わたしにとって、復讐とはどこまでも自分だけのために行うものだ。自分がすっきりするためのもの。すっきりするっていうのは、人が生きていく上でとても大切で重要な事だと私は思う。
渡辺優『ラメルノエリキサ』を読みました。
ご存じでしょうか?
第28回小説すばる新人賞を受賞した作品であり、作者渡辺優の処女作です。
集英社の小説すばる新人賞といえば、ぼくが大ファンである村山由佳さんをはじめ、花村萬月、篠田節子、荻原浩、堂場瞬一、朝井リョウ、櫛木理宇など、次々とベストセラー作家を輩出する信頼性の高い賞として知られています。
第28回はその中でも2015年と、比較的最近に選ばれた受賞作品という事になります。
ある意味新人賞はそのレーベルがどんな作品、どんな人材を求めているのか、どんなカラーを打ち出していきたいのかを示す指針とも言えます。
さて、『ラメルノエリキサ』はどんな作品だったのでしょうか。
復讐の物語
主人公の女子高生・小峰りなは復讐に対して異常なほどに執着を見せる変わった性癖の持ち主です。
彼女がまだ6歳の頃には、自宅の飼い猫を傷つけられた復讐に、犯人である7歳の女の子を階段から突き落とすという恐ろしいエピソードが冒頭で語られます。その後も年上女性と浮気関係を結んだ元カレのスマホを盗み、相手とのエロトークをクラス中に拡散するなど、いったん復讐を志せばタガが外れたようなとんでもない行動に出るのが特徴。
そんな彼女は、ある日、路上で誰かに刺されます。
犯人が言い残したのが、
「ラメルノエリキサのためなんです、すみません」
という言葉。
私は「ラメルノエリキサ」という言葉を手がかりに、犯人を探し出すべく動き出します。
警察に突き出したり、犯罪を糾弾するのではなく、直接的に犯人に復讐するためです。
推理小説ではない
上記のようなあらすじのため、本書を「推理小説」という認識で読まれる方も少なくないようです。その上で「つまらなかった」「くだらなかった」的なレビューが下されているも散見されます。
ただし、一応弁明しておきます。
本署は推理小説ではありません。
そもそも小説すばる新人賞ですからね。比較的エンタメよりの賞であることは間違いありませんが、どんでん返しやアッと驚くような仕掛けを期待する作品ではないのです。
むしろそういう作品であれば受賞に輝くようなことはなかったでしょう。
犯人探しや真相などといういうのは、あくまで要素でしかありません。物足りないのは当たり前です。だってそういう物語じゃないのだから。
じゃあ何なのかと言えば、「小説すばる新人賞」に向けて書かれた物語だよ、としか言いようがないのですが。
ぼく個人の見解では、一風変わった若者の生々しい嗜好や感情を瑞々しく描き出した作品が受賞しやすい傾向にある、と思っています。
その意味では渡辺優という作者の力量はすさまじいものです。
主人公りなはかなり変わった人物ですが、うまく彼女の人間性を捉えた上で、うすら気持ち悪く感じるぐらいに生々しい人物像を描き出しています。文章のリズム感や言い回しもとても気持ちいい。特に大がかりな仕掛けがあるわけでもないのに、グイグイ読ませてくれます。
選考会で宮部みゆきに「私はこの作品と心中します」と言わしめたというエピソードも納得のものです。
その他、住野よるさんもTwitterで下記のような投稿をしたとか(←現在はアカウントごと削除済み)
あくまで個人の感想なのですが、十代のバンドみたいな最強感と自意識と疑心の詰まったすごくいい小説に出会いましたので紹介させてください、渡辺優先生著作「ラメルノエリキサ」です。小説全編通してのドヤ感がたまらなくいいです。ぞくぞくします!
”十代のバンドみたいな最強感”という表現にはまさに納得です。
小説すばる新人賞もそういう点を評価されての受賞だったのでしょうね。
……まぁ、逆に言うと”十代のバンドみたいな最強感”のような作品が苦手という人には絶対的に合わないでしょう。老成したベテラン作家が書くこなれた作品とは対極にある作品です。
しかしながらやはり個人的にはこれほど小説すばる新人賞らしい作品も近頃では珍しいなぁ、と思った次第ですので、そのあたりに興味のある方は是非ご一読を。
……あとカバー絵だけはもうちょっとなんとかならなかったモノかなぁ。