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    開戦5年目の秋の晩

 楡の葉叢で夜が騒ぐ、
 亡霊でいっぱいの庭が哂
(わら)う、
 わたしは窗戸
(こまど)を軋らせて
 わが心をふたたび閉ざす。
 鋭く冷たく硝子を光がつんざいた、
 西からの突風が音をたてて
 部屋の灯りを吹き消し樹々の深奥からの呻
(うめ)
 暑苦しい身悶えを焚きつける。

 ああぼくらのような夢想家はいったい何をしたらいい?
 詩人と思想家はこの世で余所者
(よそもの)だ――
 ぼくらをパイロットか将軍にしてくれ、
 でなくば発狂させるか、灰緑色(※)の戦場の獣にしてくれ!
 瓶を揺すってぼくらにワインを浴びせてくれ、
 粉々になった窓からぼくらの威厳を放り出したっていい、
 ただ惨めな昔を思いつづけるのだけは御免だ!
 すると楡から月が昇ってくる、
 あのころの月、幸せだった夜々の月だ、
 涙を流しておまえを見上げよう、
 すべての聖なる財産権利の象徴よ、
 すべて良きもの愛しきもの、わたしが失くしたすべてのもののシンボル、
 おおおまえをわたしの心は信じきっている、
 おまえだけは嘘をつかないし騙しはしない、
 おまえを昔の涼しいまなざしにとらえれば
 それはいまでも音楽、慰めの光なのだ!

 外では原っぱから隠密斥候隊が忍び寄って来る、
 鉱山が爆破され、塹壕の狂気が白熱する、
 土といっしょに哀れな血だらけの骨が飛び散る、
 将軍たちはその向うで相も変わらず
 びっこの駄馬を走らせるのに懸命だ、
 壊れた車両を泥と血の海に踏ん込ませて大わらわ、
 ああこの愚かな信心を埋めてしまおうじゃないか、
 愛と精神にもこの世に居場所があるように!


註(※) 灰緑色:旧ドイツ軍の制服の色。



 

 

シベリウス『悲しきワルツ』
パーヴォ・ヤルヴィ/指揮
エストニア祝祭管弦楽団

 


 日本国憲法の制定を審議した 1946年の帝国議会。9条の戦争放棄に反対した日本共産党の質疑に対し、吉田茂首相(日本自由党のち自民党)は、防衛権・再軍備など時代遅れだ!と反論:

野坂参三議員 戦争には正しい戦争とそうでない戦争がある。侵略された国が祖国を守るための戦争は正しいのではないか。 

 

 吉田茂首相 近年の戦争の多くは国家防衛権の名において行われたることは顕著なる事実であります。故に正当防衛権を認めることが戦争を誘発するゆえんであると思うのであります。」

柄谷行人『憲法の無意識』,岩波新書,pp.3-4.


 これだけ本気でブチ上げといて、いったいどこが「押しつけ」なんだか?!

 

 その後、吉田首相は、アメリカからの“再軍備指令”に抵抗はしたものの、「警察予備隊」を創設して再軍備開始、「この程度は『戦力』ではない」と言いつくろって“解釈改憲”の嚆矢となる。これにつづく歴代自民党の“解釈改憲”三段跳び→無制限軍拡は、周知のとおり。他方、共産党は、戦後一貫して日米安保破棄・自主防衛論を主張しつつ、なぜか「9条反対」は言わなくなって、護憲運動の中心勢力に。1992年には野坂参三を――大戦中、日本人同志数名をスターリンに虚偽密告し、処刑させたのが発覚―――除名処分にしています。 野坂本人は、「事実だからしょうがない」と語って翌年死去。もっとも、「密告」は80-90年代の日本共産党(宮本顕治ら)による資料の曲解だとする歴史学者和田春樹による分析があり、「除名」は、「密告発覚」にかこつけた権力闘争とも見うる。

 「発覚」とは、ロシアがソ連の機密文書を公開したので「世間に発覚した」、という意味。もし「密告」が事実ならば、それを戦後50年、党内で誰も知らなかったなんて、私は信じませんww。スターリンの戦争(ファシズムの侵略に反攻して、西ではフィンランド東部・ポーランド東部・バルト3国、東では南樺太・南千島を併合)は「正しい戦争」なんでしょう。‥そーいえば「取戻すなら戦争」とか言って除名されてまだ国会議員やってる若いのもいたっけw 支持する気などさらさらないけど、集団的自衛権強行採決時に「あいつはいつかギロチンにかかるゾ」て書いた私の予言は当たったわけだ(^^)


 

シベリウス『フィンランド義勇軍行進曲』
オスモ・ヴァンスカ/指揮
ヘルシンキ大学男声合唱団
ラハティ交響楽団

 


 ロシア帝国からの独立運動を進めていたフィンランドは、第1次大戦でロシアの敵国ドイツに義勇軍を送って支援。独墺伊枢軸国の敗戦で打撃を受けたが、ロシア革命の勃発と、大戦後の国際連盟・民族自決主義という幸運に助けられて独立を達成。ただし、フィンランド人・ロシア人混住のカレリア地方は、ロシア(ソ連)領として残る結果に。

 

 




 

 

シベリウス『カレリアの運命』(1930年)
アレクシ・ヌルミネン/作詞
ハンヌ・ヤルム/テノール

 


 「ラプア運動」は、フィンランド独立後にフィンランド西部農民を中心に高揚したファシズム・反共運動で、フィンランド共産党の集会を襲撃し、共産党の非合法化・容共出版物禁圧を要求して支持を拡大。中立的なフィンランド議会も、これにおされて、共産党員の立候補を制限する法律を制定しました。 

 

 シベリウスが「ラプア運動」のために行進曲『カレリアの運命』を作曲したのは、単純な愛国心から、ソ連領として残されていたカレリア東部の奪還を期待したためと思われます。

 しかし、まもなく「ラプア運動」は、イタリアのムッソリーニに共感する指導者ヴィフトリ・コソラの下でテロリズム化し、フィンランド初代大統領カルロ・ストールベリを拉致して国境外・ソ連領に“追放”、その中途で発覚し、運動は失墜します。そして、フィンランドは、1939-40年「冬戦争」の結果、カレリアの大部分をソ連に割譲することになります。

 しかしその反面、「ラプア運動」は非合法化され、国民のファシズムへの警戒心を高める効果があったといえます。第2次大戦で、フィンランドは日独伊側に参戦しますが、もはや国内では、ナチス、ファシズムに熱狂するような動きはありませんでした。1944年、ソ連と互角に休戦し、ドイツ軍に攻撃開始。こうして、第2次大戦後は、東欧諸国のような・ソ連による占領と衛星国化の運命を免れたのです。


 

シベリウス『わが心の歌(トゥオニの森)』
アレクシス・キヴィ/指揮
ヘルシンキ大学男声合唱団


「トゥオニの森、夜の森

  砂の寝床は心地よい

  さあ連れて行ってあげよう」





      晩 夏

 もういちど、夏が萎
(しお)れるまえに、
 庭の手入れをするとしよう、
 花に水をやろう、花たちは疲れきっている、
 まもなく枯れるだろう、おそらくは明日
(あした)にも。

 もういちど、世界がふたたび
 気違えになって戦争をがなりたてるまえに、
 ぼくらは幾ばくかの美しいものにふれて
 楽しもう、それらに歌をうたってやろう。



 

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