新型コロナ感染症、COVID-19の重症化の機序として、体の免疫機構が暴走するサイトカインストームが注目されており、治療薬として、IL-6(インターロイキン-6)のIL-6受容体に対する結合を阻止するアクテムラが期待されていましたが、2020/7/29の発表では、重症コロナ患者を対象に実施した臨床試験(治験)において、患者の死亡率や臨床状態の改善が確認できなかったと報告されました。まだまだ予断を許さない状況が続いています。

 

このサイトカインストームの治療法の一つとして、間葉系幹細胞を用いた治療が世界中で試されており、効果があると推測できる報告が複数されています。

国内では、ロート製薬が、COVID-19重症肺炎を対象とした他家間葉系幹細胞を用いた再生医療の企業治験の計画を進めていると発表しています。元々、ロート製薬が重症肝硬変の治療のために治験を進めていた細胞製剤の転用ですが、実はこの間葉系(脂肪由来)幹細胞には、

1、抗炎症作用

2、血管新生作用

3、免疫調整作用

があることが知られており、暴走した免疫機構の調整を行うのには、単独のIL-6阻害だけでなく、複数の炎症性サイトカインに働きかけることが期待できます。

また、COVID-19は肺疾患と考えられていましたが、なぜ肺以外の重度な臓器不全を起こすのかは不明でした。
チューリッヒ大学のチームは、SARS-CoV-2が血管の炎症を直接誘発し、これが臓器不全や死亡の原因であると発表しました。

SARS-COV-2は肺炎を引き起こすだ けでなく、全身性内皮炎、つまり心臓、脳、肺、腎臓、腸管など体内のすべての内皮細胞の炎症にも直接関与し、ダメージを与え、多臓器不全や死に至らしめます。

若年者の正常な内皮細胞は、ウイルスによる発作にうまく対処できますので、若年者の重症化が少ないのです。しかし、喫煙者、高血圧、糖尿病、心不全、冠動脈疾患患者などは血管内皮機能が低下していて、これらの患者がSARS-COV-2に感染すると、すでに低下している内皮機能がさらに低下するため、特にリスクが高くなります。

この血管内皮細胞の新生にも脂肪由来幹細胞は、関与しており、ますます重症化の予防への期待が高まっているわけです。

 

 

 

破壊(Disruption)というのは、少ない資源しかもたない小さな会社が、確立された既存企業にうまく挑戦するプロセスである。

既存企業はその最も要求の高い顧客のために製品やサービスを改良していくと、いくつかのセグメントのニーズを越えてしまい、その他のニーズを無視するようになる。

新規参入者はそうした見過ごされたセグメントを対象に、よりサステイナブルな機能やしばしば低価格で足がかりを作る。

要求の高いセグメントを追っている既存企業は激しくは抵抗しない。

参入者は初期のアドバンテージを維持したまま上位の市場に移動し、既存企業の主要顧客の要求に応える。主要顧客が参入者が提供するものを大量に採用するようになった時、破壊が起こる。

 

出典:Clayton M. Christensen, Michael E. Raynor, Rory McDonald, “What Is Disruptive Innovation?”, Harvard Business Review, December 2015, p.44.
https://hbr.org/2015/12/what-is-disruptive-innovation

 

大企業やアカデミックのシーズ発のバイオベンチャーは、薬機法の下、承認、保険収載を前提とした創薬に挑む。

 

確かに保険収載されれば大きなマーケットを狙えるので、創薬パイプラインを確立すれば、治験のフェーズが進むにつれて、大きな赤字を抱えつつも将来期待を高めてファイナンスを繰り返すことができる。

 

しかし、実際に早期承認にこぎつけて、製品化されるパイプラインはごくわずかで、多くのバイオベンチャーが瀕死の状態となる。

上手く早期承認にこぎつけても市場での猶予期間は7年で、ここでの有効性と安全性の厳しい評価が待っている。

 

創薬の承認のプロセスは短縮されたとはいえ、上手くいっても十数年といった年月が必要とされる。

この間に技術革新は進むから、あっさりそれをリプレイスする製品が出てくる可能性もある。

 

ただし、治験のプログラムは容易に変更できないから、一旦スタートしてしまえば、既に競争優位性や市場性が失われていても、簡単に止めることができない。もう失敗とわかっていてもやり続けるしかない。

 

苦労の末、保険収載にこぎつけても、今度は国民医療費の削減圧力が働くから、もはや期待されていたようなバラ色の市場はなく、薬価は利益が出ないところまで引き下げられていく。

 

結果、長い年月と莫大な開発費をかけた創薬ビジネスは、割りに合わないことが多い。そしてその投資家も報われない。

 

それに対し、再生医療等安全確保法の下での細胞加工ビジネスは、医師の裁量に基づく自由診療で提供される。

 

自由診療は、十分な医学的エビデンスがないのではと批判されることもあるが、再生医療等安全確保法ができたことで、委員会の審査や厚労省への定期報告を通じて、安全性や妥当性について、一定の監視目が働くようになった。

 

製薬に必要な、研究開発費、品質管理、治験など従来のコストを大幅に削減できるので、比較的容易に市場ニーズや費用対効果にあった改変を継続的に加えながら、サービスをいち早く提供できる。

自由診療での治療費は基本的に患者負担なので、一見高く思えるが、国家に負担をかけないだけで、実は低コストで最新の医療をスピーディに届けることができる。

結果的に、市場ニーズを満たしながら、受託企業は初期から利益を出しつつ、継続的に事業を拡大していくことができ、最終的には巨大な市場をリプレイスして、「破壊」を起こすことができる。

 

それが、バイオベンチャーにおける「Disruptive innovation」ではないだろうか。

 

 

 

 


長らくブログを更新していませんでしたが、シリアルインキュベートで投資しているセルソース株式会社が2019年10月28日に東証マザーズに上場しましたのでご報告いたします。

 http://c-eye.co.jp/eq/ipo-eq/45165

 

創業4年、

2014年に施行された再生医療新法の下、成長する自由診療分野にフォーカスした新規性の高いビジネスモデルです。

 

従来のバイオベンチャーは、薬機法の下、保険収載を目指す創薬のパイプラインに巨額の研究費と時間をかけるモデルですが、必ずしもゴールまで到達するとは限りません。

また、高価な新薬登場をあまねく保険収載していくことは、国民皆保険という日本の素晴らしい社会保障制度の破綻のリスクと裏腹です。

世界で類を見ない高齢化社会が進んでくる中で、緊急性、重篤性、希少性のある疾患は保険でカバー、生活の質を改善する付加価値の高い医療は自由診療でという時代が必ずやってくると思います。

 

再生医療新法は、国に認められた委員会での安全性と妥当性の検討ののち、厚労省の認可を受けた医療機関が、自由診療の下、医師の裁量でいち早く付加価値の高い医療を提供することを可能にしました。

この急成長するブルーオーシャンに取り組むのがバイオサービスカンパニー、セルソースです。

 

再生医療の社会実装へ。

 

まだまだ、小さな存在ですが、これから社会課題の解決につながるような大きな会社に育つよう応援していきたいと思います。

 

 

2018年9月4日(火) ~7日(金)の日程で、

田畑 泰彦 京都大学教授

澤  芳樹 大阪大学教授

を会長として、

国際組織工学・再生医療学会が京都で開催されました。

 

「再生治療には、大きく分けて細胞移植と組織工学の2つの方法論があります。前者では、細胞能力の高い細胞を移植し、病気の再生修復を行います。後者では、バイオマテリアル技術を活用して細胞周辺環境を整えることで、体内に存在する細胞の増殖分化能力を高め、再生修復を実現します。一方、細胞能力をコントロールできるバイオマテリアル技術があれば、再生研究はさらに発展するでしょう。」

(学会HP、会長挨拶より引用)

 

組織の再生のためには、

1、細胞(間葉系幹細胞やiPSなど)、

2、液性因子(サイトカインやグロースファクターなどのたんぱく質)、

3、足場(細胞の土台となるもの)

の3つの要素が必要とされています。

 

細胞移植と組織工学はまさに

1、細胞 stemcell  3、足場 Extracellular Matrix

という方法論ですが、

最新の研究では、2、液性因子を放出する Extracellular Vesicles(エクソソームなどの小胞体)が、細胞能力をコントロールするバイオマテリアルとして注目されています。

シリアルインキュベートが、創業時より応援しているバイオベンチャー、セルソースが日経に取り上げられました。

 

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO34956130U8A900C1X12000?s=1

 

東京医科大学の落谷孝広教授らが率いるバイオスタートアップ、テオリアサイエンスとの業務提携で、エクソソームの早期の臨床応用については、世界に先駆けて日本がリーダシップを取っていただきたいと思います。