風と香りの中で 75

眠れない夜、書けない企画書、彫れない木彫り、言えない告白、
星一は、考えれば考えるほど眠れなく、思えば思うほど情けなく、人と関わらなければ何も悩むこともない・・・。

いや!そんなことはない、なら言葉も文字も要らない、ただ、栄養を吸収して、呼吸して眠ればいい。
植物と同じだ!が、植物も子孫を残して未来(あした)に繋げてく、そっかー!

て今は、そんなこといいや、星一は、胸の内で答えの出ない自問自答で、
何故、あのウエイトレスが気になってしまったのか?
スプーンの音に催眠効果でもあったのか、
あの、左に顔を傾けた微笑に、媚薬効果でもあったのか、どちらでもなくて、
僕は、彼女に惹かれたそれだけは、事実だよな・・・。

赤い糸?まあ糸なんて簡単に切れてしまう、
それ以上の何かが、そうだきっと宇宙の果ての何万光年も前からこの星で出会うことになっていた、
それがあの時、受けた衝撃なのかもしれない、って訳もないか?

あー!また雑念が、こんなんじゃいつまでたっても眠れしないや、そお思うと星一は、
ベットから這い出して急いで着替えると外に出た、少し頭を冷やすといいかもと静まり返った、
丑三つ時、全ての物が眠る時の中で空を見上げ静かに目を閉じて考えた。

そのままでいい、今思うことを行動すればいい、それが良いとか悪いとかはない・・・。
冷えきった外気の中で、星一は、冷静に考えた、そして数分後答えをだした。

これで行こう自分の出来る事はそれしかない!と強く思い一段しかない門の前の階段に腰掛、
タバコを吸い始めた時、その背後から、ゆっくりと忍び寄る何かが星一を驚かせた。

「おおー!」星一は、唸った。
「お兄ちゃん、何してるの?」驚かすつもりもなかった瑠璃子は、
星一が出て行ったのに気づきながらも勉強をしていたが休憩がてら、気になったのか静かに外に出て来ただけだったのだ。

「驚かすなよ!」星一が、怒っると「あっ!漏らした?」瑠璃子は低い声で笑うと
「かも!・・・な分けないだろ!」また、怒った。
「何してるの?」瑠璃子は、薄着だったのか寒そうに尋ねた。

「別に、煙草吸ってただけだ!」
「ふーん!加奈さんと別れたこと後悔してるの・・・。」
「・・・・。」
星一は、何も言わず家に入って行き、瑠璃子も続いた。

風と香りの中で 74

2人は、完敗した選手のように肩を落とし寒く暗い夜の道を歩いて、車に戻った。
車の中でも暫く沈黙が続くと、「なあ!」と殆んど同時に2人は、声をかけた。

「ひろちゃんから、話せよ」と星一が言うと「いいよ!せいちゃんからいいなよ」と二人は譲りあった後、
「あの時な、コーヒーを持ってきたあの娘・・・。」星一の方から、カレーライスを落とした事ばかり気になってたが、
今、何かに気付いたかのように話した。

「何か、言ってなかったか?」
「そう言えば、向うばかり気になってけど、何か言ったのは判ったけど、声も小さかったけど、何か、・・・ますか?
とか、って聞こえたよ」
「だろ 何を言ったんだろう?」
2人は、急にその聞こえなかった言葉が気になった。

「戻るか?」と弘幸が尋ねると「まさか、いいや!結局、俺には、縁がない女性なんだよ」
とフロントガラス越しから空を覗き込むように見つめてた。

「いいのか!それで、加奈さんとけじめを付けたのは男として当然だと思う。
それも、あのウエイトレスに、気持ちを伝える為だろ」
弘幸は、真剣な表情で、前を注意しながら淡々と話し始めた。

星一は、覗き込んだまま何かを探してる様子だったが、弘幸の話は聞こえていた。
「いい返事が、貰えないかも知れないから、何も伝えなくて諦めるのか?」星一は、黙ったままだった。

「後悔するぞ!それに、せいちゃんはそんな性格じゃないと思ってたよ」
「判ってる、後悔はしたくない、でも、こと女性の事となると・・・苦手だよ!」
星一は、シートにもたれ掛けた。

「覚えてるか、中学の時」弘幸が尋ねる「何か、あったけ?」

「覚えてないかなー、あの頃、大人が読む女性のヌードの載ってる週刊誌を買うのに、
せいちゃん、後悔したくないって本屋の人が、おばあさんの店に行って、勇気を出して買ってくるぞーと・・・。」

「そうだ、あったなーそんな事、で、ドキドキして戻ってきたんだ。
買えたときの喜びは今、思い出しても、やった感あったもんな、
で、どうしたんだっけ?
俺、それ見てないぞ、ああー!そうだ思い出した。
家の親とあってそのまま、ひろちゃんと別れて・・・。
遠い昔のことだ、でも、それと、今の気持ちとは違うような・・・。」

「同じだよ、せいちゃん 何かをする勇気と後悔しない人生!それしかないいよ、
今の、せいちゃんには・・・。」
星一は、また、何かを考えてるように黙りこんだ。
家の前に着いて、星一は、じゃあ!と降りて、弘幸を見送ると、暫く空を眺め家に入っていった。

風と香りの中で 73

あっ!とかすみが話をした殆んど同時に、弥生はお盆からカレーライスの入った容器を落とすと、ガッシャン!と鈍い音がした。

かすみが、星一にかけた言葉と重なって「・・・ますか?」とだけ聞こえた二人は、弥生の落としてしまった方へ顔を向けた。
星一は、それが、金属音に聞こえたように思えたのは、そう願っていたためだったのだろう、
誰が聞いてもスプーンの落ちた音ではなかった。

星一の残念そうな顔も、胸の内も知る者は誰もいなく、
かすみも、弥生が落としてしまったところへ「おねーちゃん!」と駆け寄って片づけを手伝い、
弥生は、「直ぐに変わりのを、作って貰います」と何度も頭を下げた。

「いいよ、いいよ!何時間でも待つから」弥生が、少しくらいのへまをしても怒る人はいなかった。
わざとじゃなかった。かすみのうれしそうに、コーヒーを運ぶのが気になって、お盆が傾いてしまった。

生憎、スプーンはお盆と指とで挟みながら持っていたために落ちることもなかった。
もし、スプーンが落ちていたのなら、星一は、きっと自分の思っている通りに、
彼女からのサインだと思ったかもしれなかった。

思い過ごしも恋のうち的な、変な勇気がついたかもしれなかったが、
それは、容器の割れる音とともに見事に打ち崩されてしまった。

店の中は、掃除とかでせわしくなり、ウエイトレスは、奥に入ったまま出てこなく、
結局、弘幸は、星一の為にウエイトレスから聞きだそうとしたことの、
一文字も聞きだす事も出来ずに店を出た。

風と香りの中で 72

カラン カラン相変わらずここの扉は、働いている。
2人は、入ると直ぐにいつものウエイトレスが2人とも居るのを確認すると、
星一も弘幸も心臓の鼓動が早くなった。

居た!星一は、居ないだろうとの思いの方が強かったのか、思わず小さく声になって言ってしまった。
聞いてた者も居なかっただろうけど、やっぱり、以前と比べ客が少ないと感じた2人だった。

初めて来た時の席が空いていたので、迷う事もなく2人はそのテーブルにして、ゆっくり下を向いて座った。

弥生は、突然現れた、星一に驚き慌てた。
澄江と理沙の3人で決めた策の為に用意した、名前と電話番号に、一度お電話くださいと書いたメモを、
エプロンのポケットにいつでも渡せるように入れていた。

「まさか、今日来るなんて!」それはきっと、いつ星一が来ても同じ事を思ったのだろう。
妹のかすみは、うれしそうに注文を取りに来た「いつもの!」何て言う程常連でもなかったので、コーヒーを2人とも頼んだ。

星一は、数分後に起こる些細な出来事に期待した。
弘幸は、会計の時に聞こうと決めていたのでゆっくり気持ちを落ち着かせ、
聞きたい事だけ、はっきりと聞く事なんだと冷静にしていた。

コーヒーは直ぐに出来上がりマスターが、一時置き場に2つのコーヒーを並べ、
弥生は、ポケットからメモ用紙を取り出しカップと皿の間に挟もうとした時に、
先客のカレーライスが出来上がり、ママさんがそれを、弥生に運ぶように支持した。

「えっ!」挟み掛けたたメモ用紙を、再びポケットに戻してしまった。
コーヒーを、そんな事とも知ないかすみが、うれしそうに運んだ。
そして、かすみは、星一に向かって言った。
静かに流れているBGMが、やけに寂しく聞こえた。
星一は、雪景色の油絵を見つめながら、静かに煙草を吹かしていた。

風と香りの中で 71

星一は、腑に落ちない気持ちで何日も過ごしていた。
あの日、聞こえてきた声がどうも耳から離れなく「どうやら、あのウエイトレスに彼氏が出来たみたいだぞ!」

それが、仕事にも、集中できず会議に出た時に意見を求められた時に「有り得ないです。」なんて答えたものだから、
「そうか、小早川そお思うか」と自分に企画書を出すように言われてしまい、
今、机の上にはそれに関する資料と白紙の企画書が置いてある。
参ったなぁと、それどころでもなかった。

初めて、会ったときには彼氏は居なかった、それが、悔やまれて仕方がなかった。

やっぱり縁がなかったのか?星一は、満面の笑みで微笑む彼女を思い浮かべると、
じっとしていられなく、かといって企画書が書けるかと、
木彫りを始めようと途中までの木の塊を掴み、何だこれは全然なってないし、
何一つ出来ない自分に彼女なんて、加奈と別れたこともある意味、
正解だったんじゃないかと、何かに取り憑かれた様に削り始めた。

21時過ぎた頃に弘幸からの電話で、作業を中断した。
「どうよ、気分の方は・・・。」弘幸は、大森から一部始終聞いていた。
きっとへこんでますよ、と大森から聞いたのは噂話しを聞いた次の日だった。

そっとしといた方がいいですかねと、大森なりに気を使っていた。
部署は違うものの同じ会社に居る為1日に数回は顔を合わせるが、
星一は、何処か遠くを見ているようで、弘幸も大森も挨拶だけで一杯だった。

弘幸は考えた、もう一度会わせるしかないと、そして、自分が聞き出そうとそう考えたのだ、
悩める友の為、それに自分は第三者何を言われても、後を引かない。

「行こうぜ!、ナイトに俺、今、凄くコーヒーが飲みたい気分なんだよ、晴香は居ないしたまには、久しぶりになあ!」
弘幸は、何とか星一を連れ出す事を最優先にして言った。

「ああ!いいけど、企画書が・・・。」と気持ちが、その迷いを表した。
「書けんのか、そんな気持ちのままで、何の為に加奈さんと別れたんだ!」そお言われて、星一は、加奈を思い浮かべた。

幸せになってね!その文字が星一に、重くのしかかってくるように
「じゃあ、迎えに来てくれるか」と、受話器を置いた。

暫くすると静かな住宅街に1台の車が、星一の家の前に止まると
黒っぽいジャケットを羽織って外に出て車まで行くと「やあ!」「おう!」とお互いが声を掛けると、
星一は助手席側に周り乗り込んだ。

2人は、それぞれの思いの中でこの後の喫茶ナイトでのストーリーを考えていたのか、
一言も話す事もなく車は目的地に向かった。

星一は、今日も、スプーンを落とすようなら間違えないあの噂は、
きっと告白できない誰かの言い訳で作り話しに決まっている。
と、だからあの金属音がきっと彼女のアピールだ!

星一は、それに掛けたそうでもしないと話しすらきっと出来ないぞ!と自分に言い聞かせていた。

一方、弘幸は何を聞きだせばいい、星一の事どう思う。
駄目だ!直接過ぎるか!なら、好きな人はいるか?これも駄目だ!限定が広すぎるそれで、判断は出来ないか、
んー!そうかー、シンプルに彼氏居るのか?がいいか、もし居なければ噂を払拭出来る。

それなら、後は星一次第だよな。
そんな事を考えながらも、いつもの様に車を止めると2人は、
風はないがひんやりと冷え切った空気の中を歩いていた。

星一は、店に入る前に空を見上げ、オリオン座を探した。
薄っすらとかかった雲が一面ゆっくり流れていくのが見えたが、オリオン座は見えなかっのが何か嫌な予感がした。

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