職場の人間関係がうまくいかない 【3】


感情の取り扱い事例
職場の人間関係がうまくいかない。。。【3】
子どものように抵抗する受講生

受講生は職場の人間関係でつまづくことを繰り返していた。(詳細は前々号から。)

受講生は、「職場では話し合いをして決めるのがルールだと思っていたが、ディスカッションのつもりで話をしているのに職場の人たちにはそれが強く感じられるみたい」と言っていた。

受講生のルールが会社でうまく機能しないのには以下の2つの理由がある。

その1)社会人と学生ではルールが違う。
話し合いで決めることが間違いだとは言わない。チームは話し合うことで意思疎通を図れるし、全員で決めた方が良いこともある。ただ、ざっくり言うと社会人は仕事を通して、お客様の利益と会社の利益を増やすことで社会に貢献し、給料を頂くことが目的で、それぞれに立場や役割があり、多数決では決めれないことも多い。その点、学生とは違う。学生は勉強をすることにより自身の知識を増やしていくことが目的で、皆、同じ立場だ。受講生のルールはみんなで決める!といった立場が平等な学生の時のルールであるように感じた。
会社では優秀な人や経験値が高い人の判断に従うし、トップダウンで決まってしまうことも当然ある。ましてや、入ってきたばかりの新人はそこの仕事の仕方を覚えることが精一杯なはずで、話し合いの土俵に乗せられないことだってあり、右も左もわからない新人が決められるものなど基本、ひとつもないはずだ。

その2)正しさを武器に使っている
「話し合いをして決めるのがルール」というのは、「全員一致がルール」と言っているのと変わらない。『全員一致』ができればそれがいい。しかし、生きてきた環境も経験も年齢も違う人たちが誰も我慢せず全員一致になることなどあるのだろうか。とても現実的ではない。
受講生は「ディスカッションのつもりで話をしているのにそれが強く感じられるみたい」と言っているが、正論を言っているので強くなってしまっているのかもしれない。正しさは相手を攻撃する武器になりやすい。ましてや自分の正論は他者の正論ではない。皆、自分が正しいと思って生きている。そうであって当然だ。しかし、組織やチームで働くとなると、自分の正しさを脇に置く力が必要となる。自分の正しさを脇に置いて、相手の話を聞くことが出来なければ「私はこれが正しいと思う!」と周りの状況を判断できず、自己主張をやめない子どもと同じだ。実際、受講生に意地悪をしてくる上司だって自分が間違っているとは思っていない。「有資格者だろうが新人なんだから、何でもやってもらうわよ」と思っているから、堂々と意地悪な(受講生にとっては)指示を出してくる。正しさを武器にしている行為という点で言えば、受講生と意地悪な上司は同じということになる。受講生が正しいと思っていたルールは学生の時のもので、社会で使い続けると当然、不具合を起こしてしまうものだった。

いじわるな人がいたからって自分がいじわるになる必要はない。

受講生は被害者になっていて、いじわるな人が加害者で、職場には二人から距離を置いている傍観者もいるはずだ。人は加害者、被害者、傍観者といった立ち位置を選んでしまう。誰かが被害者をやるということは、誰かが加害者となる。被害者は被害者になることで加害者を攻撃している。「あの人のせいでこんな気分になった」と言うのは、その嫌いな「あの人」に自分の感情の主導権を渡していることと等しい。自分の感情の主導権を加害者に預けるなんてやめた方がいい。ベストは常に中心にいることだ。加害者や被害者、傍観者になることなく、自分で真ん中にい続けること、安定した自分でいることを心がける必要がある。感情も行為も私たちは選ぶことができる。受講生の場合、意地悪な上司に自分の感情の主導権を渡さない、いつも自分が自分の感情の主導権を持つと決めることが大切だ。

セルフのB(自己認知)が、会社の人たちに大切に扱われるかどうかで自分の価値を確認するほど、自分の価値を危ぶんでいたとわかり、職場でのコミュニケーションがうまくいかない理由のひとつが、学生の時のルールを持ち込んでいたことと分かれば、次は実践が必要となる。

成熟には心からの作用と型からの作用がある。
人が本当に変わろうと思ったら時間はかかるものだ。少しでも成熟を早めたいと思ったら、心からと型からの両方から働きかていく。心からの作用とは、ここでやっているように感情のしくみを理解し、自分の本当の思いを自覚すること。型からの作用とは、成熟した人が取る行動の型を真似るといったもの。武道があった日本では、型から入ることによって心がついてくるといった教え方があった。受講生は心の作用からのアプローチが終わったので、次は型からのアプローチをしていくことが大切になる。頭でわかっただけでは腹に落ちない。型をやってみて感じること、実感することが重要なのだ。

このケースの型はふたつ。
ひとつ目は社会人のルールに則ること

「さて、意地悪な上司に対して、あなたが中心に居続けるとしたら、具体的にどういう行為を選ぶことができる?」と受講生に質問してみた。すると「気にせず、自分の仕事をする」と。なかなか良い線だが、惜しい!有資格者ではあるが、新人であることを考えたら、受講生は「自分の仕事」といった境界線が強すぎる。「これはやりますけど、これはやりません」なんてことを職場でしていたら誰だってげんなりする。意地悪な上司はきっと「私は正社員だし、あなたは新人でパートでしょ?時間いっぱい、やってもらうわよ。」と思っている。大人としての成熟度を別にして考えれば、上司がそう考えても当然だ。社会には立場があって、自分の立場を正しくジャッジして今やれる精一杯をコツコツやれる人は本当に優秀な人材になる近視眼的に仕事を見てはもったいない。キャリアは長い時間を経て積み上げていくものだからこそ、もっと長い目で見る視点を持つ必要がある。(社会人ルール① 立場を考える)(社会人ルール② 長い視点でキャリアを見る)

だから、意地悪な上司がどんな仕事を振ってこようが「わかりましたー!」と言ってやる。どれも自分の仕事と思ってやるんだ。何でもしておいで!あらゆることを。考える時間がないくらい。と私が言うと、「いやだぁ…」と子どものように受講生は抵抗した。「雑用する自分が嫌だなぁ…そんなことまでできない。」と。私は正直を歓迎する。この受講生は素直で、わかった風で終わらせないところが持ち味だ。しかし、小さな仕事さえできない人に、一体どんな仕事ができると言うのだろう?(社会人ルール③ 雑用という仕事はない)

受講生に「仕事においては何を最優先に気にしなければならない?」違う質問をしてみると、間髪入れず「お客さんに良い仕事を提供できるように。」と返答する。
正解!その通り!お客さに本当に良い仕事を提供するためにはチームでやらなければならない。マンパワーには限りがある。チームのクオリティを上げるためにも、あなたはみんなから応援される存在になければならない。(社会人ルール④ チーム全体のクオリティを考える)本当に良い仕事を提供しようと思ったらやることが多いのよ。まずはやってみよう。そして、その時の感情を見てみよう!

と提案しても、まだまだ抵抗する受講生。「自分が大切にされないのでは⁈と思うと怖いし、大切にされないんならそれでいい。」雑用をするぐらいなら、退職した方がいい、大切にされない人たちなら離れる!と言っている。自分が相手を大切に思ってないのに相手はあなたを大切にしない。大切にされないならそれでいい程度にしかあなたが相手を思ってないのに、相手があなたを大切にするわけがない。(社会人ルール⑤ 自分が相手を思った分、相手はあなたを思う)
「私のこと、大切に扱って!扱ってくれなければやめます!」というのは、あまりにも幼稚すぎる。いじわるな人はどこにでもいるものだ。避けられないと覚悟した方がいい。(社会人ルール⑥ 世の中には様々な人がいる)意地悪な人は、意地悪する意地悪な人と思ってたらいい。優しいと思っていた人が意地悪になったら怖いけど、意地悪な人が意地悪するのはある意味、普通の出来事。

「続けれる気がしないので、この会社は辞めようと思っている。」と言う受講生。辞めても続けてもどちらでも構わないが、これが受講生のパターンだとしたらちょっと気になる。今、直面化しないと今まで繰り返してきたようにこれからも繰り返す。
セルフのB(自己認知)に気づいてもそれを緩める、緩めないは自分で選ぶことができる。現実に悪影響を及ぼしているセルフのB(自己認知)に気づいたからって絶対に緩めなければならないわけではない。それに、今すぐ取りかからなくてもいい。後回しにだってできる。しかし、必ずツケは回ってくる。小さなミスは先送りすると、中くらいのミスになってやってくる。さらに中くらいのミスを先送りすると大きなミスになるように。セルフのB(自己認知)の悪影響は時間を置くほどに大きなトラブルになって緩めることを強要してくる。ただ、今なら間に合う。放っておくと例えば結婚した相手のお母さんが意地悪だったりするんだよなぁ。するとやっと、「挑戦したい気持ちはあるけど、、、」とすこし前向きな発言が出てきた。

ふたつ目は自分の主導権は自分で持つこと

意地悪な上司のことは、意地悪する意地悪な人と思ってたらいいんだ。わざわざ反応する必要もなければ、意地悪な人がいるからって自分が変わる必要もない。誰が居ようが居まいがいつもの「自分が好きな自分」でいる。これが自分の主導権を自分で持つということ。(社会人ルール⑦ いつも好きな自分で居続ける)「だから?」ぐらいの取り扱いで十分じゃないか、恋愛の相手のように重要視する必要はない。仕事で重要視すべきは仕事の本来の目的だ。仕事の目的からブレないでいることを周りの人は必ず見ている。受講生は実験として次の講座までその職場を続けることにしてみた。(社会人ルール⑧素直にやってみること)

一週間ぐらいなら居てもいいかな…としぶしぶ型を受け入れた受講生が2週間後、講座に現れた姿は全く別人だった。
続きは次回。