読んだ本9冊

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久しぶりの読書記録、この1カ月ほどで読んだ本。

『瀬戸正夫の人生』

昭和6年、タイ(当時はシャム)生まれの瀬戸さん。

父親は明治42年に日本を出て東南アジアを転々としていた特務機関の諜報員だった。

終戦直後にタイ在留を許可された数少ない日本人(107人)の一人で、ずっと無国籍だったが、32才でタイ国籍を取った御年89才(=在タイ89年)の自伝。

そんな瀬戸さんの自費出版三作が文芸思潮のサイトで無料公開されている。

タイに生きて

瀬戸正夫の人生:上巻

瀬戸正夫の人生:下巻

PDFが見開きページ設定なので文字サイズ的にスマホでは読めん。

『タイに生きて』は…第3章辺りから「瀬戸さんの人生と関係あんの?」と思うような船舶関係のデータ(しかも詳細)を列挙していたり、資料としての情報も意識して書いたと思われる本で、純粋なる自伝かと言うとちょっと違うかな。

それに対して、まさに自伝として書かれているのが『瀬戸正夫の人生』。タイで戦前・戦中・戦後を過ごした生き字引の話は実に興味深かった。数奇な人生とはこのこと。

満足度:★★★★★

青木冨貴子『731 – 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』

太平洋戦争中に生体解剖やペスト菌による非人道的な実験を行った細菌戦部隊。残虐な行為に手を染めながら、なぜ彼らは戦犯とならずに済んだのか。そこには隊長・石井四郎とGHQの驚くべき駆け引きがあった。戦後50余年を経て発見された石井の直筆ノート2冊から隠された真実を読み解く。

この本の主眼としているところは、731部隊がどのような人体実験を行ったかという“闇”というより、なぜ戦後に戦犯にならずに済んだのかという“闇”の方。

本の趣旨とは全然関係ないが…

以前にブログの映画『闇の子供たち』で、「映画内での設定である『少女から生きたまま心臓の移植』って、そもそも『生きたまま』である医学的必要性がちょっとよく分からない」と書いたが、生きたままである医学的必要性がこの本に書いてあった。

細菌学の分野では必ず生体解剖じゃないと効果がないんです。なぜかというと、人間、息を引き取って死亡すると雑菌が入っちゃうんです。だから、瀕死の重傷で、まだ雑菌が入らないうちに解剖して、必要なものを取り出すというんです

ふむ、そういうことか。

調べたら確かに心臓移植は脳死でしかできない(=心停止ではダメだ)そうだ。

満足度:★★★☆☆

石戸諭『ルポ 百田尚樹現象~愛国ポピュリズムの現在地~』

百田さんにも右派的なイデオロギーがあることはあるが、小説を面白くしたり人を感動させたりするためなら自分のイデオロギーを容易に「着脱」できる。読みやすくするためにはいろんなことを犠牲にでき、イデオロギーよりも物語としての感動や面白さを優先する。

百田作品でいえば『永遠の0』しか読んだことがないオレ。

いつの間にか彼が“右派的なイデオロギー”と結び付けられることが多くなったのと、言動や著作が世間の話題になることは何となく知ってる程度。

基本的には、副題の通り“現象”としての愛国ポピュリズムの現在地を「新しい歴史教科書をつくる会」の系譜から追って言語化している点では「ふむ、なるほど」と興味深く読んだのだが、百田尚樹現象を支えているとする「ごく普通の人々」の姿が浮かんでこなかった。単純にオレの読解力の問題だろうし、その姿を具体的に提示することがこの本の趣旨ではないのだろうけど、何となくモヤっと。

自身はリベラルな立場という著者的には深い意味はないのかもしれないが、副題の「愛国ポピュリズム」にあるように「愛国」という単語を右派的イデオロギーの延長線上のように使ってしまうところに日本のリベラルの残念さを感じる。個人的には「愛国」を右派の専売特許にしてしまったのは日本の左派の失敗だと思う。愛国か反日かという空虚な二項対立にわざわざ自分から乗っかるようなもんじゃね?

満足度:★★★☆☆

マルコム・グラッドウェル『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ~「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと~』

再燃した#BlackLivesMatter運動のきっかけになったジョージ・フロイドの死は、黒人差別の問題“だけ”だったのだろうか?と考えさせられる本。

本では最初に、2015年に黒人女性サンドラが些細な行き違いで白人警官ブライアンに逮捕され、3日後に留置所で自殺した事件を取り上げる。その逮捕から死に至るまでの要因を最後に明らかにするために色々な事例を取り上げながら展開してゆく。

何の脈略もなく事例を展開して後で伏線を回収する手法もあって、文章自体は読みやすいものの話の流れに多少混乱するが、最後は「ふむ、なるほど」となる。

これは「他人を理解できるようになる」方法が書いてあるわけではなく、「他人を理解することがいかに難しいか」が分かる本。そんなの本なんか読まなくても当たり前のことと思いそうだが、「相手の目を見たらわかる」とか、相手の表情やしぐさでその人の内面が分かるという考えがいかに思い込みに過ぎないか心理学の実験例を挙げて証明しているところとか興味深かった。

満足度:★★★★★

J.C.カールソン『CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる』

珍しくビジネス実用書を読んだ。

偶然にもマルコム・グラッドウェル著『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』内で取り上げられたのと同じ事例が出てくる。

アメリカとキューバの諜報戦で、アメリカの協力者の多くは実は二重スパイで、アメリカの情報がキューバに筒抜けだったこと。しかもアメリカ国防省で「キューバの女王」と呼ばれ、CIA長官から表彰されたこともあるエリート分析官ですらキューバの二重スパイだったほど、キューバにこてんぱんにやられたアメリカ。

別々の2冊だが、事例から学べることとして同じようなことが書いてあった。

「自分には人を見る目がある」と思っている人は、たいていの場合、先入観や偏見に過度の自信をもっているにすぎない

本の内容としては「まずは自分から話をして相手に情報を与える」とか「情報を引き出すためには、相手に「いま自分が重要なことを話した」と意識させないように徐々に話題を移していく」とか、「相手に会うために誰かに紹介を頼む」とか、そういうCIAテクニックが書いてあって、面白いか面白くないかで言えばあまり面白くなかった。

満足度:★★☆☆☆

谷田勇『実録・日本陸軍の派閥抗争―復刻版「龍虎の争い」』

実は、タイ陸軍の派閥について色々読んでいて…2000年まではバンコクを本拠地とする第1歩兵師団を中心としたウォンテーワン派(วงศ์เทวัญ)が最有力派閥だったんだけど、2000年以降はクーデターを連続して成功させている東部の第2歩兵師団を中心としたブラパ・パヤック派(บูรพาพยัคฆ์)が実権を握っているというマニアックネタ。

次にタイでクーデターがあったら、どの派閥が主体になってるかで軍内部の力関係の変化が分かるという楽しみ方もある。一口に「軍部のクーデター」と言っても、決して一枚岩ではなく色々と派閥同士で権力闘争があるのね…という流れで、旧日本陸軍の派閥の本も読んでみようと。

著者は谷田勇陸軍中将で、590ページという恐ろしくぶ厚い絶版本。

防衛庁戦史室から声がかかって書いたのが元になっているので資料的要素の強い本で、当然のことながらめちゃくちゃ読みにくい。

二葉会と無名会から一夕会に、そして一夕会の分裂から統制派と皇道派に、という軍内派閥の流れがよく分かる全然面白くない本。

満足度:★★☆☆☆

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『なにかが首のまわりに』

ナイジェリア・イボ族作家の全12話からなる短編集。

表題作『なにかが首のまわりに』は河出書房新社のサイト上で全文公開されている。

表題作のように主語が「きみ」と二人称で書かれていたり、「火を通さない米粒のようにぶつぶつと鳥肌が立った」とか独特な表現が特徴的。

満足度:★★★☆☆

小野一光『震災風俗嬢』

東日本大震災からわずか一週間後に営業を再開させた風俗店もあったそうだ。

震災のせいで家も仕事も失くして風俗嬢に…という話ではない。

「家を流されたり、仕事を失ったり。それでこれから関東に出稼ぎに行くという人もいました。あと、家族を亡くしたという人もいましたね」

「えっ、そんな状況で風俗に?」

思わず声に出していた。だが彼女は表情を変えずに続ける。

「そんな場合じゃないことは、本人もわかっていたと思いますよ。ただ、その人は『どうしていいかわからない。人肌に触れないと正気でいられない』って話してました」

「いくつくらいの人ですか?」

「三十代後半の人です。子供と奥さんと両親が津波に流されて、長男と次男は助かったらしいんですけど、いちばん下の男の子と奥さん、あと両親が亡くなったそうです。(中略)その人はプレイのあとで添い寝をしてほしいと言ってきたので、そうしてあげました」

方法の良し悪しとか好き嫌いは別としても、震災直後の風俗嬢の存在意義ってただ単に性的サービスだけってより、それ以外の部分でもあったと。

カウンセラーが「こころのケア」やる前に、風俗嬢がその役割を(本人が好む好まざると)担っていた、そういう需要があったというのは表立ってはいなくても事実だろうな。

満足度:★★★★☆

伊藤章治『現地報告・タイ最底辺 – ほんの昨日の日本』

1984年出版の絶版本。

まだ冷戦中で、日本は世界最大の貿易黒字国でバブル期が始まろうとしている頃に書かれた本ということで、当時のタイを知ろうと読んでみた。

タイ最大のスラム街クロントイには当時、こんな商売があったそうだ。

「子を貸し屋」という珍商売もある。子供を一日1000円で貸す商売。借りた方は、その子供を物乞いに仕立て、街頭で稼がせる。

「物乞い会社」は、失業者多数を集めて「社員」とし、「あわれっぽいしぐさ」など“物乞い学”を特訓、その上で市内の繁華街に送り出して稼がせていた。給料は一カ月1500円だったという。

一日1000円って、他の物価と比べるとちょっと高くないか?と思ったのだが、為替の違いで当時の1000円って100バーツだから…そんなもんか?

ちなみに、30年後である2014年のバンコクポストの記事によると「バンコクで見かける子供の物乞いはほぼ全員がカンボジア人で、まず1500~3000バーツ(約5100~10200円)でタイの人身売買業者に売られて、物乞いをさせると子供1人で1日平均1000バーツ(約3400円)稼ぐ。子供を見張る監視員の月給は6000バーツ(約20400円)。8~12才が一番人気で、組織同士で貸し借りする場合は月に12000バーツ(約40800円)払う必要がある」らしい。

12000バーツ÷30日=一日400バーツだから、1980年代前半で100バーツだったのが2010年代前半は400バーツと考えると…物価上昇率から見れば間違ってるわけではないか?

あと、この本を読んで知ったのだが…

水処理で国内最大手の栗田工業(東証一部上場)の創業者・栗田春生氏って、1981年8月8日にバンコクで殺されたんだね。粉飾決算の責任を取って栗田工業の会長職を辞任後、タイで起業してバンコク在住だったらしい。で、イサーンから出稼ぎで来て住み込みで働いていた16才の庭師の少年から200バーツ(当時のレートで2000円)の借金をお願いされて、断ったらメッタ刺し。

子供のレンタル代2日分。

満足度:★★★☆☆
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