【歩行分析】歩行周期の覚え方。ポイントを絞って簡単にまとめました。
歩行周期は理学療法士であれば必修で、柔道整復師、鍼灸師でもリハビリテーション医学で一部学習すると思います。
しかし、臨床で活用するためには暗記する項目が多く、なかなか理解が難しい分野だと思います。
そこで今回は理解の助けになることを祈って要点をまとめてみました。
苦手な歩行分析のポイントをこの機会に整理してみましょう。
- 歩行周期とは
- 歩行時に必要な可動域
- 立脚相は特に重要
- イニシャルコンタクト(IC)初期接地
- ローディングレスポンス(LR)荷重応答期
- ミッドスタンス(Mst)立脚中期
- ターミナルスタンス(Tst)立脚後期
- まとめ
歩行周期とは
歩行周期とは立脚相(支えてる時期)と遊脚相(振り出している時期)からなり、片側の脚が接地してから立脚と遊脚を経てもう一度接地するまでの区間をいいます。
従来の名称とランチョ・ロス・アミーゴ式の二つの表現方法があり、現在ではランチョ・ロス・アミーゴ式が一般的です。
(ランチョ・ロス・アミーゴ式とは臨床歩行分析のメッカと言われるロサンゼルスのランチョ・ロス・アミーゴ国立リハビリテーションセンターで考えられた名称です。)
また、立脚相を5つの場面、遊脚相を3つの場面に分けて表現します。
これらの場面はそれぞれ重要な役割を持ち、これらの場面を経て歩行が達成されることを「正常歩行」といいます。
歩行分析では基本的に、この正常歩行でそれぞれの場面が役割を果たせているかを基準として評価していきます。
役割を果たせず、異なった形態で歩行していることを逸脱歩行といい、どの場面で逸脱しているのか正常歩行と比較することで判断します。
そのため、初学者はまず正常歩行について熟知することが、歩行分析する力をつける第一歩となります。
以下に立脚相、遊脚相それぞれの場面の名称をまとめます。
従来の表現 |
ランチョ・ロス・アミーゴ式 |
(立脚相) |
|
踵接地 |
初期接地:IC |
足底接地 |
荷重応答期:LR |
立脚中期 |
立脚中期:Mst |
踵離地 |
立脚終着:Tst |
足指離地 |
前遊脚期:Psw |
(遊脚相) |
|
加速期 |
遊脚初期:Isw |
遊脚中期 |
遊脚中期:Msw |
減速期 |
遊脚後期:Tsw |
歩行時に必要な可動域
ではそれぞれの場面では、どんな姿勢になるのでしょうか?
簡単にですが、場面ごとの関節の角度を整理してみました。
なかなか角度だけを見て想像できませんが、それぞれの場面での関節角度は意味があり後々おおまかに覚えておく必要があります。
また、これらの関節可動域を満たさない場合、各場面の正常な肢位がとれない原因の一つとなります。
|
股関節 |
膝関節 |
距腿関節 |
距骨下関節 |
中足趾節関節 |
IC |
屈曲20° |
屈曲5° |
中間位 |
中間位(軽度内反) |
中間位 |
LR |
屈曲20° |
屈曲15° |
底屈5° |
外反5° |
中間位 |
MSt |
中間位 |
屈曲5° |
背屈5° |
外反が減少 |
中間位 |
TSt |
伸展20° |
屈曲5° |
背屈10° |
外反2°に減少 |
伸展30° |
伸展10° |
屈曲40° |
底屈15° |
中間位 |
伸展60° |
|
ISw |
屈曲15° |
屈曲60° |
底屈5° |
中間位 |
中間位 |
MSw |
屈曲25° |
屈曲25° |
中間位 |
中間位 |
中間位 |
TSw |
屈曲20° |
屈曲0~5° |
中間位 |
中間位(軽度内反) |
伸展0~25° |
(『観察による歩行分析』訳者月城慶一・山本澄子・江原義弘・盆子原秀三 医学書院2005年p40~46)
立脚相は特に重要
急にたくさんの単語がでてきて、覚えられるかな?と思ってしまうのですが、この中にも要点があります。
ポイントは立脚相から理解を深めることです。
なぜなら片方の脚が立脚相になっている時、じつは反対の脚は遊脚相になります。
つまり、立脚相で支えられていないと、反対側の遊脚相が作れません。そのため多くはまず立脚相を評価していくことになります。
なので立脚相を集中的にまずは理解していきましょう。
今回はその中でも特に重要なIC~Tstの4つの場面に集中してまとめていきます。
また、歩行周期はそれぞれの場面が独立しているわけではなく、当然連続して起こっています。
なので暗記することが膨大に感じますが、場面ごとに記憶するのではなく、ストーリーで理解すれば覚えやすくなります。
以下にそれぞれの役割と、肢位のポイントをまとめていくので参考にして下さい。
イニシャルコンタクト(IC)初期接地
イニシャルコンタクト(以下IC)とは、歩行の最初に踵が地面に接する場面を言います。
遊脚相(振り出し)から地面に踵がついた瞬間に立脚相に切り替わりその瞬間がICです。
ICでは接地の衝撃に耐えることと、この後のLRで起こるheelrockerを効率よく働かせるための下肢のポジショニング作りが重要になります。
このときの下肢のアライメントは、「股関節屈曲20°」、「膝関節屈曲0~5°(ほぼ完全伸展位)」、「足関節中間位」、「距骨下関節外反位」です。
「股関節20°屈曲位」は遊脚期の振り出しの終了の位置が引き継がれた角度であり、仙腸関節と膝関節の安定に有利な肢位です。この肢位は大殿筋・ハムストリングスにより制御されます。
「膝関節伸展位」と踵骨外反の影響で起こる下腿内旋位の運動連鎖は靭帯による受動的な膝関節の安定性をもたらします。また大腿四頭筋や大殿筋上部の活動により膝折れを防ぎ、ハムストリングスにより反張膝を防ぎます。
「足関節中間位」は距腿関節のはまり込みによる安定化と、heelrocker機能の準備につながります。このために前脛骨筋などの足関節伸展筋の活動が重要になります。
これらにより衝撃吸収と下肢のポジショニングが達成されます。
もう少し詳細な内容は以下の記事を参考にして下さい。
ローディングレスポンス(LR)荷重応答期
ローディングレスポンス(以下LR)とは、イニシャルコンタクト(IC)の直後から始まり足底の全面が地面に接地するまでの時期となります。
LRではICで生じた衝撃を吸収することと、heel rocker機能によりスムーズに前方への推進を促すことが重要となります。
この時の下肢のアライメントは、「股関節屈曲20°」、「膝関節屈曲15~20°」、「足関節底屈5°」、「距骨下関節外反位」です。
「股関節20°屈曲位」はICからの延長で生じており、前方に崩れるのを防ぐために大殿筋の収縮が必要になってきます。
「膝関節15~20°屈曲位」は衝撃吸収で最も重要となり、heel rocker機能と連動して起こります。
この膝関節屈曲の制御のために大腿四頭筋の収縮が重要になります。
「足関節5°底屈位」は前脛骨筋により制御され、同時に下腿前傾が起こります。
これがいわゆるheel rocker機能であり、この下腿前傾により膝関節屈曲が誘発されます。
この一連の動作により衝撃吸収だけではなく、前方への推進を促します。
もう少し詳細な内容は以下の記事を参考にして下さい。
ミッドスタンス(Mst)立脚中期
ミッドスタンス(以下Mst)とは、ローディングレスポンス(LR)の後に起こり、膝関節・股関節が鉛直配列に近づき身体重心が最も上方に持ち上がる時期です。
Mstでは下腿の前傾を制御し安定した立脚を維持することと、身体重心を上方に持ち上げることが重要となります。
この時の下肢のアライメントは、「股関節屈曲0°」、「膝関節屈曲5°」、「足関節背屈5°」、「距骨下関節外反位(LRより減少)」です。
「股関節中間位」は反対側の振り出しと股関節伸展モーメントにより受動的に起こります。
前額面では外転筋群と大内転筋により骨盤の外側移動の制動と、膝関節の安定がなされ荷重が乗ってくる下肢を制御し安定した立脚を可能にします。
「膝関節5°屈曲位」はほぼ伸展位であり、反対側の振り出しと膝関節伸展モーメントにより受動的に起こります。ただし前半では大腿四頭筋による膝関節安定化が必要になります。
「足関節5°背屈位」はLRでの5°底屈位から下腿が前傾した結果であり、下腿三頭筋の制御が必須になります。これにより下腿・大腿の受動的伸展を制御し安定した立脚が可能となります。
これがいわゆるankle rocker機能であり、前方への推進力を適切にコントロールするメカニズムです。
もう少し詳細な内容は以下の記事を参考にして下さい。
ターミナルスタンス(Tst)立脚後期
ターミナルスタンス(以下Tst)とは、ミッドスタンス(Mst)の後に起こり、股関節伸展と共に足関節では踵が浮き上がり、いわゆる「蹴り出し」が起こる時期です。
Mstで身体重心が最も上方に持ち上がった後、Tstでは下降してくる身体重心持ち上げるために踵を浮き上がらせ、つま先立ちになることで蹴り出します。
それによりフットクリアランスが保たれ反対側が適切に初期接地(IC)することができます。
Tstでは前方へ加速する身体重心にブレーキをかけることと、下降してくる身体重心を上方修正し、推進する方向をコントロールすることが重要となります。
この時の下肢のアライメントは「股関節伸展20°」、「膝関節屈曲5°」、「足関節背屈10°」、「距骨下関節外反位(Mstよりさらに減少)」です。
「股関節20°伸展位」は股関節伸展モーメントにより受動的に起こり、矢状面状上では大腿筋膜張筋により制御されます。前額面上では小殿筋と大腿筋膜張筋が制御します。
「膝関節5°屈曲位」はMstから引き続きほぼ伸展位を維持します。筋活動は必要ありません。
「足関節10°背屈位」は蹴り出しにより起こります。この際、下腿三頭筋の最大筋収縮がおこり踵を持ち上げます。
これがいわゆるforefoot rockerであり、身体重心の上方修正と、推進方向のコントロールを可能とします。
もう少し詳細な内容は以下の記事を参考にして下さい。
まとめ
今回は歩行周期についてポイントをまとめてみました。
歩行周期は立脚相から遊脚相までの一連の流れで、一側が立脚相のとき反対側は遊脚相となります。
つまり、片脚が支えている時反対側は振り出されているわけです。
重力がある以上、どうしても支える足が安定した歩行のために重要になります。
たくさん暗記する項目があり最初は混乱しますが、導入としてまずは立脚相の要点を覚えることがおすすめです。
その際、前後のつながりを意識しながら覚えていくと、なぜその姿勢になるのか理解しやすいためおすすめです。
おそらくこの記事を読んでくれた方は何かしら歩行についての書籍をお持ちだと思いますが、以下の書籍では簡潔に詳細にまとめてくれていますので紹介しておきます。
しっかり理解したい方はぜひ活用してください。
【参考文献】