現在全世界で猛威を振るっているコロナウイルスによる新型肺炎(COVID-19)ですが、当院でも毎日の様に心配の声や質問が寄せられます。

 

特に多いのが、妊娠していてコロナウイルスに感染したらどうなるのか?といった質問です。

 

もちろん新しい病気のため、はっきりした事はまだ誰にも分かりませんが、最近COVID-19に罹患した妊婦に関する論文が発表されましたので情報共有のために紹介したいと思います。


なお、COVID-19とはCOronaVIrus Disease-2019の略で2019年型コロナウイルス感染症の意味です。

ちなみに2003年に流行したSARSもコロナウイルスによる呼吸器感染症でした。


Clinical characteristics and intrauterine vertical transmission potential of COVID-19 infection in nine pregnant women: a retrospective review of medical records 

(COVID-19に罹患した妊婦9症例の臨床症状と子宮内垂直感染の可能性について:カルテの解析)
 

これは武漢大学病院のチェン氏らによって2020年2月にLancet誌に報告された論文です。

オープンアクセスとなっていますので、誰でも閲覧する事ができます。


この論文ではCOVID-19肺炎に罹患した妊娠後期(28-39週)の妊婦9人の臨床経過と赤ちゃんの感染の有無を調べています。

診断は肺炎症状とPCRによるコロナウイルスの検出によって確定されています。
 

 

表に9人のバックグラウンドと症状についてまとめてあります。

初診日は2020/1/20~1/30で初診時の週数は36週0日から39週4日でした。

9人全員が1週間以内に出産しているようです。

症状をみると、やはり発熱が最も多く78%で認めています。

 

 

 

 

 

続いての表では臨床経過をまとめてあります。

8人(89%)においてCTでウイルス性肺炎の所見(多発するすりガラス影)を認めています。

 

出産方法では全員が帝王切開となっています。

帝王切開になった理由としては早期破水や帝王切開の既往なども書いてありますが、COVID-19肺炎単独でも帝王切開の適応としているようです。

 

出産後の母体治療としては、全員が酸素投与を行われていますが、経鼻カヌラの使用ということなので、人工呼吸器までは使用していない様です。

6人(67%)の患者には抗ウイルス剤が投与されているようですが、何の抗ウイルス剤かは記載されていませんでした。

全員に抗生剤が使用されていますが、これは予防抗菌剤との記載でしたので、帝王切開を行った場合は通常投与される抗生剤と思われます。

 

重症肺炎や多臓器不全の際に使用されるステロイド製剤については使用症例はなかったようです。

 

 

 

最後に生まれてきた新生児の経過をまとめてあります。

 

妊娠37週以前の出産は4例(44%)ありますが、いずれも36週での出産で2500g以下の低出生体重は2例(22%)でした。

出産時の新生児の健康状態をはかるアプガースコアに関しては、全て正常の8点以上で胎児仮死や新生児死亡なども認めていません。

 


ということで、結論としては


COVID-19肺炎による新生児への影響はなかった。
 

という事でした。


今回の報告では、羊水や臍帯血、母乳についてもウイルス検査を行っていますが、いずれもコロナウイルスは検出されていないとのことです。

 

ただ、膣や産道のサンプルは採取していないとのことで、経腟分娩を選択していた場合に感染を防げたかは分かりません。


また、今回の報告では全員出産間近での感染になるため、妊娠初期や中期にCOVID-19に感染した場合に新生児に影響がないかどうかは分かりません。

 

論文においても、風疹の様に妊娠初期に罹患した場合に新生児に影響があるウイルスもあるので、今後の報告に注視するよう考察されています。

 


妊娠初期や中期の報告については、今後半年以内に発表されるでしょうが、それまでにこの非常事態が収束している事を願っています。皆さんも手洗い、うがい等続けていただき、くれぐれもお気をつけください。
 

 

 

(文責:[医師部門] 江夏 徳寿 [理事長] 塩谷 雅英)

 

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