見ざる言わざるカルサイネイざる

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カルサイネイザンの施術者は患者の性器に宿った感情とじっくりと会話をしながら、性器に溜まった毒素を排出し、不要なカルマを解放してくれる。それによって性エネルギーが高まることで、生命エネルギーをも高めることが出来、結果として霊性エネルギーまでもが高まるという画期的な療法だ。

冒険家

かつてジャップカサイに挑戦した男が、今度はカルサイネイザンに挑戦する。

これだけを聞くと、己の男性機能に不安を抱えて“東洋の神秘”にすがりついている哀れな男のように映ってしまうかもしれないが、オレが挑戦を続けるのにはもっと違う理由がある。

よくよく考えてみて欲しい。

『ちんちんの毒素』って…

これに関しては多少は理解出来なくはないとしても…

『ちんちんのカルマ』って何なの?!

『ちむちむのカルビ』くらい意味不明である。

そんな意味不明なことをしゃあしゃあと口に出来ちゃうようなヤベぇ世界観を持った人たち、しかも見ず知らずの赤の他人に敢えて男の最弱パーツを託してしまう…

もう、これを冒険と呼ばず何を冒険と呼ぶのだ?

「手足の毒素とカルマ」どうこう言っている人に手足を託すのとは次元が異なる、(女には分からないだろうが)男からしたらめちゃくちゃ怖いことである。

それに敢えて挑んでしまうオレって…

そう、冒険家なのだ!

間宮林蔵、白瀬矗、植村直己と続いてきた偉大な冒険家たちの系譜を、このオレが継いでるのかもしれん。

いつの日か、郷土が生んだ冒険家として母校の小学校に呼ばれて講演を頼まれたり、伝記を書いたりすることになるだろう。

マッターホルン登頂を成功させた後にデナリ登頂に挑んだかのように、ジャップカサイに挑んだ後にカルサイネイザンに挑んだ話で子供たちに夢と希望を与えるのだ。

そのきたるべき時のために、冒険に出る直前の『今』を克明に記録しておかなければ。

念のため出陣前に確認をしてみると、戦いを前に緊張したアイツがパンツの中で丸まったアルマジロのように防御モードに突入しておった。

比喩表現としてのアルマジロは正解なのかしら? ここは「丸まったダンゴ虫」の方が謙遜している風で好印象かな? それとも「丸まったアフリカゾウの鼻」の方が相手を威嚇出来るだろうか? いや、タイだったらアジアゾウにすべきか?

大いに悩むところではあるが、まぁ、これは急いで答えを出すことでもないので、実際に伝記を書く時までに決めよう。

道教

丸まったままのアルマジロを抱えたまま、チェンマイ郊外を北上する。

何の下調べもせずデナリ登頂に挑むバカはいないのと同様、オレも何の下調べもせずにカルサイネイザンに挑もうとしているわけではない。

タイに来る飛行機の中で、道教(特に陰陽五行説と房中術)に関する本をがっつり読み込んできた。

【陰陽五行説】とは、宇宙の万物は天と地、光と影、男と女など陰陽に分かれており、森羅万象を構成しているのは木・火・土・金・水の五行という思想。

要するに…NARUTOだろ?

【房中術】とは、陰陽五行説をベースにして、気を操りながら男女(陰陽)の交わりをすることで不老長寿を目指す術。

例えば…男はイキそうになったら、飛び出そうとする精気を瞑想ノ法を使って止め、採陰術で男性器から受信した女の精気を混ぜたうえで、督脈を通して逆に脳へ引き上げるのが還精補脳の奥義『黄河逆流ノ法』。

他にも、女には興奮度合いによって喘ぎ声が五音(五段階)あり、女が五音に達してから男はイクと気が充填されて長生きするらしい。

その五音とは…

ホオンホオン、シュイシュイ、フウンイエ・フウンイエなど

いかん…五音どころか一音も聞いたことないわ!!

これでは長生き出来ない以前に、ある意味ほぼ童貞じゃん、オレ。

シュイシュウィィィィイ!!
・・・・・(黄河逆流ノ法で脳内発射)・・・・・

仙人クラスになるとこういうプレイをしてるわけだな、ウム。

道教の思想を考えるに、カルサイネイザンで「ちんちんの毒素とカルマを解放」することによって、オレは不老長寿へと一歩近づくのだ!!

オレの勝手な解釈で言うと…道教に限らず、古代東洋では宗教・哲学として精神世界と肉体(物質)の結び付きを探求してゆく中で医学の発展があり、そこに性に関することも含まれてきたんじゃないかと。健康法としてのアーユルヴェーダやカーマスートラ、中医学や房中術がある一方で、儀式としてのチベット密教における秘密灌頂や般若智灌頂や、日本の真言立川流があったように。

だって、房中術の黄河逆流ノ法と密教の般若智灌頂って、目的は違えど言ってることはかなり似てる。

オレが今回行くのは、道教を発展させた『ユニバーサル・ヒーリング・タオ・システム』なるものを開発した中華系タイ人マンタック・チア老師がチェンマイ郊外に造ったタオ・ガーデンという場所だ。

自分の臓器に向かって微笑みかけて「コップンカップ!」と感謝の気持ちを表すことで己から高いバイブレーションを発することが出来るようになる内笑瞑想(いわゆるバイブスあげあげ)や…

北極星から出る紫の光、北斗七星から出る赤い光、人間界から出る金色の光、地球から出る青い光を吸収して生命力に変換させる小周天(いわゆる光合成)を…実践するところ、らしい。

宇宙粒子エネルギーがどうこうとかスケールが大きな話をする割に古臭いデザインのウェブサイトを通じて事前に問い合わせをしている。(※なお、オレが実際に訪れた時くらいのタイミングでサイトはリニューアルされた)

メールでの回答によると、カルサイネイザンのコースは2つあるそうだ。

【カルサイネイザン性器デトックスセラピー】50分2,500バーツ(約9,000円)

【カルサイネイザン・パッケージ】100分4,000バーツ(約14,400円)

パッケージには、カルサイネイザン性器デトックスセラピーに加えて、フット塩スクラブ、ハーブ蒸し風呂、そしてランチが付くらしい。

「せっかくだしパッケージでいいか」とも考えたが、オレが足をスベスベにする必要ある?と思って。

パッケージではなく、普通のを予約した。

タオ・ガーデン

チェンマイ市内からタオ・ガーデンまで、グーグルマップのナビ機能などという邪道なものなど使わずとも宇宙エネルギーが導いてくれる。

あっちだよ

ワット・トゥンカーオトークの前にいる彼が指し示している方向の逆に進むのが正しい。

水牛が突っ立っているような田んぼの脇道を走らされて心配になってきた頃に、ようやく現れるのがタオ・ガーデンの入り口である。

何事も印象は大事である。

古臭いデザインのウェブサイトは怪しさが溢れ出ていたが、実際に来てみると入り口はシンプルながらも立派。

オレがジャップカサイを受けた場所と比較すると、全然違う。

「緑がいっぱい」という点では共通しているのに、中に入っていくのにかなり勇気を要したジャップカサイに比べて、何の抵抗もなくスッと入れるカルサイネイザン。

もし見た目の問題でなければ…マッターホルン登頂を成功させた自信が、そびえ立つデナリを目の前にしても怖じ気づかなくさせた…そんな、オレ自身の成長の証かもしれん。

入り口から奥に進むと、最初に現れるのがレセプションの建物である。

10時から予約をしていた者ですが…
カサイを予約してる方?
カルサイネイザンとは言わねーんだ…

『カルサイネイザン』という単語自体がマンタック・チア老師が考えた造語なのは知っていたが、もしかしたらこの単語を使うのは外国人くらいかもしれん。

中国語の「内臓(ネイザン)」の前についている「カルサイ」だが、タイ語のジャップカサイの「カサイ」と同じであり、タイ語的には「カサイ」の方が正解だと確信した。

ちなみに、普通のタイ人は「カサイ」という単語の意味を知らない。

確かパーリ語由来の単語だったはず。

一緒に行ったタイ古式マッサージで、タイ人の友達がタイ人の施術のおばちゃんに意味を聞いていたが、どうやらタイ伝統医学の概念のようで、オレのざっくりした理解で言えば体の老廃物とか毒素とか不純物みたいな意味を含んでいるっぽい。

ジャップカサイの場合、ジャップはタイ語で「掴む」という動詞なので「老廃物を掴む」。

カルサイネイザンの場合、「内臓の老廃物」という意味合いになるのだろう。

実は言葉自体には下半身に限定される要素は何一つないのだ。

タオ・ガーデンの見取り図を見てみると、その敷地はかなり広い。

マンタック・チア老師の自宅まで載っている。

敷地内にあるスパ&クリニックのパクラ自然治癒センターまでは、距離があるので電動カートで移動。

芝生を手入れしたり、落葉を掃除しているタイ人のおばちゃんたちとすれ違う度に、やたらと微笑みを投げかけられるのだが、未だ丸まったままのアルマジロを抱えているオレからしてみれば…

う、うさんくせー!!

素直にその微笑みを受け止められない。

本来シャイな一般平壌市民に混じっていて、ムダに笑顔でフレンドリーに絡んでくる「外国人の対北朝鮮印象向上委員会の劇団員の方々ですか?」みたいな仕込みのおばちゃんたちと同じ印象すら受けてしまった。

そもそも、未だにオレ以外の客に誰一人として会っていないのが気になる。

カルマ解放

カサイ?

出迎えてきたおばちゃんに連れられて奥へ進むと、施術を受ける部屋はコテージタイプになっていた。

あの…痛いですか?
痛いよ!でも、ちょっとだけ!ガハハハ

笑い上戸なのか?いちいちゲラゲラ笑うおばちゃんは、タイ古式マッサージを始めて17年、カルサイネイザンを極めて10年になるという。

促されて、全裸になって施術台の上に寝る。

まずはお腹の上にハーブを詰めて蒸した袋を載せて、腹部を温める。

その横でおばちゃんが…

ユン(蚊)がいる!ユン!

バチーン!!

ほら、やっつけた!ガハハハ
お、おう…

後ろではゴォォーンと鐘の音がひたすらループしているヒーリングサウンド的なものがずっと流れているのだが、ヒーリング効果をかき消すほどおばちゃんのテンションが高い。

お腹が温まってきたら、おばちゃんは相変わらずしゃべりながらも、ゆっくりと手でお腹を揉みほぐし始めた。

張ってるのが分かる?腸に悪い感情が溜まってる証拠だよ

えっ?!と思って…

「施術者は患者の内臓に宿った感情とじっくり会話しながら」と聞いていたが…

オレの内臓に宿った感情と、じゃなくて…

オレ自身に向かってめちゃくちゃ話しかけてくるじゃん!!

聞いてた話と全然違うんですけど!

腹部のマッサージが終わった後は、いよいよである。

おばちゃんが、医療従事者が使うような青いゴム手袋をパチンと手にはめた時が合図だ。

タマの付け根というよりは、恥骨の終わり部分…正式名称を知らないが限界恥骨みたいな?部分を指圧される。

おばちゃんの説明によると、男の人は限界恥骨にツボがあるらしいが、女の人は膣の中にもツボがあるらしい。

えっ?どうやって押すんですか?
そんなの手を入れて押すのよ、ガハハハ!
それって…もはや手○ンじゃね?

ちなみに、カルサイネイザン・パッケージを1人で受けると4,000バーツ(約14,400円)だが、カップルで並んで受けると7,500バーツ(約27,000円)と割引になる。

限界恥骨の指圧が終わると、次は…

タマの付け根部分をひねり上げるというか、つねってくる。

もしかして最初におばちゃんが言っていた「ちょっとだけ痛い」やつか?

確かに激痛とまではいかないが、ものすごーく地味な痛みがじんわりと続く。

シュ…シュイ…シュイシュイ…

タマ付け根ひねり上げの技ではまだ一音で我慢していたオレだが、次の技を繰り出された時にはつい…

フ…フゥ…フウンイエ・フウンイエェェッ!!

男なのに房中術の五音が出とるっ?!

肛門まわりをグリングリンやられるオレ。

いやぁ、確実に指を入れられると思いましたね、はい。

そのためのゴム手袋だったのかっ?!って。

ま、結果的に入れられはしませんでしたけど、はい。

ほら、まわりの筋肉が張ってる!ほら!ここも!
ホ、ホォ、ホオンホオォォォン!

聞いてもいないのに肛門エクササイズのやり方を長々と説明され、「1日100回はやりなさい。テレビみながらとか何かしながらでいいから」とアドバイスされてカルサイネイザンは終了。

ジャップカサイの時とは違い、タマ&サオには基本ノータッチであった。

疑問

全然カサイが溜まってないから問題なし! カサイが溜まってくるのは50才過ぎかな、ガハハハ! ただ肛門まわりの筋肉が張ってるから、教えたエクササイズを毎日やりなさい

やられている間ずっと疑問に思っていたことをおばちゃんにぶつけてみた。

タマ付け根ひねり上げされている間、なぜか割合として左よりも右のタマ付け根をひねり上げられている時間の方が長かったのが気になっていたのだ。

ジャップカサイの時とは逆だしっ!!

ねぇねぇ、オレって右タマの方が凝ってるの?
同じだよ、同じ!どっちも凝ってない、ガハハハ!
いや、痛みを我慢しているオレ的には違った!

あれ?もしかして…

はたと気が付いてしまったのだが…

これって施術をする人がどこに座っているか、の問題じゃね?

ジャップカサイのオカマはオレの股の間に座って対面で施術していたが、もし彼が右利きの場合、どうしても手首の可動域的にオレの左タマの方が掴みやすくなる。

一方、カルサイネイザンのおばちゃんはオレの右横に座って施術していた。どう考えても、右タマの方が手前にあるんだから掴みやすい。

なんだそれ?!しょーもな!!

効果

最後に、一番気になるのがその効果だが…

正直、術前・術後の身体的な違いは全く分からん!!

結局最後まで『ちむちむのカルビ』が何なのか?も分からなかったが、意味も分からずに…

ちんカルマが解放されたっぽい!

そう信じ込むだけで、心もちんも軽くなったような、軽くなっていないような。

もう、このジャンルの冒険の旅は飽きちゃった…