「ヘンリー八世」@彩の国さいたま芸術劇場 | 明日もシアター日和

明日もシアター日和

観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ウィリアム・シェイクスピア

演出 吉田鋼太郎

出演 阿部寛/吉田鋼太郎/宮本裕子/谷田歩/河内大和/廣田高志/鈴木彰紀/大石継太/間宮啓行/工藤俊作/櫻井章喜/塚本幸男/飯田邦博/二反田雅澄/金子大地/山谷花純/松本凌士/水口てつ/佐々木誠/福田祐一郎/大河原啓介/長谷川祐之

 

3月1日までの公演だったのが、今日27日を最後に中止に😔  先週観た感想です。

 この戯曲はシェイクスピアによるチューダー朝賛美みたいな色合いが濃く、物語としても大きな山場がなくエピソードの羅列感が強くて焦点がぼやけた感じなんですが、今回、舞台に上がった芝居を観たら良質のエンタメになっていた‼️ 鋼太郎さんの演出は前回の「ヘンリー五世」から大きく舵を切り直してオーソドックス寄りになり、ホッ……😅  複数のエピソードは無理なくひとつに繋がり、スピード感あるドラマになっていました🎊

 

 聖堂のアーチを配したシンメトリーな舞台セット、後方のパイプオルガンの上に十字架と王冠のオブジェ。あるべき国の秩序と宗教的色合いを印象づけます。後方上部は2階部分の回廊になっていて、生演奏が奏でられるほか、役者がそこで演技もするという、立体的な空間利用もGOOD👍  本舞台の上方には枢機卿ウルジー(鋼太郎さん)がお膳立てしたヘンリー王(阿部さん)とフランス王(絵の中だけの特別出演横田栄司!😆)との会談「金襴の陣」の様子を描いた絵が掲げられています。第2部でウルジーが失脚するのでその絵が傾いて宙ぶらりんに。

 

 芝居は、前半はヘンリー八世の寵愛を受ける枢機卿ウルジー、後半はタイトルロールであるヘンリー八世によって引っ張られていく。そして主に3つのエピソード(事件)が物語の山場を作ります。

 1つ目は、ウルジーを敵対視しているバッキンガム公がウルジーの策に落ちて反逆罪の汚名を着せられ逮捕・処刑される。バッキンガム公を演じた谷田歩がとても良かった。立派な体躯で存在感があり、鋼太郎さん主催の劇団AUNでシェイクスピア劇を身に付けただけあって、セリフも演技も説得力がある。初っ端の彼のセリフによってウルジーの横暴ぶりが浮き彫りになり、裁判の席での弁明では彼の高潔さが際立ちました。バッキンガム公に代表される反ウルジー派の貴族は黒いスーツ姿でとてもスタイリッシュ😎  谷田さんは葉巻を吸う姿もサマになっていて、ちょっとクライヴ・オーウェンに似てたな🌟

 

 2つ目の事件はヘンリー王がキャサリンと離婚することです。これも王の意向を汲んでウルジーが裏で糸を引いて実現させたこと。演じた宮本裕子は気品と悲劇性を体現した、役柄にふさわしい演技だった。最後までヘンリーを尊敬し愛するセリフは美しく、王妃としてプライドを保ち続ける姿は凛としていて、離婚訴訟の法廷での訴えや、それが叶わず幽閉されてからの嘆きに威厳がありました。ただねー、声量がないのか、語尾が消えたり長ゼリフのトーンが落ちたりと、セリフがかなり聞き取りにくかったのが非常に残念だわ😩

 

 3つめの事件が、王の信頼厚かったウルジーの失脚。自分の敵を排除する工作に長け、私腹を肥やしている男の最後です。今回鋼太郎さんは、ウルジーとその秘書クロムウェルを同性愛関係にするという、原作にない解釈・演出をしていてびっくり😳  でもって、ウルジー凋落の決定打となる秘密書類を王の書類の中に忍ばせたのは、このクロムウェルということになっていた😱  ウルジーは腹心の部下であり恋人でもあるクロムウェルの裏切りに気づかなかったという憐れな結末……😢面白いなー。悪事が露見した後のウルジーは皆に小突き回され、権威の象徴である衣装を剥がされて下履き一枚になり、滑稽な姿をさらけ出すという象徴的な顛末です😄

 出世のために上司ウルジーを陥れたクロムウェルを演じた鈴木彰紀が、熱くてくどい上司とは真逆の、ヌメッとした冷たい爬虫類のような雰囲気でかなり良かった😸

 

 消えたウルジーと入れ替わるように存在感を増していくヘンリー八世。後半から真の天下人となった彼が物語の流れを自分の手で動かします。阿部寛は王らしい外見や佇まいと相まって、公明正大かつ跡継ぎのことで悩む繊細な王のように見える✨ でも私は史実としてのヘンリー八世と重ね、ウルジー同様に権謀術数をめぐらす結構したたかな権力者として見ました。例えば、男の跡継ぎが欲しかったのに生まれた子が女だと聞いた阿部さんが「チッ…」という感じで一瞬、顔を歪めたのを見逃さなかったよ😤  次の瞬間、ここは喜ぶふりをしておこうみたいにふっと口元を緩めるんですよね。実に名演だわ👏

 

 芝居の最初と最後の対照的な見せ方も上手かったな。プロローグは、ベッドで寝ているヘンリーが悪夢にうなされて目を覚ますという、戯曲には描かれていないシーン。あー夢だったかとホッとすると、布団の中から3人の女性が出てきて、まるで、この夜ヘンリーは3人の女性とよろしくやっていたかのよう。でもその直後に赤ん坊の泣き声が聞こえ、その声にヘンリーはおののきます。私には、この3人の女性が「マクベス」に登場する魔女のように見え、 ヘンリーの悪夢の中で「お前には女の子しか生まれない……☠️」と予言しているように思えました。

 エピローグは、ヘンリーと再婚したアンとの子どもエリザベスの洗礼式を祝う行列が客席を行進していくんだけど、本舞台には、実質ヘンリーに切り捨てられたバッキンガムとキャサリンとウルジーの亡霊?が現れ、その行列をじっと見つめるのね😨  浮かれているヘンリーの取り巻き人の中に自分たちと同じように捨てられる人がいると予言する(史実でも実際、多くの人が斬首刑なるわけで💦)かのようで、これまた彼らが3人の魔女みたいでした。

 

 ちなみに、入場時に「HENRY VIII」と書かれた小旗が配られ、この洗礼式で観客が市民になってそれを一斉に降るという演出。私は、史実として知られるヘンリー八世はイギリスの君主の中で最も許し難いので、支持しません!という意思表示で旗は振らなかったヘソ曲がりです😬

 

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 演劇(観劇)へ
にほんブログ村


観劇ランキング