ウイスキーの刻 ~Whiskyのとき~

耳を澄ませば聴こえるウイスキーのメロディ。
『ウイスキーの刻』は、その真実を探し求めていきたいと思います。

『舞台風景』

2019-02-15 19:19:19 | 日記
 こんばんは。Aokiです。

 週末営業『路地裏の名も無きBAR』は、ときに舞台を移すこともあります。

☆☆☆

『舞台風景』


 マスターは、知人の依頼で、退官される教授の送別会に出張していた。

 都内でも有数の規模を誇る『坂の上ホテル』。
 鳳凰の間は華やかな絨毯に彩られている。
 天井を見上げると重力がいたずらをしたかのような錯覚を覚える。
 400人ほどの列席者は、皆それぞれの分野で活躍しているのだろう、自信と僅かな虚飾を纏(まと)っている。

 舞台の袖を降りたところに設えてあるBARコーナーでは、マスターも大忙しだ。
 立食の会場内は、ざわめきで司会者の声もあまり聞き取れないでいる。

(やれやれ、どこでも見かける光景だなぁ。)
 マスターは、カクテルに使うリキュールを補充しながら小さなため息をついた。

 舞台の上では、それまで司会をしていた初老の紳士が声を張り上げた。

 「それでは、ここらで余興の司会担当にマイクを渡したいと思います。」

 待ってましたとばかりに舞台に駆け上がったのは、三十代中ほどの男性。
 まばらな拍手にめげることなく、
 「今日は、我らが鬼教授のめでたい席を大いに盛り上げましょう!
  それでは、挨拶がわりにものまねをやります。」

 客席に背を向けた彼の緊張に震える顔を、舞台袖のマスターは静かに見守っていた。

 振り返ったときには、“こいつ絶対ばかだ”と誰もが納得する豹変ぶり。

 無事かどうかは分からないが、大役を終え、舞台を降りる件の青年。
 マスターはそっと1杯のカクテルを渡す。

 “オールド・パル”

 感謝の気持ちを伝えるのは、言葉だけじゃありません。
 (ばかを演じることで伝える想いもありますね。)


                               written by Z.Aoki

☆☆☆

 物質的な不自由。
 横行する理不尽。

 そんな時代が去り、便利で複雑な世の中になりました。

 時代の流れは誰にも止められるものではありません。

 「昔はよかった・・・」とも思いません。

 それぞれの時代が緩やかに流れているだけです。

 そこを漂う生きものは、どのような殻を纏っていたとしても、大差はありません。
 その殻は、多くは他人から与えられたものです。
 しかし、貧弱な魂であるほど、この殻に執着するようです。

 ところが、いつの時代も、”愛すべきバカ”という生きものが生息しておりまして・・・
 自分の利益には不器用でも、他人のために精一杯バカを演じるのが特徴です。

 報われることはほとんどないのですが、ときに、美味い酒があたるわけです。

 
 恥をかくことは、恥ずかしいことではありません。
 恥をかくべきときに何もしないことが、恥です。

 そして、最も恥ずかしいことは、こんな風に、説教じみたことを言うことです。
 ”自戒”という文字が、大軍で押し寄せてきました。 


                            Z.Aoki
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