創作小説「宇宙人にはわかるまい3<その2>」


    3.月夜の散歩<2>


「夜のお散歩なんてロマンチックだよね」
 にこにこと笑って鈴木くんが言う。
「…そういうことを一体どこで覚えてくるのかな」
 なんだかげんなりして、わたしは鈴木くんに向かってそう訊ねた。
「映画とか、本とか、女の子たちの会話とか」
 ふと湧いた疑問を鈴木くんに投げかける。
「鈴木くんはさ、なんでわたしに構うの?」
 鈴木くんと親密(?)になってから、既に一週間が経過していた。通常なら相手が変わる時期である。気がつけば鈴木くんの隣にいる女の子が変わっていたなんてことはしょっちゅうだった。…まあ、わたしたちは付き合っているわけではないのだから、当てはまらないのかもしれないけれど。
「佐藤さんのことが気に入ったから」
  あっけらかんと鈴木くんは言い放つ。
「えっ、なんで?」
 驚いてまじまじと鈴木くんを見る。なにを言っているんだろう、この宇宙人は。
「僕の正体をさらりと見破って、なのに平然としているところ。面白い人間もいるもんだなーって」
    あと、と鈴木くんは自分自身を指差し言った。
「僕の本体である鈴木くんが佐藤さんのことを好ましく思っていたからかもしれないね」
「えっ、鈴木くんって人間なの?」
「ちょっと借りてる」
 ちょっと借りてる。なんだそれは。
「といっても鈴木くんの魂はなくなってしまったから、身体だけだよ」
「えっ、どういうこと?」
「鈴木くんはずっと病気で、ある時死にかけてた。その時に丁度通りかかったんだ。入れ物を探していたからラッキーだった。鈴木くんの魂が身体から離れる瞬間に、僕が入り込んだ」
 ということは、宇宙人には実体がないということだろうか。
「今でも少しだけ鈴木くんの魂は残っているみたい。だから、鈴木くんの好きなものとか嫌いなものとかが、僕の中に入り込んでくるんだ」
 そういえば、昔の鈴木くんは今のようにきらきらとした目立つ人間ではなかったような気がする。もう少し普通の人、といった印象だった。そういえば、確かに病気が悪化して入院していたはずだ。退院してきたかと思ったら、今の鈴木くんになっていた。どうして忘れていたのだろう、と思って、宇宙人だから印象を操作することもできるのだろう、と納得する。以前の鈴木くんとも、そんなに接点はなかったような気がする。わたしが覚えていないだけかもしれないけれど。
    それにしても、奇特な人もいるもんだ、と思った。わたしは自分で言うのもなんだけれど、これといって特徴のないどこにでもいる平々凡々な人間だ。まあ、世の中にはそういうなんの特徴もない平々凡々な人間が好きだという人間もそりゃいるのだろうけれども。わたし自身、鈴木くんのような(偽者の方だ)目立つようなタイプは本来苦手である。ひっそりと生きていきたいと常々思っているわたしにとって、鈴木くんのような人間は天敵である。もしかしたら本体の鈴木くんもそういうタイプなのかもしれない。
「あ、今鈴木くんが照れた」
 あはは、と鈴木くん(偽者)が笑う。
「それに佐藤さんに勝手に告白したからちょっと怒ってるみたい」
 わたしは首を傾げる。
「鈴木くんの意識って、今どこにあるの?」
「ここにあるよ」
 胸の辺りを指して、鈴木くんが言う。なんだか複雑だなあ、と思った。 


続きます。



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