブレット間では、Unicodeも特殊すぎる記号に関しては、文字化けするあるみたいです。

iPhoneとAndroid間での、コード違いというのは有名ですが。それだけiPhoneのOSが優位であるのかもしれませんが。

AndroidとWindowsやタブレット間でUnicodeの文字化けがあるのは、まだ、AndroidOSが熟成しきれてないというか。古い世代のガラケーやタブレットで文字化けするなら、理解できますが。

数理系のブログがポピュラーになりきれないのも、こういった所に問題があるんでしょうか。




となると、ボチボチ文字化けしますね。
Re:Unicodeの不完全さと絵文字の充実 (lemonwater2017)
2018-09-26 02:26:47
paulさん、こんばんはです。

毎回ご心配頂いて有難う御座います。

 今、パソコンが2台とも壊れてて、文字化けを確認する事が出来なかったんですが。
 偶々、家電量販店のPCブースを覗き、自分のブログを見たら、文字化けしてるではありませんか。

 もうガックリですよ。苦心して、Unicode表を調べ、特殊記号を組合せた結果がコレですもん。怒りを通り越してますね。

 せめて、Σと∫はチャンとしたものをね。基本的な公式すら満足に書けないんですから。数学はまだまだ舐められてますね。絵文字以下の扱いですもん。

 ホント、paulサン位ですよ、同調してくれるのは。悲しい限りの夜でした。
オーレムの定理 (hitman )
2019-02-18 07:20:06
オーレムの定理だけはよく理解できました。でもこんな単純な級数が、ゼータの期限だとは。転んだサン言うように、数学って美しくシンプルにできてるんですね。イヤアー、感心、歓心、関心です。

それに凄くイケメンですね。フランスが数学の国であるのも理解できます。

ギリシャで発祥し、フランスで完成され、インドで熟成したってことなんですかね。

いつもこんな美しい単純な数学なら、いつでもOKですけど。

イラストがgoo (HooRoo)
2019-02-18 09:40:21
この本のカバーデザインてこんな感じなの?だいたい数学の本てカバーが冷たすぎるよ。転んだサンのイラストを参考にすればいいのにね。

ピタゴラスって名前だけは聞いた事あるけど、数学の父みたいな存在ね。でも素数が無限大あることを証明するのに2000年以上も掛かったなんて、それまで数学者は何してたの?

結局ゼータ関数の出現を待つしかなかったの?オーレムがオイラーがいなかったら数学もなかったの?

何だか転んだサンが、ゼータ関数にのめり込むのも、わからない気もしないわね。

では、バイバイね。
Re.オーレムの定理 (lemonwater2017)
2019-02-18 14:06:31
全ては、シンプルなものが起源になるんですね。シンプルイズベストは、いつの世も格言の王道です。

中世のヨーロッパにおいて、数学は学問の王様だったんですかね。結構なイケメン多い様な気がします。

素数とゼータ関数の繋がりを理解してもらって、ありがとうです。励みになります。
Re.イラストがgoo (lemonwater2017)
2019-02-18 14:13:02
自分ながら、このカバーデザインは良く出来てると思います。どうしても学術本は、カバーがそっけなくなりますもんね。

売る事が目的ではなく、遺す事が目的なので、Hoo嬢が嘆く様なデザインになるんですがね。

元々、数学は数論から始まり、長い間その領域から抜けられなかったんですが。リーマンがゼータを確立し、カントールが実数の定義を自明化した辺りから、急速に発展したみたいですが。

数学はそれだけややこしく、取っ付き難い学問なんですよ。

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