こんばんは。Aokiです。
週末営業『路地裏の名も無きBAR』は、ときに舞台を移すこともあります。
☆☆☆
『舞台風景』
マスターは、知人の依頼で、退官される教授の送別会に出張していた。
都内でも有数の規模を誇る『坂の上ホテル』。
鳳凰の間は華やかな絨毯に彩られている。
天井を見上げると重力がいたずらをしたかのような錯覚を覚える。
400人ほどの列席者は、皆それぞれの分野で活躍しているのだろう、自信と僅かな虚飾を纏(まと)っている。
舞台の袖を降りたところに設えてあるBARコーナーでは、マスターも大忙しだ。
立食の会場内は、ざわめきで司会者の声もあまり聞き取れないでいる。
(やれやれ、どこでも見かける光景だなぁ。)
マスターは、カクテルに使うリキュールを補充しながら小さなため息をついた。
舞台の上では、それまで司会をしていた初老の紳士が声を張り上げた。
「それでは、ここらで余興の司会担当にマイクを渡したいと思います。」
待ってましたとばかりに舞台に駆け上がったのは、三十代中ほどの男性。
まばらな拍手にめげることなく、
「今日は、我らが鬼教授のめでたい席を大いに盛り上げましょう!
それでは、挨拶がわりにものまねをやります。」
客席に背を向けた彼の緊張に震える顔を、舞台袖のマスターは静かに見守っていた。
振り返ったときには、“こいつ絶対ばかだ”と誰もが納得する豹変ぶり。
無事かどうかは分からないが、大役を終え、舞台を降りる件の青年。
マスターはそっと1杯のカクテルを渡す。
“オールド・パル”
感謝の気持ちを伝えるのは、言葉だけじゃありません。
(ばかを演じることで伝える想いもありますね。)
written by Z.Aoki
☆☆☆
物質的な不自由。
横行する理不尽。
そんな時代が去り、便利で複雑な世の中になりました。
時代の流れは誰にも止められるものではありません。
「昔はよかった・・・」とも思いません。
それぞれの時代が緩やかに流れているだけです。
そこを漂う生きものは、どのような殻を纏っていたとしても、大差はありません。
その殻は、多くは他人から与えられたものです。
しかし、貧弱な魂であるほど、この殻に執着するようです。
ところが、いつの時代も、”愛すべきバカ”という生きものが生息しておりまして・・・
自分の利益には不器用でも、他人のために精一杯バカを演じるのが特徴です。
報われることはほとんどないのですが、ときに、美味い酒があたるわけです。
恥をかくことは、恥ずかしいことではありません。
恥をかくべきときに何もしないことが、恥です。
そして、最も恥ずかしいことは、こんな風に、説教じみたことを言うことです。
”自戒”という文字が、大軍で押し寄せてきました。
Z.Aoki
週末営業『路地裏の名も無きBAR』は、ときに舞台を移すこともあります。
☆☆☆
『舞台風景』
マスターは、知人の依頼で、退官される教授の送別会に出張していた。
都内でも有数の規模を誇る『坂の上ホテル』。
鳳凰の間は華やかな絨毯に彩られている。
天井を見上げると重力がいたずらをしたかのような錯覚を覚える。
400人ほどの列席者は、皆それぞれの分野で活躍しているのだろう、自信と僅かな虚飾を纏(まと)っている。
舞台の袖を降りたところに設えてあるBARコーナーでは、マスターも大忙しだ。
立食の会場内は、ざわめきで司会者の声もあまり聞き取れないでいる。
(やれやれ、どこでも見かける光景だなぁ。)
マスターは、カクテルに使うリキュールを補充しながら小さなため息をついた。
舞台の上では、それまで司会をしていた初老の紳士が声を張り上げた。
「それでは、ここらで余興の司会担当にマイクを渡したいと思います。」
待ってましたとばかりに舞台に駆け上がったのは、三十代中ほどの男性。
まばらな拍手にめげることなく、
「今日は、我らが鬼教授のめでたい席を大いに盛り上げましょう!
それでは、挨拶がわりにものまねをやります。」
客席に背を向けた彼の緊張に震える顔を、舞台袖のマスターは静かに見守っていた。
振り返ったときには、“こいつ絶対ばかだ”と誰もが納得する豹変ぶり。
無事かどうかは分からないが、大役を終え、舞台を降りる件の青年。
マスターはそっと1杯のカクテルを渡す。
“オールド・パル”
感謝の気持ちを伝えるのは、言葉だけじゃありません。
(ばかを演じることで伝える想いもありますね。)
written by Z.Aoki
☆☆☆
物質的な不自由。
横行する理不尽。
そんな時代が去り、便利で複雑な世の中になりました。
時代の流れは誰にも止められるものではありません。
「昔はよかった・・・」とも思いません。
それぞれの時代が緩やかに流れているだけです。
そこを漂う生きものは、どのような殻を纏っていたとしても、大差はありません。
その殻は、多くは他人から与えられたものです。
しかし、貧弱な魂であるほど、この殻に執着するようです。
ところが、いつの時代も、”愛すべきバカ”という生きものが生息しておりまして・・・
自分の利益には不器用でも、他人のために精一杯バカを演じるのが特徴です。
報われることはほとんどないのですが、ときに、美味い酒があたるわけです。
恥をかくことは、恥ずかしいことではありません。
恥をかくべきときに何もしないことが、恥です。
そして、最も恥ずかしいことは、こんな風に、説教じみたことを言うことです。
”自戒”という文字が、大軍で押し寄せてきました。
Z.Aoki