約40年も昔の“ INDUSTAR 50-2 50mm/F3.5 ”というM42スクリューマウントのオールドレンズを、Nikon Fマウントへ改造して、最近のデジカメへ装着して遊んでみる企画です。
~INDUSTAR 50-2 50mm/F3.5とは~
鏡筒標記Made in USSR( Union of Soviet Socialist Republics ⇒ ソビエト社会主義共和国連邦 )とあり、
現在のロシアが1991年以前のソビエト連邦だった1950年代後半から90年代初頭にかけて、モスクワ近郊のKMZ(クラスノゴルスク機械工場)で製造された50mm/F3.5のパンケーキ型標準レンズで、当時シャープでキビキビとした描写で有名な通称「鷲の目」とも呼ばれた西独Carl Zeiss社のTessarを手本に造られたものです。
外観
レンズ構成は3群4枚のテッサー型 (左が前玉、中間の仕切りは絞り羽根)
シンプルな構成ですので小型軽量薄型化しやすい特徴があります。
レンズ名の『INDUSTAR(インダスター)』はロシア語で工業製品という意味があるとのこと。
英語標記のこれは輸出用で、国内販売用のキリル文字標記『ИНДУСТАР』も存在するようです。
M42スクリューマウントは、 このマウントの本家である東独製の一眼レフ「プラクチカ」にちなんで 別名 「プラクチカマウント」 とも呼ばれ、当時主流のグローバルマウントとして普及しましたが、ねじ径42mm x ねじピッチ1mmのねじ込み式マウントであるがゆえに、ねじ込んでいった時にレンズが固定される角度がばらつきやすく、自動露出機構であるTTL開放測光方式へ高精度で対応しながらレンズ着脱を容易にするために、M42陣営のメーカーは1970年代から80年代にかけて一斉にバヨネットマウントへ転進しました 。
その際に国際規格を制定してマウントを統一すればよかったものを、現在ではメーカーの数だけマウントの種類があるほどに、いや1メーカーでも複数のマウントを持つほどに多様化してきており、メーカー間の互換性に制約が多く困ったものです。
そんなわけでM42マウントのカメラはもう作られてはおりませんが、変換用のマウントアダプタを使用すれば最新デジカメへも装着することが可能です。
このレンズを入手したのはもう十数年も前で、内部に汚れがあったジャンク品を1500円で購入した記憶があります。
製造番号は79******となっており、調べてみると1979年製のようです。
セルフクリーニングした後に、フランジバック(レンズマウント面からフィルム面あるいは撮像センサー面までの距離)が同じ45.5mmのPENTAX Kマウント銀塩カメラへ純正マウントアダプタを介して装着しましたが、当時デジタル化への流れが早くて一度も使わずじまいとなっておりました。
PENTAX ME-Super という銀塩フィルムカメラ、左下のリングが純正のM42⇒Kマウント変換アダプタ
この変換アダプタはレンズマウントと面一になるように取り付く構造となっている。
PENTAX Kマウントのフランジバックもプラクチカマウントと同じ45.5mm
~フランジバックが異なる~
このレンズを現在メインで使用しているNikon製デジカメへ装着するには、M42⇒Nikon Fマウント変換アダプタが必要となります。
ところがNikon Fマウントはフランジバックが46.5mmですので、そのまま取り付けただけでは常にレンズが前側へ少し繰り出した状態となり、フォーカスの無限遠が出なくなります。
そのため補正レンズを組み込んだマウントアダプタも存在しますが、レンズとボディー間に他のレンズがプラスされますので、オリジナルレンズのもつキャラクターを損なうことが危惧されます。
今回は無限遠が出るようにレンズの無限遠位置を改造する前提で、補正レンズ無しのマウントアダプタを購入しました。
AliExpress : M42 Lens to for Nikon Ai Adapter
購入時は送料込みでUS$0.87でしたが、今見ると少し値上がりしているようです。
それでも利益出るのか心配なほど激安ですが…。
左のリングがM42⇒Fマウント変換アダプタ
~フランジバック変更改造~
レンズのフランジバックを45.5mmから46.5mmへ変更するためには、このフランジバックの差分1mmにマウント変換アダプタのつばの厚み1mmを加えた2mmのレンズ移動が必要となります。
レンズの無限遠位置をボディー側へ2mm近づけるために、レンズのヘリコイドの回転を制限しているストッパーピン(3本すべて)を取り除いてレンズ位置を下げられるようにします。
無限遠撮影距離側制限ピンが当たったところ、レンズが最も引っ込んだ状態です。
最短撮影距離側制限ピンが当たったところ、レンズが最も前へ繰り出された状態です。
分解して回転を制限しているストッパーピンを取り外す。
ヘリコイドは5条ねじになっているので、雄ねじと雌ねじがねじ込める箇所が円周上に5箇所あります。
組み付ける際はなるべく外した場所へ入れる方が良いかもですが・・・後記します。
仮組したらカメラへ取り付けて無限遠位置出しをします。
私はピント確認がしやすいスプリット式スクリーンのNikon FMを使用しました。
無限遠位置が判ったらフォーカスリングを取り付けますが、フォーカスリングの裾がベースと干渉するので少し削ります。
この裾がレンズベースに当たった位置が無限遠撮影距離側制限となりますので、マスキングテープで削る高さを設定し、平らな面に紙やすりを置いてなるべく平行になるようカットアンドトライしながら削っていきます。
作例では1.3mm削ってちょうど良くなりました。
ここまできて、フォーカスリングの前側に印刷してある絞り値と、レンズ群前側絞りリングの指標がずれている場合は、レンズ後ろ側のプラスねじ2箇所を緩めてレンズ群を回すと相対位置を調整することができます。
ひょとしたら前記ヘリコイドの5条ねじを入れる箇所を、分解前と同じ箇所へ入れれば、この作業は不要なのかも知れません。
無限遠調整をして絞り指標の相対位置出しも終えた完成状態\(^o^)/
~使用上の注意点~
フォーカスリングの回転を制限するストッパーピンを取り外してしまいましたので、最短撮影側へどんどん回して鏡筒を繰り出していくとそのうちヘリコイドが外れてしまいます。
どの程度回すと外れるか試してみました。
無限遠から1.2回転したところで隙間が見え始め、約1.9回転したところで外れました。
ここ↓がヘリコイドが外れる位置ですので、ここを越えて繰り出さないよう後程マーキング予定です。
~寄れるレンズに生まれ変わる~
従来のフォーカスリングは無限遠から0.8回転で最短撮影距離は65cmとなっていて、一般的な50㎜標準レンズの最短撮影距離45cmと比較して被写体に寄れないことが欠点したが、改造後は1.8回転で最短撮影距離は30cmとなり大きく改善しました。
マクロレンズなみとは言えませんがかなり接写ができるようになりましたので、ヘリコイド外れに気を付ければテーブルフォトなどにも使えそうです。
また、この改造後のレンズを本来のM42マウントとして使いたい場合でも、∞指標はズレますが鏡筒を2㎜繰り出した位置が無限遠となり使用可能です。
絞り羽根の様子、7枚羽根です。
左から絞り値の指標をf5.6、f8、f11に合わせてみました。
クリック感は無くて無段階に変化しますので中間絞りも自由です。
渋いお姿
露出計は連動しないので勘で撮りますっ!
そのうち試写したらまたUPしますね。
------------------------------------ 2018/09/22 追記 -----------------------------------
~デジタル対応追加工~
デジタルカメラの撮像センサー面はフィルム面より光沢があり光が反射しやすく、強い光が入るとミラーボックス内の内面反射でコントラストが低下することがあるので、レンズ後面を反射低減処理しました。
レンズベース面・・・黒色フェルトをドーナツ型に切り抜いて両面テープで貼り付け
ヘリコイド端面・・・黒色艶消しアクリル塗料を筆塗り
Before After
シャッターをバルブで開いて、フィルム室側からミラーボックス内を覗いたところ。
フェルトが効きそう。
ヘリコイドが外れる位置をマーキングしました。
赤色△指標同士が合わさる位置で外れますので、接写時はこれより少し手前で繰り出しを止めます。
写真の位置がヘリコイド繰り出し限界で、無限遠∞からおよそ1.8回転繰り出しており、最短撮影距離は30cmです。
撮ってみたいモチベーションが少し高まりました。