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       朝の時間

 薄墨と蒼
(あお)に立ち上がる影の国
 峨々
(がが)たる山の端(は)を戴(いただ)
 暗く固く、明色の天の緑の前に鎮
(しず)む、
 鎮まること謹厳にして、荘重、かつ勇壮
 戦いを終えた戦士さながらに。
 森と谷間は深く夜へとなだれ、
 眠そうな薄明の人里は低く、貧相に、
 過酷な荒野のねぐらに伏す羊の群れに似て、
 千載の年古り、しかも童子
(わらす)のように
 古き頂きの記憶のなかでは幼い
 その頂が村々の拓
(ひら)くを見たのはまだ昨日、
 村々の零落し消えてゆくのを見守るであろう、
 頂きはかつての日、荒々しき地母神の熔け曲った胎内から
 灼
(いちしろ)く輝いて押し出されてきた、
 森も谷間も人里もまだ無かった頃のこと。
 彼はすべてを知る、あまりに多くを見てきたからには、
 鋸壁の狭間で狡
(ずる)賢く瞬(まばた)きする、
 没落といい死といい皆その合図を待っているのだと言うように、
 それを感じたからといってまだ冷徹にはほど遠い、
 それを考えたからといってまだ成熟にはほど遠いのだと。
 頂きは欠伸
(あくび)しながら手を伸ばす先には、
 光がそらいっぱいに充ち満ちてゆく、
 足もとの深い山峡にうごく幾多の流れ、
 それらを彼は海へとみちびく。
 彼が戴く峰と稜線は雪におおわれているが、
 そこに岩石の崩落が暗い痕
(あと)を残す、
 彼らは静まりかえり癒された
 心で東方の朝の呼び声を待っている。
 そして呼び声がどよめく:音はなく、ただ明るい!
 最も高い氷結の稜
(かど)に出現する
 火の色の光、まるで内部から噴き出たかのように、
 岩壁の尖峰すべてが耀き出し、放射する
 赤くまた黄金色、王者と燃ゆ。
 その光景に狂喜して目覚め
 耳を峙
(そばだ)てる山と渓(たに)と湖水。抑えつけていた幻は
 消えうせる。昼の時間が始まる。




 

サンサーンス『序奏とロンド・カプリチオ-ソ イ短調』
ジョシュア・ベル/ヴァイオリン・指揮
アカデミー室内管弦楽団

 


《序奏とロンド・カプリチオーソ》(仏語:Introduction et Rondo capriccioso en la mineur)イ短調 作品28は、カミーユ・サン=サーンスが作曲したヴァイオリンと管弦楽のための協奏的作品。ビゼー編曲のピアノ伴奏版でも演奏される。

 名ヴァイオリニストのパブロ・デ・サラサーテのために書かれ、スペイン出身のサラサーテにちなみスペイン風の要素が取り入れられている。初演当時から広く支持され、現在でもサン=サーンスの最も人気のある作品の一つである。

 

  構 成

 イ短調、2/4拍子、アンダンテ・マリンコニコの穏やかな序奏[0:04-]の後に、6/8拍子、アレグロ・ノン・トロッポの、情熱的な舞曲調のロンド主部[1:53-]が続く。

 主部の構成は[1:53]A(イ短調)-[2:41]B(ハ長調)-[3:28]A-[3:58]D-[4:33]C(ハ長調)-[5:57]A-[6:26]D-[7:42]B(ヘ長調)-[8:23]A-[9:05]コーダ。コーダの直前にはヴァイオリンの重音の連続による短いカデンツァ[8:46-]が挿入される。コーダ[9:05-]はピウ・アレグロ、イ長調に転じて音階による走句を繰り広げたのちタイトル通りあっけなく終結する。演奏時間は約9分。」

Wiki:「序奏とロンド・カプリチオーソ」

 


 サンサーンスといえば『動物のカーニバル』なんですが、有名すぎて気が退ける← でも、やりましょう。組曲全14曲のなかから、選曲は、こちらの独断的趣味で。

 

サンサーンス『組曲 動物の謝肉祭』から
第7曲「水族館」
サンクトペテルスブルク・ラジオテレビ交響楽団

 

 



 



 なぜか、「動物」のなかに「ピアニスト」が出てくるんですな。ピアニストだって動物だ、と言いたいのか? ピアニストこそ人間の代表だ、と言いたいのか? それにしても、よくまあこんなワケありのピアニストを連れてきたものです。↓世界的巨匠にとって、わざと下手に弾くのは、とても難しい技術なのでしょうな。

 

サンサーンス『組曲 動物の謝肉祭』から
第11曲「ピアニスト」
マルタ・アルゲリッチ/ピアノ
ネルソン・フレール/ピアノ

 

 

サンサーンス『組曲 動物の謝肉祭』から
第12曲「化石の踊り」
アンドレ・プレヴィン/指揮
ピッツバーグ交響楽団

 

 

サンサーンス『組曲 動物の謝肉祭』から
第14曲「終曲」
アンドレ・プレヴィン/指揮
ピッツバーグ交響楽団

 



 さいごに、↓これもサンサーンスのよく知られたナンバ―。同じテーマでヘッセの詩を続けてみます。

 

サンサーンス『交響詩“死の舞踏”』作品40
シャルル・デュトワ/指揮
フィルハーモニア管弦楽団

 




      初 雪

 おまえは老いてしまった、みどりの年よ、
 枯れきった眼つき、髪に雪を置く、
 歩くもそぞろ、ひと足ごとに死を懐
(いだ)く――
 わたしはおまえと行こう、おまえと死のう。

 おそろしげな径
(みち)踏む心は躊躇(ためら)いがちだ、
 雪の中で冬芽が不安そうに眠っている、
 なんと多くの小枝を風が折り取って行ったことか、
 その瘢痕がいまはわたしの甲冑だ!
 なんと多くの苦
(にが)い死をわたしは死んだことか!
 死はすべて新たな誕生によって報われた。

 死よ、来るがよい、暗黒の扉よ!
 その向う岸には生の合唱が高鳴っている。



 

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