中東が適度に不安定な方が好都合な奴らがいる

中東が適度に不安定な方が好都合な奴らがいる

 

大局的にみると、中東が不安定であることは米国の国益になる

先日、以下の記事でソレイマニ司令官暗殺における米国(およびイスラエル)の目的について、個人的に纏めました。

米国によるソレイマニ司令官の暗殺について見解をまとめておきます

今回はその記事の続きです。

 

よくニュースなどの解説をみていると

「中東の安定化が米国の国益になる」

かのように解説されることがあります。

それを鵜呑みにしていると、今回の一連の流れが見えなくなると思います。

 

たしかに、以前は「中東の安定」が米国の国益になりました。

しかし、現在はそうともいえません。

というより、不安定である方が都合がいい・・・そう判断している可能性があります。

今回はそう考える根拠について、いくつか挙げていきます。

 

 

1.イスラエルにとって最大の脅威はイラン

まず第一に、米国の同盟国イスラエルについて。

イスラエルがなぜ米国の同盟国なのかについては、長い歴史があるので端折ります。

端的に言えば、ユダヤ資本によるロビイングのおかげです。

 

で、このイスラエルにとって、最大の脅威はイランです。

中東における脅威というと、多くの人はISISを思い浮かべるでしょうが、ISISはイスラエルを攻撃する能力はありません。

他のことで精いっぱいです。

いっぽうイランは、捨て身で攻撃しようと思えば攻撃できないわけじゃありません。

 

で、イランは核兵器を目下開発しています。

弾道ミサイルも開発しています。

イスラエルにとっては非常に脅威なわけです。

 

前回の記事で、

「アメリカ(というよりその背後のイスラエル)の目的はイランの核関連施設やミサイル基地の破壊だろう」

ということは書きました。

イスラエルは、ISISやヒズボラからの攻撃ならそれなり防げます。

迎撃システムもしっかり作ってあり、短距離ミサイルもガンガン撃ち落としています。

しかし、イランから核兵器が飛んでくるのはさすがにやばい。

その脅威を取り除きたい。

そのためにイランの核関連施設とミサイル基地は破壊したい。

自分だけじゃ一気に攻撃できそうにないから、アメリカにもお願いしている・・・そんなところだろうとみています。

 

 

2.イランと米国が衝突すればISISにはメリットがある

今回の件でアメリカとイランの戦闘がどの程度激化するかにもよりますが、

双方の戦闘が本格的に激化すれば、ISISなどが復活する可能性もあります。(全く別の組織が台頭する可能性もあります。)

 

今まで対ISISの作戦で大きな貢献をしていたイランとアメリカがともに対ISISへのプレッシャーを失えばどうなるかは自明です。

また、米兵の死傷者が増えればイラク撤退を求める米国内からの声が大きくなるでしょうし、

イラク政府としても自国領内から米兵を撤退させようとするでしょう。(すでに議会はその方針で決議しているようですが。)

 

それらによって一番の恩恵を受けるのはISISです。

ISISが活発に活動するようになり困るのは中東地域全体です。

 

 

3.中東の混乱はイスラエルの一強ぶりを際立たせる

イスラエルにとって、ISISの台頭はもちろんデメリットもありますが、メリットも大きいのではないかと自分はみています。

端的に言えば、周囲の国が疲弊していき、イスラエルの一強を際立たせることになる可能性を考えています。

 

また、周辺国家は君主制および独裁制の国だらけ。

民主的活動であるISISなどに対抗し、体制を維持するためにアメリカへの依存を高める展開は十分に予想できます。

そのときに中東において一番大きな顔役になれるのは、イスラエルです。

 

・・・そういった展開もなきにしもあらずではないかとみています。

 

4.中東の混乱によるエネルギー価格上昇は米国エネルギー産業にとってプラス

米国のエネルギー産業の多くは、既に中東地域の権益比率を大きく引き下げています。

かわって比率が上昇しているのが米国内のシェール由来のエネルギー源。

そして、近年ではヘスやエクソンによるガイアナ沖や、アパッチによるスリナム沖油田の発見・開発も進みそうな情勢です。

中東の混乱は、米エネルギー産業にとって悪くない状況となりつつあります。

 

余談になりますが、一時期は、欧米資本もイラク北部の油田権益を狙っていました。

しかし、その権益管理を任せようとしていたクルドとの関係が悪化。

イラク政府も、トルコも、シリアなどももちろん非協力的であり、カネになる気がしません。

こういった点も、中東不安定化を推し進める要素となるかもしれません。

 

 

5.中東、ペルシャ湾の混乱で一番困るのは中国。米国にとってはポジティブ

今回の件で忘れてはならないのはペルシャ湾でしょう。

とくにホルムズ海峡は中東各国から積み出された原油が通るポイント。

世界の石油輸送の約30~35%、日本に輸入される原油の約8割が通過するといわれています。

よって、チョークポイントとも言われます。

直訳すれば窒息地点でしょうか。

 

また、日本も影響を受けますが、同じく中国も多大な影響を受けます。

 

ご存知の通り、米政府は昨年から中国への関税引き上げを強化しています。

背景にあるのは米国による覇権主義であり、中国を二番手として封じ込めておきたいという意図でしょう。

中東が混乱し、ペルシャ湾の航行が不安定化すれば、原油の輸送コストが上昇します。

それによって一番大きな影響を受けるのは日本や中国などの東アジア諸国です。

中国を封じ込めたいアメリカにとっては、これは国益にかないます。

 

6.日本は掃海艇の派遣などで旗色を示さざるを得なくなる可能性

また、もしイランと米国との戦闘が激化した場合、ペルシャ湾内に機雷が漂う可能性もありえますし、

さらに不安定化すれば、海賊が出るような状況になる可能性もあります。

 

機雷除去や護送体制の構築のために、日本はペルシャ湾内への海上自衛隊派遣を行わざるを得なくなる可能性はあります。

それはつまり、米国の同盟国として旗色を示すということ。

それは、米国の国益にもかないます。

日本にとっては、米国への依存度が高まり、選択肢が狭まります。

全くいいことなしです。

 

 

性善説に立って外交を眺めると阿呆をみる

以上の観点からみて、中東の不安定化を求める奴らがいる、と自分は見ています。

ニュースなどをみていると

「平和=すべての人々の利益」

「政府=国民のために最善をつくす機関」

という前提で解説が行われることが多いです。

また、メリットデメリットだけで解説を行う解説者も多い。

そういうのは、無能だと思います。

 

重要なのは、行動の後ろ側にある意図です。

一見、何のメリットもないような行動でも、周辺要素を含めてよくよく考えれば、じつは利害まみれのものがあります。

その利害が、特定の集団にのみ発生している場合もあります。

そこらへんに注意しながらみていけば、自ずと方向性はみえてくるのではないか、と思ってみています。

とりあえず、以上です。