創作小説「宇宙人にはわかるまい3<その1>」

ぽんぽんと書いているうちに楽しくなってきました。


    3.月夜の散歩<その1>


 夢を見ていた。夢の中では宇宙人の姿を現した鈴木くんが人々に襲い掛かっていた。緑色の肌に真っ白な髪。つんと尖った耳。その姿を見たわたしは、なるほど宇宙人だ、と思った。なんかああいうの、映画で観たことあるし。
    鈴木くんは玩具みたいな銃をぶっ放し、B級映画のごとく派手に暴れまわっていた。あちこちで爆発が起こる。人々は悲鳴を上げながら逃げ惑い、鈴木くんは高笑いをしながら実に楽しそうに人々をぶっ殺していた。
    それをぼんやりと眺めながら、鈴木くんは地球を侵略するのが目的だったんだろうか、と思った。穏やかで、いつもにこにこしていた人間の姿の鈴木くんを思い浮かべる。なんだか人間の時の鈴木くんとのギャップがすごい。正体を隠していたのだから当然なのかもしれないけれど、宇宙人の鈴木くんはあまりにも暴れん坊過ぎる。やり過ぎだ。
    鈴木くんは「ひゃっほーい!」と至極楽しげに残虐の限りを尽くしている。思わず、そこいらでやめときなさい、とわたしは鈴木くんに声を掛けた。鈴木くんは途端にいつもの可愛い笑顔に戻って、佐藤さん、とわたしを呼んだ。


「佐藤さん」
 鈴木くんがわたしを呼んでいる。気がつけば、すぐ目の前に誰かの顔があった。最初は暗くてよくわからなかったけれど、鈴木くんだ、と思った。むくり、とわたしは起き上がる。眠い目を擦りながら、鈴木くんの暴走を止めなくては、と懸命に口を動かす。
「地球を侵略なんかしたってたいして面白くもなんともないと思うからやめておきなよ」
    なにそれ?と鈴木くんが首を傾げる。いつもの鈴木くんだ。暴れ回るのはやめたのだろうか。よかったよかった、と思ってふと我に返る。あ、夢か。夢を見ていたんだ。ということは、これも夢だろうか。暫くの間、ぼんやりとしながら鈴木くんの顔を眺めていた。段々と目が覚めてきて、あ、これは夢じゃないのか、と気づいた。常夜灯しかついていない部屋の中は、まだ薄暗い。ということは夜中だろうか。なぜ鈴木くんが真夜中にわたしの部屋の中にいるのだろう。
「…なにしてるの」
 わたしは目を白黒させながら、鈴木くんに問う。
「遊びに来た」
 にこにこと鈴木くんは言い放った。枕元の時計に目を遣れば、深夜の二時だった。…宇宙人に地球の常識を説いてみたところで仕方がないのだろうな、とわたしは諦めた。
「遊びに行こうよ」
 あのねえ、とさすがに文句を言おうとして、鈴木くんが、ほら、とわたしの手を引いた。ほらと言われても。渋々起き上がりながら再度文句を言おうと口を開きかけたわたしの手を引きながら、あろうことか鈴木くんは開いていた窓から(おそらくここから侵入してきたのだろう。鍵は閉めていたはずだけれど)身を乗り出した。一瞬無理心中でも図ろうとでもいうのだろうかと思ったけれど、どうやら違うらしい。窓の外に飛び出した鈴木くんは、ふわふわと宙に浮いている。…さすが宇宙人。やることが大胆だ。しみじみと、そう思った。
「佐藤さん」
 身体をふわふわと暗闇の中に漂わせながら、鈴木くんはにっこりと笑った。そうしてわたしの手をにぎにぎしながら、言った。
「ちょっと散歩しようよ」
 自分が置かれている状況を整理してみる。宇宙人と月夜のデート。少女漫画かよ、と思った。呆然とするわたしに構うことなく、鈴木くんは人様の家の屋根の上を楽しそうにジャンプする。釣られてわたしもふわふわと浮きながら、こわごわと足を跳ねさせる。…ちょっと楽しいかもしれない。なんだかシュールな光景だ。隣を歩く鈴木くんの顔と繋いだ手を交互に見つめ、再びわたしは少女漫画かよ、と思った。


続きます。

少女漫画少女漫画と唱えながら書いています。



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