こんばんは。Aokiです。
「週末に、何故、コラムを掲載するのか?」とのご質問をいただくことがあります。
ウイスキーに関する情報を求めていらっしゃる方々には、余計あるいは無駄かもしれません。
他人の書いたコラムを読まされるのは、苦痛に感じることさえあるのかもしれませんね。
その場合は、スルーしていただけると有難いです。
さて、理由ですが・・・
「”ある言語”、”ある暗号”でしか、伝えられないことがある。」ということかと思います。
大仰な表現ですが、実際はシンプルなことです。
感謝の気持ちを伝えるのに、美辞麗句を並べるよりも、満面笑みで「ありがとう」の一言の方が、伝わるのに似ていると思います。
人によっては、言葉よりも金品の方が伝わることもあるのかもしれませんが、私が伝えたいことは、「ありがとう」だけです。
そんな独りよがりの風景描写ですが・・・本日も、名も無きBARの開店です。
☆☆☆
『流れない川』
謎のバーテンダーが、ごく稀に、一人でお店をまかされるときがある。
その頃マスターは、友人の招きで電車とバスを乗り継ぎ、都心から遠く離れた山間(やまあい)の小さな村を訪れていた。
<マスターの心の声>
”いまどき、こういう所に嫁ぐ娘も珍しいし、それを許す友人の懐の深さにも敬服する。”
その一方で、昨夜の宴を思い浮かべ・・・
心からの祝いの儀というものを久しく味わっていなかったことを、改めて感じるマスターだった。
決して便利な場所ではないけれど、マスターは山の滋味を充分味わうことが出来た。
また、山ぶどうや黒すぐりを漬け込んだ焼酎は、自然の恵みを存分に堪能できる絶品だ。
マスターも友人のリクエストに応じ、東京から持ち込んだざくろやライムを使ったカクテルを村人にふるまい、好評を博した。
シェーカーやカクテルグラスが収納されたアタッシュケースを開けたときには、村人から歓声が上がったほどだ。
今朝方、帰路についたマスターは、バス停までの30分の道のりを清清しい気持ちで歩いていた。
すると、乾いた広大な土地に一心不乱に鍬(くわ)を入れる一人の男性が目に留まった。
手拭いでほっかぶりをしたその男性の横顔には、見覚えがある。
昨夜の宴で、部屋の隅で静かに飲んでいた男だ。
あまり周囲とは打ち解けておらず、かといって浮いているわけでもない。
例えるなら、普段歩く道の傍(かたわ)らに並ぶ木々のような感じだ。
マスターは仕事柄、集団でも異質なオーラを放つ者に目が留まる。
その男を起点として、幅3m、深さも1mほどはあろう溝が山の麓まで続いている。
“灌漑か?
しかし、付近に田畑はない”
不思議に思ったマスターは、男に声をかけた。
あまり人と交わるようには見えないその男は、ぶっきらぼうに答えた。
「川をつくるんだ。」
「川・・・ですか。」
そういえば、この村には川がない。
田畑を潤す水は、山からの湧水を引いているようだし、それぞれの家には井戸がある。
水には困っていないようだが、確かに川はない。
「何故、川をつくるのですか?」
「川がないから魚がいない。梅雨には水が溢れる。
なにより、川のない村で子供たちはどこで水遊びをするんだ。」
朴訥(ぼくとつ)とした中に、真の思いやりを持ったこの男。
村で変人扱いされているのは明らかだが、愛すべきばかだ。
「ところで町の人(ここではそう呼ばれるのか)、急ぐのかい?」
早めに出てきたので、バスが来るまでにはかなり時間がある。
「いえ、時間はありますよ。」
すると、男は照れくさそうに言った。
「俺にも何かその・・・しゃれたもんを作ってくれねえか?」
(しゃれたもんでよければ喜んで。
そう言えば、昨夜は殺到する村人に遠慮したのか、この男は寄って来なかった。)
「では、その川に水が流れる日を祝してお作りしましょう。」
マスターは例のアタッシュケースを開き、手早く、持参したライムと昨夜いただいた木苺を絞り、テキーラとともにシェーク。
三角のカクテルグラスに透明感のある赤いカクテル、閑静な山間に不思議な空間を醸し出している。
男の瞳は、初めてくわがたを見た少年のように輝いている。
大事そうにひとくち。
“おっ”とした顔でひとくち。
感心しながら最後のひとくち。
「うめ~な。」
仏頂面が屈託のない笑顔に変わる。
振り返るたびに手を振る男に、最後のおじぎをして村を後にしたマスターは、バス停で清清しい気持ちを感じていた。
さきほど男に作ったカクテルは、『マリア・テレサ』。
クランベリー・ジュースがなかったので、代わりに木苺を使った。
最初は水の流れない川。
もしかしたら変人としか思われない行為。
しかし、いつしか水をたたえ、魚が住みつけば、誰が今の男の行為を奇行とするだろうか。
そう言えば、あの男はカクテルの名を聞いてこなかった。
名も無き川を創る男には、無用のことか。
written by Z.Aoki
☆☆☆
『マリア・テレサ』
テキーラ40mlに対し、ライムジュースとクランベリージュースを各20ml加え、シェーク。
植物感の強いテキーラに、酸味と甘みが奏でるハーモニーは、清楚な淑女にも、小悪魔的な麗人にもお勧めのカクテルです。
酸味を強調する場合は、フレッシュライムを多めに使用するとよいでしょう。
ベースのテキーラは、『パトロン』のシルバーか、『エラドゥーラ』のプラタあたりがよろしいかと。
『パトロン』は、元々、ラスベガスのエステのお店だったと記憶しております。
『エラドゥーラ』は、馬の蹄鉄の図柄が特徴的なボトルです。
比較的、柔らかな印象があります。
『マリア・テレサ』・・・柔らかさに包まれつつも、芯のあるカクテルです。
『マルガリータ』とは、姉妹的な関係にあります。
未熟成あるいは60日以内の熟成であるシルバー(プラタ、クリスタル、ブランコ)が、基本です。
ただし、60日以上1年未満熟成のレポサドでも、馥郁とした風味で面白いかもしれません。
いずれにしましても、100%アガベのテキーラが置いてあるBARで、お愉しみください。
Z.Aoki
「週末に、何故、コラムを掲載するのか?」とのご質問をいただくことがあります。
ウイスキーに関する情報を求めていらっしゃる方々には、余計あるいは無駄かもしれません。
他人の書いたコラムを読まされるのは、苦痛に感じることさえあるのかもしれませんね。
その場合は、スルーしていただけると有難いです。
さて、理由ですが・・・
「”ある言語”、”ある暗号”でしか、伝えられないことがある。」ということかと思います。
大仰な表現ですが、実際はシンプルなことです。
感謝の気持ちを伝えるのに、美辞麗句を並べるよりも、満面笑みで「ありがとう」の一言の方が、伝わるのに似ていると思います。
人によっては、言葉よりも金品の方が伝わることもあるのかもしれませんが、私が伝えたいことは、「ありがとう」だけです。
そんな独りよがりの風景描写ですが・・・本日も、名も無きBARの開店です。
☆☆☆
『流れない川』
謎のバーテンダーが、ごく稀に、一人でお店をまかされるときがある。
その頃マスターは、友人の招きで電車とバスを乗り継ぎ、都心から遠く離れた山間(やまあい)の小さな村を訪れていた。
<マスターの心の声>
”いまどき、こういう所に嫁ぐ娘も珍しいし、それを許す友人の懐の深さにも敬服する。”
その一方で、昨夜の宴を思い浮かべ・・・
心からの祝いの儀というものを久しく味わっていなかったことを、改めて感じるマスターだった。
決して便利な場所ではないけれど、マスターは山の滋味を充分味わうことが出来た。
また、山ぶどうや黒すぐりを漬け込んだ焼酎は、自然の恵みを存分に堪能できる絶品だ。
マスターも友人のリクエストに応じ、東京から持ち込んだざくろやライムを使ったカクテルを村人にふるまい、好評を博した。
シェーカーやカクテルグラスが収納されたアタッシュケースを開けたときには、村人から歓声が上がったほどだ。
今朝方、帰路についたマスターは、バス停までの30分の道のりを清清しい気持ちで歩いていた。
すると、乾いた広大な土地に一心不乱に鍬(くわ)を入れる一人の男性が目に留まった。
手拭いでほっかぶりをしたその男性の横顔には、見覚えがある。
昨夜の宴で、部屋の隅で静かに飲んでいた男だ。
あまり周囲とは打ち解けておらず、かといって浮いているわけでもない。
例えるなら、普段歩く道の傍(かたわ)らに並ぶ木々のような感じだ。
マスターは仕事柄、集団でも異質なオーラを放つ者に目が留まる。
その男を起点として、幅3m、深さも1mほどはあろう溝が山の麓まで続いている。
“灌漑か?
しかし、付近に田畑はない”
不思議に思ったマスターは、男に声をかけた。
あまり人と交わるようには見えないその男は、ぶっきらぼうに答えた。
「川をつくるんだ。」
「川・・・ですか。」
そういえば、この村には川がない。
田畑を潤す水は、山からの湧水を引いているようだし、それぞれの家には井戸がある。
水には困っていないようだが、確かに川はない。
「何故、川をつくるのですか?」
「川がないから魚がいない。梅雨には水が溢れる。
なにより、川のない村で子供たちはどこで水遊びをするんだ。」
朴訥(ぼくとつ)とした中に、真の思いやりを持ったこの男。
村で変人扱いされているのは明らかだが、愛すべきばかだ。
「ところで町の人(ここではそう呼ばれるのか)、急ぐのかい?」
早めに出てきたので、バスが来るまでにはかなり時間がある。
「いえ、時間はありますよ。」
すると、男は照れくさそうに言った。
「俺にも何かその・・・しゃれたもんを作ってくれねえか?」
(しゃれたもんでよければ喜んで。
そう言えば、昨夜は殺到する村人に遠慮したのか、この男は寄って来なかった。)
「では、その川に水が流れる日を祝してお作りしましょう。」
マスターは例のアタッシュケースを開き、手早く、持参したライムと昨夜いただいた木苺を絞り、テキーラとともにシェーク。
三角のカクテルグラスに透明感のある赤いカクテル、閑静な山間に不思議な空間を醸し出している。
男の瞳は、初めてくわがたを見た少年のように輝いている。
大事そうにひとくち。
“おっ”とした顔でひとくち。
感心しながら最後のひとくち。
「うめ~な。」
仏頂面が屈託のない笑顔に変わる。
振り返るたびに手を振る男に、最後のおじぎをして村を後にしたマスターは、バス停で清清しい気持ちを感じていた。
さきほど男に作ったカクテルは、『マリア・テレサ』。
クランベリー・ジュースがなかったので、代わりに木苺を使った。
最初は水の流れない川。
もしかしたら変人としか思われない行為。
しかし、いつしか水をたたえ、魚が住みつけば、誰が今の男の行為を奇行とするだろうか。
そう言えば、あの男はカクテルの名を聞いてこなかった。
名も無き川を創る男には、無用のことか。
written by Z.Aoki
☆☆☆
『マリア・テレサ』
テキーラ40mlに対し、ライムジュースとクランベリージュースを各20ml加え、シェーク。
植物感の強いテキーラに、酸味と甘みが奏でるハーモニーは、清楚な淑女にも、小悪魔的な麗人にもお勧めのカクテルです。
酸味を強調する場合は、フレッシュライムを多めに使用するとよいでしょう。
ベースのテキーラは、『パトロン』のシルバーか、『エラドゥーラ』のプラタあたりがよろしいかと。
『パトロン』は、元々、ラスベガスのエステのお店だったと記憶しております。
『エラドゥーラ』は、馬の蹄鉄の図柄が特徴的なボトルです。
比較的、柔らかな印象があります。
『マリア・テレサ』・・・柔らかさに包まれつつも、芯のあるカクテルです。
『マルガリータ』とは、姉妹的な関係にあります。
未熟成あるいは60日以内の熟成であるシルバー(プラタ、クリスタル、ブランコ)が、基本です。
ただし、60日以上1年未満熟成のレポサドでも、馥郁とした風味で面白いかもしれません。
いずれにしましても、100%アガベのテキーラが置いてあるBARで、お愉しみください。
Z.Aoki