ウイスキーの刻 ~Whiskyのとき~

耳を澄ませば聴こえるウイスキーのメロディ。
『ウイスキーの刻』は、その真実を探し求めていきたいと思います。

『新千歳空港に降り立って』㉚

2020-06-02 19:19:19 | 日記
 こんばんは。Aokiです。


 試飲のお時間が終了しました。

 『WHISKY CLUB』からウイスキーを楽しまれた方々は、
 少々、酔いも回っているご様子です。

 帰りの階段は、ガイドが先頭で、落下防止に努めます。


☆☆☆

 「皆さま、本日は、新千歳空港から余市蒸溜所ツアーに
  ご参加いただき、誠にありがとうございます。
  少しでも、ウイスキー、そして、余市蒸溜所を
  好きになっていただけましたら幸いです。」

 余市駅では少々硬めの表情をされていた方々も、
 この道のりをご一緒する中で、お互いに
 気心が知れる間柄になられたようです。

 「では、バスの段差にお気をつけください。
  この後の楽しい旅をどうぞ満喫なさってください。」

 バスの入口で、おひとりおひとりにお礼を申し上げ、
 車内へと促します。

 さっちゃんの顔が曇っていることには、気づいております。

 最後の乗車が、こちらの親子です。

 「ガイドさん、今日は本当にありがとうございます。
  とても楽しいツアーで、この子もとっても喜んでいます。」

 「そう言っていただけると、大変有難いですね。
  どうぞ良い旅を。」

 そこへ、私の袖を引っ張る小さな手が・・・

 「おじさんは、バスで一緒に行かないの?」

 責め口調で訴えるさっちゃんに、お母さんがやさしくたしなめます。

 「ガイドさんはお仕事があるから、ここでお別れするのよ。」

 今にも泣きだしそうなさっちゃんは、口を真一文字に、
 黙ってバスに乗ります。

 お母さんに、洋服に付けてもらったヤカン、いえ、
 ポットスチルのピンバッジも寂しそうです。

 お母さんが深々と頭を下げられるので、大変恐縮いたします。

 バスが発進し、緩やかな曲線を描く中、車窓には、
 こちらをじっと見つめる小さな瞳があります。


☆☆☆


 バスは、余市蒸溜所を廻り込むように国道5号線に入ります。

 右手に余市駅が見えるころ・・・

 「ああ、しまった!」

 車内に響き渡る声の主は、八兵衛さん。

 「どうしたんだい?八さん。」と長老。

 「出発前にトイレに行くのを忘れてた!」

 「八さんらしいですね。」と
 リタ?ハーマイオニー?おじさん。

 「運転手さん、悪いけど、どこか、
  トイレのある所で停めてもらえないかい?」

 面倒見のいい長老が、交渉にあたる。

 「わかりました。
  余市駅隣接のお店にトイレがありますから、
  そこに停めましょう。」

 「すまんね。」


 バスは右折し、余市駅前に停車します。

 うっかり八兵衛さんが、一目散に余市駅に向かいます。

 あっ、そっちは逆。

 駅員さんに尋ねて、無事、トイレに辿り着いたようです。


 バスは再び緩やかに発進します。

 左手に見える公園は、すっかり初夏の装いです。

 「あっ!」

 「今度は誰だ?」

 すっかり一行の世話役となった長老が尋ねます。

 「おじさんがいる!」

 声の主は、さっちゃんです。

 「ははは、さっちゃん、ガイドさんは、
  さっき蒸溜所に残っていたじゃないか。
  ここにいるわけはないよ。見間違えたんだね。」

 八さんが、自分のうっかりを棚に上げて、仰います。

 「違うもん!確かにいたもん!」


 バスが通り過ぎるとき、さっちゃんのお母さんが、
 もう一度、頭を下げてくださいました。

 出逢いはいつも、一度きりです。

 ですが、それは、新たな出逢いを否定するものではありません。

 いつでも、お待ちしています。


                      ~ the end ~


                        Z.Aoki
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