ヨーガスートラ 4章22節~4章34節 (完)





चितेरप्रतिसंक्रमायास्तदाकारापत्तौ स्वबुद्धिसंवेदनम् ।। 4.22 ।।

チッテーラプラティサンクラマーヤースタダーカーラーパットォ 

スワブッディサンヴェーダナム


चित्ते: अप्रति संक्रमायाः  
チッテーヘ アプラティ サンクラマーヤーハ
プルシャは、行為せず、客体に結びつかないけれども

तदाकारापत्तौ タダーカーラーパットォ
(
覚が真我に)没入したとき

स्वबुद्धिसंवेदानम् スワブッディサンヴェーダナン
(真我は)自分の側近にあるブッディを認知する。



真我は自分の顔を見るために鏡を見るように、サットヴァの状態にまで澄んだ覚(ブッディ)を通して、自身を認識します。2つは同化しないものですが、覚が自分のほうから真我を映して差し出す役目をし、真我はそれを見るところに、同化はしないけれども究極まで近づく関係があり、ヨーガ哲学で一番難しいとされるところです。

真我は純粋観照者や“純粋精神”とも言われるように、自ら行為はしない、心のように転変もしない、この世の幸・不幸と関係のない、ありのままを見る存在であるところから、真我は真我で既に完成されており、実は覚が一人で演じているだけに過ぎないところでもあります。




द्रष्टृदृश्योपरक्तं चित्तं सर्वार्थं ।। 4.23 ।।


ドラシュトゥリドゥリシュヨーパラクタン チッタン サルヴァールタン



द्रष्टृदृश्योपरक्तम् ドラシュトゥリドゥリシュヨーパラクタン
見るもの(真我)と見られるもの(客体)の両者に染められる

चित्तम् チッタン
チッタは

सर्वार्थम् サルヴァールタン
あらゆる客体(アルタ)を対象とすることができる。


真我(プルシャ)の別称は“ドラシュター”。外界の見られる対象のものは“ドゥリシャヤ”といい、チッタ(心)は両方を映し出すことから、心はどのような客体も映し出すことができます。



तदसंख्येयवासनाचित्रं अपि परार्थं संहत्यकारित्वात् ।। 4.24 ।।


タダサンキェヤヴァーサナーチットラン アピ パラールタンサンハッティヤカーリトワート



तत्
 タト
それは(チッタは)

असंख्येयवासनाभि :  サンキェヤヴァーサナービヒ
無数に蓄積された願望によって

चित्रम् अपि チットラン アピ
描かれている、それでも

परार्थम् パラールタン
他者(真我)のためにある。

संहत्यकारित्वात् サンハッティヤカーリトワート
なぜなら、心は様々な素質が結びついて働くものであるから



多くの物が集合して、用途をなすことをサンハテャカーリー(संहत्यकारी とよびます。たとえば家や料理などは多くの資材や材料が集まって作られます。そして、家や料理は、それ自身のためにあるのではなく、人の食や住のために存在しています。

自分自身のためでなく、他のもののために仕事をなしている様態はパラールタ(परार्थ、利他、善行)とよばれます。

このように、チッタもサットヴァ、ラジャ、タマ(सत्व,रज, तम)という3つのグナの複合と経験の蓄積によって出来ていて、自らのためではなく、プルシャのために存在しています。この世界で結合されてあるものは、第三者のためにあるという法則があり、サーンキャ哲学の根本にある思想もまた、心の目的は自身のためでなく真我に経験させ、解脱させることにあります。



विशेषदर्शिन आत्मभावभावनाविनिवृत्तिः ।। 4.25 ।।


ヴィシェーシャダルシャナ アートマバーヴァバーヴァナーヴィニヴリッティヒ




विशेषदर्शन :  ヴィシェーシャダルシャナ
(サマーディから生じた識別智によって)チッタと真我の違いを直に見た人の

आत्मभावभावनाविनिवृत्ति :  アートマバーヴァバーヴァナーヴィニヴリッティヒ

「これが真我だ」と感じている誤った感覚が消滅していく。


自性を知るために、私はどのような者なのか、前世や後世について思案し、それが自身の姿であるのだと思うこと、これをアートマ バーヴァ バーヴァナー(आत्मभावभावनाとよびます。

アートマーの本来の姿を知らない間は、高度な修行をした者であっても、考えることから抜け出せない罠があります。そこで、識別智によって、肉体やチッタがアートマーと別物であることを知り得ると、「アートマ バーヴァ バーヴァナー」という「これが自分であるというチッタの中で起こる意識、アイデンティティ」は完全に消え失せます。



तदा विवेकनिम्नं कैवल्यप्राग्भारं चित्तं ।। 4.26 ।।


タダー ヴィヴェーカニムナン カェヴァルヤプラーグバーラン チッタン



तदा  タダー
この時(ヨーギーの)

चित्तम् チッタム
チッタは

विवेकनिम्नम् ヴィヴェーカニムナム
識別の方へ傾き
(真実であるものと、非真実との識別)

कैवल्यप्राग्भारम् カェヴァルヤプラーグバーラン 
真我独存の境地に向かうことになる。


तच्छिद्रेषु प्रत्ययान्तराणि संस्कारेभ्यः ।। 4.27 ।।


タッチドレーシュ プラティヤヤーンタラーニ サンスカーレービャハ



तच्छिद्रेषु タッチドレーシュ
この真我独存の境地に向かう最中に、時間や空間の隔たりがあり、

प्रत्ययान्तराणि プラティヤヤーンタラーニ
他の想念が

संस्कारेभ्य:  サンスカーレービャハ
蓄積されたサンスカーラによって生じるものである。


हानमेषां क्लेशवदुक्त्तम् ।। 4.28 ।।
ハーナメーシャーン クレーシャヴァドゥクタム


एषाम् エーシャーン
このサンスカーラの

हानम् ハーナン
除去は

क्लेशवत् クレーシャヴァト
以前述べた煩悩を除去する方法(と同様に)

उक्तम् ウクタム
(除去が可能であると)言われている。



प्रसंख्यानेऽप्यकुसीदस्य सर्वथाविवेकख्यातेर्धर्ममेघःसमाधिः ।। 4.29 ।।


プラサンキャーネーアピャクシーダスヤ サルヴァターヴィヴェーカキャーテールダルマメーガーハ サマーディヒ  


प्रसंख्याने अपि プラサンキャーネー アピ
識別智を得ても

अकुसीदस्य  アクシーダスヤ
その智慧にすがり続けるのことなく、
それすらも断ったあと

सर्वथा विवेकख्याते:   サルヴァターヴィヴェーカキャーテーヘ
あらゆる全ての識別智に至った上で

धर्ममेघ: समाधि:  ダルマメーガーハ サマーディヒ
法雲三昧の境地が現れる。




ततः क्लेशकर्मनिवृत्तिः ।। 4.30 ।।
タタハ クレーシャカルマニヴリッティヒ



तत:タタハ
その時から
(法雲三昧によって)

क्लेशकर्मनिवृत्ति:  クレーシャカルマニヴリッティヒ
煩悩と業は消滅する。


तदा सर्वावरणमलापेतस्य ज्ञानस्यानन्त्याज्ज्ञे यमल्पम् ।। 4.31 ।।
タダー サルヴァーヴァルナマラーペータスヤジュニャーナスヤーナンティヤージュジュニェーヤマルパム



तदा  タダー
その時

सर्वावरणमलापेतस्य ज्ञानस्य  サルヴァーヴァルナマラーペータスヤ ジュニャーナスヤ

すべての覆いと汚れが去った智慧は

आनन्त्यात् アーナンティヤート
限り無い、境界の無い、無辺のものとなる

ज्ञेयम् अल्पम् ジュニェーヤム アルパム
(しかるに)知るべきものはわずかとなる


ततः कृतार्थानां परिणामक्रमपरिसमाप्तिर् गुणानां ।। 4.32 ।।


タタハ クリタールターナーン パリナーマクラマパリサマープティル グナーナーン



तत: タタハ
その後

कृतार्थानाम् クリタールターナーン
自らの目的を全て成し遂げた

गुणानाम् グナーナーン
グナの
(三徳の)

परिणामक्रमसमाप्ति:  パリナーマクラマパリサマープティヒ
転変のクラマ(相続)も完了する。



क्षणप्रतियोगी परिणामापरान्तनिर्ग्राह्यः क्रमः ।। 4.33 ।।
クシャナプラティヨーギー パリナーマーパラーンタニルグラヒヤハ クラマハ




क्षणप्रतियोगी クシャナプラティヨーギー
刹那(時間の最小単位)と密接に結びついており
(プラティヨーギー प्रतियोगी は、 密接しているもの。それぞれの刹那刹那を結びつけるもの)

परिणामापरांतनिर्ग्राह्य:  パリナーマーパラーンタニルグラヒヤハ
転変の終焉においてこそ把握することができるもの

क्रमः クラマハ
(これが)相続とよばれるものである。
(刹那刹那をつなぎ合わせ、一連の工程の形をつくるもの)


पुरुषार्थशून्यानां गुणानां प्रतिप्रसवः कैवल्यं स्वरूपप्रतिष्ठा वा चितिशक्तिर् इति ।। 4.34 ।।


プルーシャルタシューンヤーナーン グナーナーン プラティプラサヴァハ カエヴァルヤン スワルーパプラティシュター ヴァー チティシャクティリティ




पुरुषार्थशून्यानाम् プルーシャルタシューンヤーナーム
プルシャのためにという目標がすっかりなくなった

गुणानाम् グナーナーム
グナが
*グナはチッタの構成要素

प्रतिप्रसव: プラティプラサヴァハ
自分の本源に没入したもの

कैवल्यम् カエヴァルヤム
(この状態を)カエヴァルヤという。
*カエヴァルヤ=真我独存

वा ヴァー
もしくは

इति イティ
このようにも言える

चितिशक्ते : チティシャクテーヘ
ドラシュター(真我)が

स्वरूपप्रतिष्ठा スワルーパプラティシュター
自らの根源に安住することである。


(完)