【生理学】伸張反射とⅠa抑制・Ⅰb抑制まとめ
- 筋緊張の異常と反射の関係
- 伸張反射
- Ⅰa抑制(拮抗抑制、相反性抑制)
- Ⅰb抑制(自原抑制)
- Ⅰa、ⅠbとかAα、Aγって何?
- 数字式分類(Lioyd-hunt分類)
- 文字式分類(Erlanger-gasser分類)
- まとめ
筋緊張の異常と反射の関係
筋肉は何もしていなくてもある程度の緊張が保たれています。
そしてその緊張は、運動をする時には自動的に適切な状態に調整されます。
そこで初めて、頭で思った動きが自然に行えます。
これがうまくいっていない状態と言えば、例えば脳卒中により運動麻痺が起きている状態です。
運動麻痺とは、中枢神経内を走行する下行性の伝導路(錐体路、錐体外路)のいずれかの場所で障害され、運動の命令が適切に筋に伝わらなくなった状態です。
なので、弛緩性麻痺のような全く出力できない場合だけでなく、出力はできるけれどもその調節がうまくいかない状態も含まれます。
それに対して、以上に緊張が高まったり、緊張をコントロールできなくなったりする麻痺もよく見かけます。これは痙性麻痺と呼ばれ、筋緊張が亢進している状態です。
麻痺と言えば動かないことをイメージしますが、動かせるかどうかという要素の他に筋緊張がコントロールできなくなっている現象も包括しています。
運動麻痺とは随意運動の障害の他に、いわゆる筋緊張の異常も含めた包括的な表現です。
では、中枢神経がやられるとなぜ筋緊張の異常が起きてくるのでしょうか?
この筋緊張の異常の原因の一つとして、筋緊張をコントロールしている中枢神経が障害されることで「反射」を抑制できなくなることがあります。
ヒトは生まれてから様々な反射が出てきたり消失したりしながら、最終的に抑制され身体をコントロールできるようになってきます。そして必要な反射のみ姿勢制御やバランス制御のために残ってきます。
その抑制を行っているのが中枢神経であるため、障害されれば反射が抑制できなくなります。
また反射の抑制ができなくなるだけでなく、筋緊張自体もコントロールできなくなります。
前角細胞以降を末梢神経と言いますが、そこへの中枢神経からの連絡が途絶え、筋緊張をコントロールができなくなります。また、感覚情報が中枢神経へ伝わらなくなることも、筋緊張のコントロールに影響を与えています。
今回は、この筋緊張を保つために抑制されてないといけない「伸張反射」という有名な反射と、関節をスムーズに動かすために不可欠な「Ⅰa抑制」という2つの反射をまとめます。
また、それとともに筋肉をストレッチした際に起こる「Ⅰb抑制」という反射をもう1つ一緒に紹介します。
どれも臨床場面と深いかかわりがある反射となります。
伸張反射
伸張反射は、「深部腱反射」としてよく知られる反射です。
深部腱反射とは例えば座った状態で膝の下を打腱器でコツンと叩くと、膝が勝手に伸びてくる膝蓋腱反射などのことです。
これで何がわかるのかというと、じつは運動麻痺が無いか調べる検査です。
ざっくり言うと、全く反応しないあるいは弱ければ弛緩性麻痺(末梢神経障害)、過剰に反応するようであれば痙性麻痺(中枢神経障害)というように判定します。
原始的に思うかもしれませんが、これは未だに使われる重要な指標です。
以下に深部腱反射を例に流れを具体的にまとめます。
①「筋肉が急激に伸展」される。(打腱器により腱を叩くことにより)
↓
②同時に骨格筋内部の「筋紡錘が伸展」されて興奮(活動電位が発生)
↓
③活動電位が「Ⅰa群求心性神経」を通り脊髄に向かう
↓
↓
⑤活動電位が「Aα運動ニューロン」を通り筋肉に再び向かう
↓
⑥最初に伸展された筋肉が「収縮」する。
これで何がわかるの?と思われるかもしれませんが、じつは伸張反射は身体にとって非常に重要な反射なんです。
伸長反射は「筋紡錘」という筋肉の長さを感知する感覚器により起こります。
具体的には筋が急に伸ばされたら、反射的に収縮させてコントロールします。
ということは筋紡錘が受けた感覚情報は常に脳に送られて、筋肉が過剰に伸ばされないように収縮させるのです。
つまりこれは筋緊張をコントロールしているということです。
脳卒中により伝導路が障害されると、この情報がうまく脳に伝わらない、あるいはうまく脳から筋に伝わらなくなります。
これにより筋緊張をどの程度コントロールしていいかわからなくなり、過剰になってしまったり、逆に脳から筋に命令が行かず筋が弛緩してしまったりします。
そしてもう一つ、骨格筋が「収縮」した場合に起こる反射があります。
これをⅠa抑制と言います。
Ⅰa抑制(拮抗抑制、相反性抑制)
Ⅰa抑制は筋肉が収縮した際、同時に筋紡錘が緩むことで起こる反射です。
例えば、肘を曲げたり、膝を曲げたり、ごく自然に筋を収縮させると常に起こっている反射です。
こう考えると非常に重要なことがわかると思います。
具体的にどんな反射かというと、肘を曲げるために筋が収縮した時、実は自動的に肘を伸ばす筋肉は弛緩していないと邪魔になってきます。
筋の名前を使えば上腕二頭筋が収縮するためには、上腕三頭筋は弛緩していないといけないという事です。
つまり主動作筋の収縮に対して、拮抗筋の抑制をさせる反射が「Ⅰa抑制」というわけです。
これが障害されるとどうなるかというと、わかりやすく言えばスムーズに動けなくなります。
以下にⅠa抑制の流れをまとめていきます。
①随意的に筋肉(骨格筋)を収縮する。
↓
②同時に骨格筋内部の「筋紡錘が緩んで」興奮(活動電位が発生)
↓
③活動電位が「Ⅰa群求心性神経」を通り脊髄に向かう
↓
④脊髄で「抑制性介在ニューロン」を経由してシナプス伝達(2シナプス反射)
↓
⑤その結果、拮抗筋に向かう「Aα運動ニューロン」を抑制する
↓
⑥拮抗筋が「弛緩」する。
伸張反射との違いは、主動作筋ではなく「拮抗筋に働く反射」だということです。
伸張反射では伸張された筋そのものが、収縮します。
しかしⅠa抑制では、収縮した筋が緩むのではなく、拮抗筋を緩めるという反射です。
そして、じつはこの際、同時におこる反応があります。
筋紡錘はじつは、常に一定の張りがなければ筋の長さを感知できません。
そのため収縮により縮んでしまった場合、張りをもたせるために引っ張る必要があります。
この筋紡錘自体の調節を行うのが、Aγ運動ニューロンと呼ばれるものです。
これは筋紡錘に付着する錘内筋に作用して、筋紡錘の調節を行います。
じつは筋肉(骨格筋)が収縮する際、常にこのAγ運動ニューロンが筋紡錘の調節を行わないといけません。
Aα運動ニューロンにより筋が収縮した情報を伝えるとき、必ずAγ運動ニューロンによる筋紡錘の長さの調整が必要になるということです。
このメカニズムは「α-γ連関」といわれ、常に筋肉が収縮するたびに起こる重要な機構として有名です。
これがうまくいかなくなると、筋紡錘は筋肉に長さがわからず、筋緊張は調整されません。
その結果、思ったように動けなくなってしまうのです。
そのため一般的にイメージされる筋緊張の異常と深く関わるというわけです。
Ⅰb抑制(自原抑制)
最後に、もう一つ有名な「Ⅰb抑制」という反射をご紹介します。
これは先ほどの2つの反射とは違い、「筋紡錘」は関わらない反射となります。
このⅠb抑制は名前こそ似ていますが、全くメカニズムが違います。
このⅠb抑制では腱の中にある「腱紡錘」が主役になってくるのです。
腱紡錘は、筋紡錘と同じように腱に加わる張力を感知します。
そして、腱が伸張されすぎているなと感じると、その腱が付着している筋を緩め腱の伸張負荷を減らそうとします。
要は腱が伸ばされた時に、切れないように守る反射です。
今までのように筋緊張に関わる反射というよりは、腱の防御機構として働きます。
以下にⅠb抑制の流れをまとめていきます。
①腱が強い力でゆっくりと引き伸ばされる
↓
②腱紡錘が伸張されて興奮。(活動電位が発生する。)
↓
③活動電位が「Ⅰb群求心性神経」を通り脊髄に向かう
↓
④脊髄で「抑制性介在ニューロン」を経由してシナプス伝達(2シナプス反射)
↓
⑤その結果、伸ばされた腱に付着する筋に向かう「Aα運動ニューロン」を抑制する
↓
⑥腱に付着する筋が「弛緩」する。
ポイントとなるのは、まずゆっくりとした腱の伸張に反応するということです。
そして、Ⅰa抑制のように拮抗筋に作用するのではなく、腱に付着している筋そのものに作用して抑制するということです。
その点は暗記する上では、伸張反射に似ているとも言えます。
伸張反射とⅠb抑制は同名筋に作用します。
一方、Ⅰa抑制は拮抗筋に作用します。
そしてもっともイメージしてほしいのはⅠb抑制はストレッチを実施している時の状況だということです。
ストレッチで徐々に腱に伸張刺激が伝わることで、筋肉が緩んでくるというのはまさにこのⅠb抑制によるものです。
治療手段としてよく使われるストレッチはⅠb抑制が深く関わっています。
なのでⅠb抑制=ストレッチのイメージで覚えてしまいましょう。
Ⅰa、ⅠbとかAα、Aγって何?
伸長反射、Ⅰa抑制、Ⅰb抑制などを理解しようとするとき出てくる、Ⅰa、ⅠbとかAα、Aγって何なのでしょうか?
これらはⅠa、Ⅰbなどは「数字式分類(Lioyd-hunt分類)」、Aα、Aγなどは「文字式分類(Erlanger-gasser分類)」といわれる分類の用語を使っています。
これらは、「中枢神経(伝導路)」を通った後、主に運動神経であれば前角細胞、感覚神経であれば後角細胞を境にして「末梢神経」に変わる(例外もあります)のですが、この末梢神経の神経線維を役割ごとに分類した名前です。
生理学では末梢神経を運動神経と感覚神経に分けた後、詳細をこれらの分類で表現します。教科書などでは当たり前にこれらの用語で表現されるため、生理学を理解する時必ず整理しておかなければ混乱してきます。
数字式分類(Lioyd-hunt分類)
これは「感覚線維」のみを分類したものです。なので求心性(上行性)の神経はこちらの分類で表現することが一般的です。
具体的な内容は以下となります。
Ⅰa・・・筋紡錘
Ⅰb・・・腱紡錘
Ⅱ・・・触覚・圧覚
Ⅲ・・・痛覚・温冷覚
Ⅳ・・・痛覚
これらの感覚に対応した神経線維を、左に表したⅠ~Ⅳの数字に置き替えて表現するわけです。
これの覚え方は様々ありますが、一例を紹介しておきます。
「筋腱触って痛い・熱い!痛い!」
と覚えましょう。
筋→ Ⅰa・・・筋紡錘
腱→ Ⅰb・・・腱紡錘
触って→ Ⅱ・・・触覚・圧覚
痛い・熱い→ Ⅲ・・・痛覚・温冷覚
痛い→ Ⅳ・・・痛覚
という感じで、Ⅰ~Ⅳに対応しています。
文字式分類(Erlanger-gasser分類)
こちらは運動・感覚の両方が含まれた分類です。しかし求心性(上行性)は数次式分類があるので、遠心性(下行性)の神経を主に表現するときに使われていることが多い傾向があります。
おおまかにはA~Cの文字で分類していきます。
この内Aは詳細にα~δまでの4つに分けられています。
具体的な内容は以下となります。
A |
α |
・錘外筋の運動(運動) ・筋紡錘・腱紡錘(感覚) |
β |
・触圧覚(感覚) |
|
γ |
・錘内筋の運動(運動) |
|
δ |
・温痛覚(感覚) |
|
B |
・自律神経節前線維 |
|
C |
・自律神経節後線維 |
これを見てわかるように運動神経が含まれているだけではなく、自律神経も含まれた分類となります。
Aα、Aγは運動神経を含むためよく使われます。
Aαは「錘外筋の運動」つまり骨格筋の運動神経を表現するのに使い、Aγは「錘内筋の運動」つまり筋紡錘の長さの調節をする運動神経を表現するのに使います。
Aαの「筋紡錘・腱紡錘」と書いてある感覚の部分はⅠa、Ⅰbに対応しているためあまり使うことはありません。
またβはⅡと対応し、δはⅢと対応しているため、これらも数字式分類を主に使うのであまり使われません。
そしてCもⅣと対応しているので使いません。
ということは、運動線維の表現としてAαとAγを理解しておいて、残りは数字式分類を覚えておけば生理学的な文章で使われる分には十分理解できるということです。
まずはこれらを中心に覚えていきましょう。
まとめ
今回は「伸長反射」、「Ⅰa抑制」、「Ⅰb抑制」という三つの反射と、それらを理解するための末梢神経の生理学的分類をまとめてみました。
これらを理解しておけば、臨床で役に立つばかりではなく、生理学の他の単元の理解を深める際にも武器になります。
とくに筋紡錘の詳細を理解する際などは重要になります。
また伝導路を理解したときに、その先にこれらの末梢神経線維に繋がり、最終的に対応した感覚器に繋がることを理解できてくれば、神経系の範囲の全体像が見えてきます。
この機会にぜひ整理してみて下さい。