追想の彼方

自然の中で、日々の暮らしの中で…移り変わり揺れ動く心の内を 気儘にも身勝手にも感じるままに。

指先に灯す

隣にいるのに
視線は変わらず
赤信号に静止する人型に向けられたまま
まるで無関心を装う恋人のような
切ない秋の街角


淋しさに痛む胸を擦る
さすらい風が 冷たく幾度も吹き抜けて


輝きだす朝の空に
鱗になりきれない淡雲たちを
遠い南へ追いやってゆく



鳴りやまない喧騒は
交差点に溢れ
ただ眩く降り落ちる
温かな光が 陽気に躰を包みながら
乾き切らない心の部屋の
暗い隅まで滲んだ



郊外の幹線道沿いに
新装開店したばかりの
スーパーマーケットみたく
馴染めない
小奇麗な季節の匂い


これから
どこへ行こうかと
込み入る電柱の頭を眺めても
見えてくるのは
爪先の悴む 開け透けた冬へのロード


ありふれたリズムで歩道に零される
支子色の会話が 足もとを泳ぎ
並ぶ人影は輪郭を揺らしながら
背中に消える



紙コップ一杯の
ホットコーヒーを
じっくりと飲み干したような表情で


ー病院の待合室を発つ時
 透明なドアの前で
 不意に振り返り  
 すき間だらけの長椅子をみるように



焦げくさい
昨日の夕暮れの田舎道が
薄っぺらく目の前に伸びてゆき


萎れそうな眼差しに
軽く微笑んで
ゆるり 瞼の裏に転がった

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