「社会の柱」新国立劇場演劇研修所第13期生修了公演@新国立劇場 | 明日もシアター日和

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作 ヘンリック・イプセン

演出 宮田慶子

出演 今井仁美/大久保眞希/島田恵莉/松内慶乃/松村こりさ/ユーリック永扇/河波哲平/河野賢治/宮崎隼人/古川龍太/原一登/野坂弘/鈴木麻美/高橋美帆/小比類巻諒介/椎名一浩

 

 新国立劇場演劇研修所が「次世代の演劇を担う舞台俳優の育成を目指し」て行なっている授業(3年間)の修了生による公演。イプセンをやるというので観てきました。

 この戯曲は、イプセンが社会問題を取り上げた初めての作品(1877年)で、有名どころの「人形の家」「幽霊」「ヘッダ・ガブラー」などはすべてこの後の作品。日本では1914年に上演されたそうで、上演頻度が低いのも分かるような物語だったな💦

 

 あらすじ→ノルウェーの港町で造船所を営む実業家カルステンは長年にわたって町の発展に尽くし、今や自他共に認める「社会の柱」的存在。でも彼には黒い秘密が。15年前に既婚女性と情事を重ねる😤(1870年代当時のヨーロッパでは社会的に抹殺されるべき行為、たぶん)、その罪を親友ヨーセフにかぶってもらう😖(ヨーセフはアメリカへ)。ヨーセフがカルステン家から大金を盗んで逃げたという噂を否定しない😡  町に鉄道を誘致する計画を推して値上がり前に土地を買い占める🔥  造船所に機械を導入して職人の首を切ろうとする😫  などなど。そして今、彼の嘘が暴かれ仮面が剥がされ始める……。

 と、ここまではいいんだけど、結局、カルステンがいきなり改心して懺悔することですべて許され😱  物事は丸く収まり、誰も傷つかず、みんな本来の居場所に収まる。で「真実と自由の精神こそ社会の柱」なのだ、となってハッピーエンドという😳  ちょっと安直すぎる結末なのですよねー

 登場人物の造形もはっきりしなくて、みんないい人になってしまっている。強いて言えば、率先して正しい選択をするのが女性たちであることがイプセンらしいかな。また、カルステンのような、出世のために弱い人間を踏み台にし、権力を握ると自分の犯した罪を隠すか正当化し、嘘に嘘を重ねて体裁を繕う人間は、今この時の日本にも普通にいるわけで😠  その意味で現代性があると言えますね。

 

 役者たちの演技はとても良かった👏  メインの役は第13期生、他の役は過去の研修生が演じているのかな。もちろんベテラン俳優並みというわけではないけど、まずセリフが発声からできている(その勉強をしてきたのだから当然ですが)。必要な場合以外は無意味にがなり立てたりしないメリハリあるセリフ回し。そして皆、役に真摯に取り組み、自分の役柄をちゃんと掴んで演じていたと思いました🎉

 敢えて言えば、身体表現がもう少しできていればさらによかったかな。動きがステレオタイプ的だったり、ややぎこちなく不自然だったりしました。例えば、上流階級の人たちの立ち振る舞い、威勢を張った男の仕草、相手の話を聞いている時の表情や動きなど。でもそれは経験を積むことで身体が覚えていくことだと思うのでいいのです👍

 

 舞台美術は研修生の手によるものではないと思うけど、本舞台の後方が真っ暗な壁になっているのが気になりました。ずーっと夜みたいな感じで、その雰囲気は観る人に心理的な影響を与えていたと思う。港がすぐ向こうに見えるはずだから、それらしき背景にするとか、でなければ歌舞伎のように、最後に後ろ幕が切って落とされると何か象徴的な風景がパッと現れるとか、工夫が欲しかったな。

 そういえば劇場のホワイエに、修了生たちの今後の出演作品が紹介されていました。こういう、基礎をしっかり積んだ役者さんたちが活躍できる場がたくさんあるといいですねー。

 

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