目覚めた夜
真青な颪(フェーン)の夜が外から覗きこんでいる
月は森に墜落せんばかり
わたしを覚醒(めざめ)させ外を眺めさせているこの
にぶい痛みは何なのだろう?
わたしは眠りに落ち夢を見ていた;
真夜中にわたしを呼ばわり重苦しくさせる
この叫びは何なのか、まるでなにか大切なことを
しそこなっているとでも言うように?
できるならわたしは家のそとに
走り出し、庭も、村も、この土地も捨て去って
この叫び、魔法の言葉のくるほうへ
世界の外へと逃れてゆきたい。
“フェーン現象”って、雪雲や雨雲をふくんだ風が高い山脈を越える時に、乾いた暖かい空気になって、山脈の風下側では雲ひとつない晴天になる現象。言葉の起こりは、スイスアルプスを越えて吹く南風‥イタリア方面からの風なんだそうです。
ちょうど、↑上の詩におあつらえ向きの「夜のフェーン・ストーム」という実況録画がユーチューブにあったので、まずそれを見ていただきましょう:
夜のフェーン嵐 2010年2月28日
①スイス,アルトドルフ近郊
②スイス,ブルンネン
すごい風ですね。風が強くて、立ってられません。日本の感覚で言うと、大型台風並み? 後半では、自動車がワイパーを動かしてますけど、雨じゃないんですよw 湖の水が風にあおられてシャワーになって降って来るんです!!‥‥まさに疾風怒濤!
これは、30年に一度の強さのフェーンだそうです。しかし、例年でも、フェーンの強風は台風並みです。
アルプスから下ろしてくるフェーンは、冬から春にかけて、乾いた暖かい風で、雪どけをもたらす。“春一番”みたいなものかな?‥と思いたいですが、そんな生易しいもんじゃなさそうです。カラッと晴れあがった春の大嵐ってとこでしょうか?
チューリヒ湖のフェーン 2017年3月4日
スイス,チューリヒ近郊,チューリヒホルン
↑平年の風の強さは、こんなもの。しかし、雪が全然ありませんね。標高は、かなりあるでしょう‥‥チューリヒ市で、約400mです。3月初めと言えば、日本では関東の山沿いでもまだ雪が残っている季節。スイスは、フェーンのせいで、あったかいんですねえ‥‥
「アルプスの北側では、フェーンの低い湿度のために、ひじょうに視界が良くなる。冬と年初には、フェーンは乾いた空気と高い温度によって、雪どけをもたらす。」
フェーンの時の視界の良さは、たとえば南ドイツのレーゲンスブルクでも、200km先まで見渡せるほどだそうです。
「アルプスを横切る南からの気流は、典型的にはアルプスの北側の“フェーン谷”に、温暖な気温と晴天をもたらすが、この現象は春に最も多く見られる。〔…〕
アルプスを南から横切る典型的なフェーン気流は、春に最も多く起きている。〔…〕
典型的なフェーン状況にあるとき、アルプスの南斜面では、雨雲が空を蔽っている。〔斜面に衝突した〕気塊が上昇することにより、雨雲はかなりの降水をもたらす可能性がある。アルプス南斜面にわだかまった雲の壁は、北側から見ると“フェーンの壁”と呼ばれる風景になる。〔…〕
気塊が〔山脈を越えて北側の斜面を〕降下すると、雲は砕けて無くなってしまう。この地域に見られる澄んだ空気と青い空は、“フェーンの窓”と呼ばれている。」
ところで、ヘルマン・ヘッセは、第1次大戦が終る 1919年までは、アルプス主稜線の北側に住んでいました。しかし、それ以後は、1961年に亡くなるまでずっと、スイス最南端、イタリア国境に近いテッシンにいました。主稜線の南側です。きょう出した2つの詩は、どちらもテッシンに住んでいた時のものです。
たしかに、春先に南風が吹くときには、アルプス主稜線の北側に、フェーンの温かい強風が吹きおろす。↑上の動画はみな、北側で撮ったものです。しかし、春でも北風が吹く日は、アルプスの南側にフェーンが吹きおろすことになります。北風のフェーンも、やはり乾いた強い風で、雲ひとつない晴天になりますが、南風フェーンよりは寒いようですね。日本の関東地方に吹く“からっ風”に近いのかもしれません。
「〔通常のフェーンと〕逆の気圧配置の場合には、アルプスの南側に“北風フェーン”が起きる。〔…〕“北風フェーン”は、アルプスの北側には曇りと降雨をもたらす。南側には、“フェーンの窓”を現出させ、場合によっては気温を上昇させる。しかし、北側でのフェーン現象とは異なって、“北風フェーン”は、しばしば比較的寒い強風となる。」
↓こちらは“北風フェーン”の実況。イタリア~スイス国境沿いのイタリア側、前アルプス山地の上での録画です。
カンポ・デイ・フィオーリ山のフェーン 12月?
イタリア,モンテ・カンポ・デイ・フィオーリ州立公園
さて、今夜の音楽ですが、“疾風怒濤”ということで、チャイコフスキーの4番を聴いてみましょう。ベートーヴェンの田園交響曲とか、ロッシーニのウイリアム・テル序曲とか、嵐の音楽はいろいろあるんですが、みんな雨の降る嵐ですよね? カラッと晴れた疾風のフェーンには、これがいいんじゃないかと思います。
スヴェトラノフの“爆演”はフィナーレにとっておいて、まず第1楽章は、ロンドン・シンフォニーのソツのない演奏で、きれいにまとめてもらいます:
チャイコフスキー「交響曲第4番」
第1楽章 アンダンテ・ソステヌート - モデラート・コン・アニマ
ジョージ・セル/指揮
ロンドン交響楽団
れいによって、2,3楽章は飛ばしちゃいましてw、フィナーレに行きます。スヴェトラノフの“ドドーン!バシャーン!”は、この曲のこの楽章が最高じゃないかと思いますw ビデオを見ていると、もう得意満面、ノリノリにノッてますねえ‥‥ 死に物狂いで奮戦する将兵を軽々と率いる赤軍の指揮官さながら、終始スクッと直立して、余裕のある微笑さえ見せる姿は見ものです。終結部をぜひご覧あれ‥最後のガッツポーズが決まってる。
古い録画なので、雑音がある点はご容赦ください。。。
チャイコフスキー「交響曲第4番」
第4楽章 フィナーレ アレグロ・コン・フオコ
イェフゲーニィ・スヴェトラノフ/指揮
ソビエト国立交響楽団
三 月
みどりのつばさが通りすぎた斜面では
もう菫(すみれ)の青が祝杯をあげている
黒い森のまわりにだけ斑(まだら)雪が
ぎざぎざの舌を出して横たわる。
それでも一滴また一滴垂れたしずくは
渇いた大地に飲みほされてしまう
蒼白いそらには羊雲の
むれが日に輝いて進んでゆく。
繁みに溶けこむ鶸(ひわ)のつがいの睦み合う声:
人間たちよ、きみらも歌いそして愛し合え!
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