リハログ

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はじめまして。yusukeです。柔道整復師/鍼灸師/理学療法士 3つの資格を取得。各種養成校の学生向けに「リハログ」を運営しています。30代一児の父として頑張っています。

【理学療法士】急性期に実習にいく学生さんへ。脳梗塞急性期のリスク管理の概要まとめ。

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脳梗塞の急性期ではリスク管理がまず重要になります。

特に超急性期では多くの患者さんでは意識障害があり、コミュニケーションが十分にとれません。

その中で、患者さん状態を把握するためにはバイタルの内容を理解することが重要となってきます。

その上でリハを実施するかどうかの判断をしていくことになります。

 

今回は脳梗塞後に把握しておかなければならないバイタルサインについて、概要レベルですがまとめます。

 

 

 

バイタルサインとは

バイタルサインとは「生命徴候」のことで、客観的に状態を数値化できる血圧、脈拍、呼吸、体温のことを言います。

急性期の環境では場合によってはモニターで管理されていたりする場合もあり、主に看護師さんが管理されています。

 

しかし、理学療法士にとってもバイタルサインは重要な指標になります。

なぜなら離床を含めたリハビリのすべては多かれ少なかれ身体に負荷をかけるものであり、身体状況が変動するからです。

 

つまり、身体状況を把握することはリハビリを安全に進める上でまず最低限必要になってきます。これを管理することが患者さんに最適なリハを実施する第一歩になるのです。 

 

しかし、この管理や判断が、とても難しいことに気づいたのは臨床に出てからです。

なぜなら学生時代はanderson・土肥の基準や、リハ安全ガイドラインの中止基準などを目安にして、基準内なのか基準外なのかで判断することが許されました。

 

しかし臨床ではこのような基準で判断することはありません。

 

臨床では基準はあくまで目安にすぎず、医師の指示の把握や、医学的管理の状況を理解した上での個別のリスク管理が求められます。

 

そのためバイタルサインの数値そのものより、なぜその数値になっているのか病態の把握が重要になってきます。

 

つまりバイタルサイン単体で把握するのではなく、脳画像や血液データなどの基本的情報や看護記録による状態の変化と一緒に数値を解釈していく必要があります。

また、実際にリハを実施するかどうか判断するには患者さんをみて著変がないかを確認することが重要です。

 

バイタルサインはあくまでひとつの情報に過ぎないということがポイントです。

 

ではバイタルサインの各項目は、脳梗塞後の管理ではどのような意味を持つのか考えてみます。

 

血圧(BP)はなぜ測るの?

血圧の正常値は収縮期100~129mmHg、拡張期80~84mmHgです。

収縮期130~139mmHg、拡張期85~89mmHgは正常高血圧といわれ高血圧になりかけている状態に分類され、それ以上は「高血圧」になります。

 

また収縮期100mmHg以下、拡張期60mmHg以下は「低血圧」に分類されます。

しかし、これはあくまでこの正常血圧(あるいは至適血圧:収縮期120mmHg、拡張期80mmHg)を越えると全身の血管病変である脳卒中心筋梗塞、腎疾患などのリスクが上がるという目安に過ぎません。

 

そのため、脳卒中後の血圧管理ではこの正常値の理解では対応しきれません。

実際容易にこの数値を越え、医師の指示をもとに個人ごとに管理して理学療法を進める必要があります。

 

また脳卒中といっても、じつは一般的に脳梗塞脳出血では管理に違いがあります。

脳梗塞では200±15mmHg程度まで降圧せず、高めで維持します。

それに対して脳出血では160~180mmHg程度で降圧療法を積極的に行うという特徴があります。

これはなぜかというと、脳出血の場合は降圧する方が、血腫の増大を抑制できるためです。 

 

なので脳梗塞ではかなり高い血圧で管理する場合も多く、その状態でリハ実施の判断をしなければいけません。

 

といっても先ほどの中止基準の話と一緒で、臨床では個別の判断が必要になってくるため、医師の指示を確認しながら進めていかなければいけません。

この数値に当てはめてすべてのケースを管理できるようなものではないということが重要です。

 

高すぎる場合は投薬による降圧が行われる場合が多く、医師が指定した範囲内で管理し、場合によっては医師にリハ実施の相談をする必要があります。

 

でもじつは血圧管理で重要なのは、リハ実施中の「血圧低下の管理」です。

 

脳梗塞の急性期では「脳血流自動調節能」が機能しなくなります。これがリハを進める上で梗塞巣を拡大してしまう原因になりうるのです。

 

この「脳血流自動調節能」とは、全身の血圧が変動してもそれに影響されず、脳の血流を常に一定に保つ機能です。

(健常者では平均血圧60~159mmHgの範囲で機能します。ちなみに平均血圧拡張期血圧+(収縮期血圧拡張期血圧)÷3で求めることができます。)

 

脳卒中の急性期では、この機能が病巣とその周辺部(ペナンブラ)で障害されます。

そのため全身の血圧変動に脳血流が影響されるようになってしまいます。

 

これがリハビリ時になぜ重要かというと、離床を進めていく際必ず体位変換を伴うため血圧変動が起きる場面があるからです。

例えば起居動作、ギャッジ座位、端座位、移乗、車椅子座位、立位とすべての段階で体位変換を伴います。

このすべての場面で起立性低血圧の原理が働き、血圧が変動しやすくなります。

 

脳血流自動調節能が破綻している状態では、起立性低血圧=脳虚血になってしまいます。

 

そして脳虚血になるとなぜいけないかというと、病巣周辺のペナンブラが梗塞となってしまい結果的に脳梗塞を拡大することになってしまいます。

 

 つまり脳虚血になっていないか確認するために、安定してない時期は血圧管理が重要になってきます。

 

どんな時に血圧低下するの?

血圧が低下する場面として、体位変換時あるいは体位変換した後が考えられます。

つまり臥位(ベッドで寝ている状態)からギャッジ座位や端座位、立位になるときです。

 

このときに重力の影響により「起立性低血圧(脳虚血)」が起こるリスクがあります。

特に脳梗塞後では脳の血流調節だけでなく、自律神経のバランスも崩れているため全身の血流調節にも影響を及ぼし、より起立性低血圧のリスクが高まっています。

 

 脳循環自動調節能の破綻は主幹動脈の梗塞では30~40日続き、分枝の梗塞でも2週間程度続きます。ラクナ梗塞でも4日、TIAでも半日程度は影響を受けるといわれています。また脳幹部の梗塞では重篤なため100日を越える場合もあります。

 

この期間は前後の数日の管理状況をみて状態が安定しているか確認しながらリハを進める必要があります。

 

起立性低血圧(脳虚血)ではどんな自覚症状があるの? 

リスク管理する上で、自覚症状とバイタルサインを合わせてチェックしておくことが重要です。また経過を追うことも重要です。

 

では、この起立性低血圧時(脳虚血時)ではどのような自覚症状があるのでしょうか。

 

たとえば目の前が霞んだり、頭がぼーっとしたりするなど健常者でもよく経験するような症状のほかに、吐き気や冷や汗、発語が少なくなったり、反応が乏しくなるなどの症状がみられる場合があります。

 

バイタル管理とともに自覚症状の有無も確認可能であればチェックする必要があります。

とはいえ急性期では意識障害が強い例も多く、必ずしも確認できない場合もあることに注意が必要です。

 

脈拍(HR、PR)はなぜ測るの?

正常値は60~100回/分です。60回/分以下が徐脈、100回/分以上は頻脈となります。

 

脳梗塞に限らず脳卒中では中枢神経が障害されることで自律神経のバランスが崩れます。そのためストレスで交感神経が過剰に反応してしまったり、体内のカテコルアミンの濃度が高まったりします。

 

この結果、不整脈や頻脈になりやすい傾向があります。

 

またこの不整脈、頻脈または徐脈がある場合、循環血液量の低下につながるため起立性低血圧が起きやすくなります。

 

また、脳梗塞は心房細動による心原性脳塞栓症の場合など、不整脈と密接に関係していることがあります。重篤不整脈のリスクがある場合は、モニター心電図で管理されているのでその把握も重要になってきます。

 

また脈を触れて不整脈の有無や変化を同時に確認することも重要です。

 

そして、多くの不整脈の中で最も危険なものを特に把握しておかないといけません。

それは心室頻拍(VT)、心室細動(VF)です。こうなってしまうと有効な心拍出は難しくなり意識は消失してしまうため、すぐにBLSを実施し、医師による除細動が必要となります。

現状の不整脈は、これらにつながる可能性があると判断されているのか、医学的管理の状況からリスクの程度を知っておくことが重要です。

 

そして、脈拍も血圧の管理と同じように、患者さんの状態をみながら管理することが大切です。

バイタルサインはその瞬間の数値の変化より、今までの経過やその数値の背景を把握しておき、患者さんのリスクを予め予測しておくことに意味があります。

 

例えば140を超えるような頻脈ではVFとなる場合があるため、リスクを予め把握したうえで、あまりに変化が大きい場合はリハを中止し医師に相談する必要があります。

 

徐脈も同様に自覚症状をみながら管理し、40以下となるような場合は心停止や意識消失を伴う場合があるので、同様に考えます。

 

いずれにしても臨床では血圧と同様に、医師の指定した範囲内で管理することが基本になります。

 

起立性低血圧(脳虚血)が起きやすい状態とは

起立性低血圧(脳虚血)のリスク管理には先ほど書いたように血圧と脈拍の管理が重要です。

 

脳梗塞では起立性低血圧が起きやすいことは書きましたが、どのような患者さんでリスクが高くなるのでしょうか。

 

起立性低血圧は自律神経が障害されて起きやすくなるため、梗塞巣が大きい場合や脳幹部に梗塞巣がある場合、その他多発性や再梗塞の場合でリスクが高くなります。

それに加えて廃用が進んでも全身の循環調節が悪くなるため、離床が遅れた場合や発症前の活動性が低い場合などでも起こりやすくなります。

 

加えて循環血液量が低下している場合でも起きやすくなるため透析患者さんや脱水、不整脈や頻脈、徐脈を呈している場合などでもリスクは高くなります。

 

これらの条件を持っている場合、血圧の変動には注意して介入しなければいけません。

 

頭蓋内圧亢進症状について

脳卒中急性期では、頭蓋内圧亢進症状にも注意が必要です。

これは例えば脳梗塞による脳浮腫や脳出血による血腫などで、頭蓋内が押し狭められ内圧が上がってしまう状態です。

 

頭蓋内は脳実質、脳脊髄液、血腫により内圧が決定します。

 

そのため主にCT画像で損傷程度や場所、midlinshift、左右の脳溝の変化などを確認しておき、リスクを予測しておくことが重要です。

それに加えて、左右の瞳孔不同の有無やCushing症候群の有無を確認する必要があります。

Cushing症候群とは徐脈でありながら血圧が上がる状態のことをいい、血圧と脈拍を管理する際知っておく必要があります。

 

またこの判断も患者さんの状態を確認することが重要で、突然の嘔吐や頭痛などに注意が必要です。(頭痛・嘔吐・うっ血乳頭が三大徴候です。うっ血乳頭は網膜中心静脈の変化なのでセラピストでは確認できないため、延髄の刺激による突然の嘔吐などが重要な所見になります。)

 

この頭蓋内圧亢進が進むと、脳は大後頭孔を越え脊髄側にまで落ち込んでしまい「脳ヘルニア」となり、最悪脳幹を刺激して生命維持ができなくなります。

 

学生時代に延髄の循環中枢・呼吸中枢・嘔吐中枢・嚥下中枢・唾液中枢・咳中枢などを暗記しましたが、脳ヘルニアに至るとこれらの障害から血圧低下や自発呼吸の停止などが起こります。

 

医師・看護師による管理は常に行われていますが、理学療法士としても介入する際にはリスクを把握しておく必要があります。

 

体温はなぜ測るの?

急性期の場面では発熱がみられることもよくあります。

一般的には38度以上ではリハを実施しないとされています。

発熱は酸素消費量の増加につながり「中枢神経障害の増悪の可能性」があるといわれています。

その機序としては代謝障害や神経伝達物質放出の増加、フリーラジカル賛成の増加などが考えられており、高体温は予後不良につながるとされています。

 

そのため、38度を超える体温では医師との相談により進めていく必要があります。

 

またこの発熱が何から生じているのかの把握も重要です。誤嚥リスクがあったりして炎症反応の値が高い患者さんでは微熱が続いているようなことも多々あります。

こういった場合、状況によっては離床して換気を上げてあげることが有効な場合もあり、単に発熱があるから中止と安易に考えないことが大切です。

 

発熱は炎症との関わりも強く血液データや胸部の画像診断がはいってないかなど合わせて確認しておきます。

 

呼吸(SPO2、呼吸数)はなぜ測るの?

呼吸については安定してない場合は常にサチュレーション(SPO2)が装着されている場合が多く、モニタリングしやすい状況である場合が多いです。

先ほどの頭蓋内圧の亢進など呼吸中枢への刺激が起これば著変するので管理が必要です。

 

また意識障害認知症があっても多くは自発呼吸はありますが、誤嚥性肺炎などのリスクがあり、痰も多くなってくると窒息のリスクなどがあります。

そのため管理が必要です。

 

また呼吸中枢への刺激があるとチェーンストークス呼吸を呈したりするため、呼吸の質や呼吸数についても注意しておく必要があります。

 

まとめ

脳梗塞急性期の理学療法では、医師による指示内容や医学的な管理状況から、患者さんの現状を把握して、どのような予後を見据えているのか把握する必要があります。

そのためにバイタルサインは必須の情報となりますが、必ず他の情報と合わせて判断する必要があります。

学生時代にはバイタルサインの数値単体で基準と照らし合わせて判断していれば許されましたが、臨床では病態の把握と医学的管理状況の理解が必要になってきます。

それは数値だけで判断するとじつは何もできなくなってしまい、ほとんど中止という判断になってしまいかねないからです。

 

最善の理学療法を提供するためにもまず安全に実施できないといけないので、リスク管理はとても重要になってきます。まだまだ勉強することは山積みですが、これからも勉強を深めていきたいと思います。