作 ピーター・シェーファー
上演台本／演出 寺十吾
出演 八嶋智人／小林聡美／野間口徹
初演は1962年で原題は「The Public Eye」。因習や既成概念に囚われた夫と自由でありたい妻との対比、距離を置いて相手を見れば新たな発見がある、みたいなテーマ？
1960年代のロンドン。公認会計士チャールズは若い妻ベリンダが家を空けてばかりいるので浮気を疑い、私立探偵に素行調査を依頼。芝居は探偵が調査結果を報告しにチャールズの事務所を訪れるところから始まります。
「奥さんは毎日ロンドンの街をあてもなく歩き回っているだけだが、１人の男がいつも一緒にいて、言葉は交わさないものの２人は心を通わせているようだ」と告げる。嫉妬に狂うチャールズ。そこにベリンダが現れ「街である男性と出会ったことで自分が生き返ったように感じる」と話す。すぐに、その男とは実は探偵自身だったことが判明‼️探偵が依頼主である自分を裏切ったと怒るチャールズ、自分の浮気を疑った夫と素性を隠していた探偵に怒るベリンダ。探偵は２人を破局から救うため、チャールズに「１カ月間、ひとことも口を聞かず、距離を置いて奥さんをただ見るだけの生活を続けてみて」と提案して終わる。
３人の会話を通して、夫婦の価値観の違いが明らかになります。妻の考えなんてどうでもいい、妻は夫のために自分を捨てて夫を愛すべきだ、妻は内助の功であるべきだという夫は、ベリンダを自分にふさわしい理想の妻に仕立てあげるべく教養やマナーを教え「教育」してきた😩 そしていま自分の意見を持つようになった妻が許せません。
妻は、最初は何でも知っている夫が頼もしく、夫の「指導」を受ける以外のことは何もしないで過ごしてきた。でも次第に「家庭は学校のようだ」と息苦しさを感じ出し、自分の感情に素直になり自由に生きたいと思うようになります🎉 で、開放感を得るため街をブラブラしていたら探偵と出会ったということらしい。
幕が上がると、誰もいないチャールズの事務所に私立探偵がいて双眼鏡でキョロキョロと周りを見ている。彼の背中には天使の羽根が付いていて、それは彼が、恋愛成就を助けるキューピッドということかな💘 ちなみに、探偵の名前はジュリアン・クリストフォルー（Cristoforou）で、「キリストを背負うもの」の意味を持つクリストフォロス（Christophoros）のモジリかなと思った。クリストフォロスは水夫、巡礼者、旅人、運転手などの守護聖人で、それを水先案内人と取れば、崩壊寸前の夫婦の仲を取り持ち元の軌道に戻してあげる人＝天使とも考えられるよね〜🤔
探偵とベリンダは言葉を交わさず相手を見るだけで街歩きをするうちに、相手の行動の奥にある心理を観察することになり、次第に相手への理解と親近感が生まれていく。ベリンダはそういう人間関係に刺激と興味を覚えて楽しくなるのね👍
同時に探偵にも変化が生まれます。探偵は今まで自分のプライバシーには無頓着で、他人の人生を見る仕事をしてきた。でもベリンダと出会うことで逆に自分と向き合うことになり、自尊心を取り戻したいと思うようになるのです。そこで、ネガティヴな報告をして夫婦関係の亀裂を広げるのでなく２人を修復する役割を担おうと、自分の意思で動きます💨 チャールズに、奥さんを客観的に見ていれば、相手の良さが見えてくるし自分の気持ちも変わってくるよと提案するのは、自分がそうだったからだね。
探偵の八嶋智人は、軽妙な身のこなし、メリハリのあるセリフ回し、コミカルな演技などどれも安定していてすごく良かった👏 探偵がベリンダにほのかな恋心を抱きかけるという演出もあるけど、ここでは（演出なのか彼の持ち味なのか）そういうのは感じなかったな。探偵っぽくない雰囲気は、冒頭で見せた「変わった天使」と重なったりもしました。
夫チャールズを演じた野間口徹は、育ちが良さげのスリーピース姿がよく似合い、慣習でがんじがらめになった高圧的な男の感じがよく出ていたと思う👍
ベリンダの小林聡美は上手い役者さんなの分かるけど、ベリンダのニンではないような気がしたな😞 結婚した時チャールズは40過ぎ、ベリンダは18歳でライヴハウスのウェイトレスだったという設定で、この「自分の娘のような女の子と結婚した」っていうところはかなり大事だと思うから、見た目が野間口徹と同年齢に見えるのはダメなんじゃない？🙄 それに、小林聡美はもともと感情より知が優っていてしっかり者という雰囲気があるし。
ベリンダが街をブラつくところの描写で、ロンドンの地名やストリート名がたっくさん出てきて懐かしかったです😊
