安保法成立4年 「専守」変質を止めねば
<東京新聞社説>
2019年9月19日

 安全保障関連法成立から四年がたつ。違憲の疑いが指摘されながら既成事実化が続き、「専守防衛」の変質も進む。放置していいのか、重ねて問いたい。

 安全保障関連法の成立を、安倍政権が強行したのは二〇一五年九月十九日未明のことだった。

 あれから四年。歴代内閣が「憲法上許されない」としてきた「集団的自衛権の行使」を可能とする安保法は、当初から違憲の疑いが指摘され、全国二十二カ所で違憲訴訟も起きている。

 しかし、安倍政権は意に介すことなく、成立後は戦争放棄、戦力不保持の憲法九条を形骸化させるような防衛政策を続けてきた。

◆宇宙でも防衛力を整備

 安倍晋三首相は十七日、自衛隊幹部が一堂に会する「高級幹部会同」での訓示で、先端的な軍事技術の開発競争など安全保障環境が厳しくなっているとして「新たな防衛大綱は、こうした安全保障環境の変化の中にあって、従来の延長線上にない防衛力のあるべき姿を示したものだ。できる限り早期に実行に移し、万全の体制を築く必要がある」と強調した。

 防衛大綱(防衛計画の大綱)は安全保障や防衛力整備の基本方針を示すもので、今後五年間の装備品の見積もりを定めた「中期防衛力整備計画(中期防)」と合わせて昨年、改定された。

 新しい防衛大綱と中期防は、宇宙・サイバー・電磁波という新たな領域利用が急速に拡大しているとして、その変化に対応するため「多次元統合防衛力」という新たな概念を設け、陸・海・空各自衛隊の統合運用を進めるとともに、新たな領域での対応能力も構築・強化する内容である。

 日本を取り巻く安全保障環境の変化に応じて、防衛政策を適切に見直す必要性は認める。

◆「空母」は米軍のため?

 しかし、特定秘密保護法に始まり、「集団的自衛権の行使」を可能にした安保法、トランプ米政権が求める高額な米国製武器の購入拡大など、安倍政権の下で、戦後日本が堅持してきた「専守防衛」政策を変質させる動きが続く。

 新大綱と中期防も、そうした流れの中にあり、防衛予算の増額や自衛隊増強、日米の軍事的一体化の延長線上にあるのは、安倍首相自身が悲願とする憲法九条の「改正」なのだろう。

 どこかで歯止めを掛けなければ日本は軍事大国への道を再び歩みだしてしまうのではないか。

 首相は訓示で「来年、航空自衛隊に『宇宙作戦隊』を創設する。航空宇宙自衛隊への進化も、もはや夢物語ではない」とも語った。

 宇宙空間の利用について衆院は一九六九年、「平和目的に限る」と決議し、政府は「平和目的」を「非軍事」と説明してきた。

 その後、二〇〇八年成立の宇宙基本法で方針転換し、防衛目的での利用を認めたが「専守防衛」の範囲を厳守すべきは当然だ。「航空宇宙自衛隊」などと喜々として語る性質のものではあるまい。

 新大綱と中期防には、ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」型の事実上の「空母化」が明記され、二〇年度予算概算要求には改修費用が盛り込まれた。通常、潜水艦哨戒や輸送、救難のためのヘリコプターを搭載し、警戒監視や災害支援などに当たる「いずも」型の甲板を、短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機F35Bを搭載できるよう、耐熱性を高めるという。

 歴代内閣は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や長距離戦略爆撃機などと同様、「攻撃型空母」の保有は許されないとの政府見解を堅持してきた。「いずも」型の改修でも「従来の政府見解には何らの変更もない」としているが、攻撃的兵器として運用されることは本当にないのか。

 防衛省は「いずも」型改修後、米海兵隊のF35Bによる先行利用を想定しているという。航空自衛隊へのF35B配備に時間を要するためとしているが、これでは、米軍のための「空母化」ではないのか、という疑念が湧く。

 「殴り込み」部隊とされる米海兵隊と一体運用される「いずも」型が、どうして攻撃型空母でないと言い張れるのか。

◆「非軍事大国」の道こそ

 戦後日本の「専守防衛」政策は先の大戦への痛切な反省に基づく誓いでもある。他国に脅威を与えるような軍事大国にならない平和国家の歩みこそが、国際社会で高い評価と尊敬を得てきた。この国家戦略は変えるべきではない。

 安倍首相は「専守防衛」に「いささかの変更もない」と言いながら、「集団的自衛権の行使」を容認し、防衛費を増やし続け、日米の軍事的一体化を進めている。

 安保法を含む安倍政権の防衛政策が、憲法を逸脱して、「専守防衛」をさらに変質させることはないのか、絶えず監視し、問い続けなければならない。


安保法制成立4年 首相のごまかしは今や明らか
<しんぶん赤旗 主張>
2019年9月19日(木)

 安倍晋三政権が2015年9月19日、集団的自衛権の行使などを認めた安保法制=戦争法の成立を強行してから4年になります。

この間、朝鮮半島をめぐる劇的な緊張緩和の動きによって「北朝鮮の脅威」という安保法制最大の口実が崩れる一方、米国が軍事攻撃に踏み切れば自衛隊が米軍とともにたたかうことになる同法制の危険性も明瞭になっています。

母子のイラスト掲げたが

 安保法制は、安倍政権が14年7月1日に閣議決定した同法制整備のための基本方針に基づき策定されました。安倍首相はこの時の記者会見で、北朝鮮の攻撃を受けた韓国から、赤ちゃんを抱いた母親を米艦船が日本に輸送していることをイメージさせるイラストを掲げ、次のように述べていました。

 「海外で突然紛争が発生し、そこから逃げようとする日本人を、同盟国であり、能力を有する米国が救助、輸送している時、日本近海において攻撃を受けるかもしれない。わが国自身への攻撃ではありません。しかし、それでも日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る。それをできるようにするのが今回の閣議決定です」

 ところが、実際はどうだったか。

 自衛隊の制服組トップだった河野克俊・前統合幕僚長は今年5月17日付の「朝日」インタビューで、北朝鮮の核・ミサイル問題が緊迫した17年に次のような対応をしたことを告白しました。

 「9月の国連総会でトランプ大統領は、北朝鮮が挑発をやめなければ『破壊する』と言った」「米軍が軍事行動に踏み切り朝鮮半島有事になる可能性を考え、16年に施行された安保法制の下で自衛隊がどう動くか、私の責任で統合幕僚監部で頭の体操をしました」

 さらに、米軍が北朝鮮を攻撃するレッドラインを問われ、「北朝鮮を放置すれば米国の国益を大きく損ねる段階を見極めるということです。やる、やらないを決めるのはトランプ大統領と安倍総理」「総理には随時米軍の態勢を報告していました」とまで語っています。

 河野氏の証言には、朝鮮半島有事で在留邦人を輸送する米艦船を守るなどという話はありません。安保法制の本当の狙いは、米国が自国の国益を守るために先制攻撃の戦争に乗り出した際、自衛隊も米軍とともにたたかうところにあることを証明しています。

 自衛隊による米艦防護については、安保法制に基づき18年には6回の任務に就き、米軍機の防護も10回行っています。実施されたのは、米軍との共同訓練時や米軍による弾道ミサイルなどの情報収集・警戒監視活動時でした。防護している米軍が攻撃されれば自衛隊はいや応なしに戦闘に巻き込まれ、日本の若者が血を流す事態になりかねません。

一刻も早い廃止が必要

 安倍政権は安保法制により、トランプ米政権の要求に応えて導入を進めるミサイル迎撃システム「イージス・アショア」でハワイやグアムの防衛が可能になるとしています。空母化される自衛隊艦船「いずも」から米軍のF35B戦闘機が他国への爆撃に出撃できるようになることも認めています。

 安倍首相のごまかしは今や明らかです。米国の戦争に日本が参戦し、自衛隊の海外での武力行使に道を開く違憲の安保法制は一刻も早く廃止することが必要です。


台風の被害 遅れた対応、支援急げ
<朝日新聞社説>
2019年9月19日

 一日も早く被害の全容を把握し、必要な支援を届けなければならない。

 千葉県に9日に上陸した台風15号による影響は、広範な停電にとどまらない。住宅家屋の損壊がかなりの規模に広がっていることがわかってきた。

 被害戸数は一部損壊を含め数千棟以上とみられる。だが、市町村の調査の手が回らず、いまだに全体像がわからない。

 屋根が飛ばされたり、壁が壊れたりしており、居住困難な家もある。多くの市町が避難所を設けたが、知らない人も少なくない。周知に努めてほしい。

 全容把握が遅れた原因の一つに、行政の初動対応のつまずきが指摘される。

 千葉県南房総市では翌日の10日、停電で市役所の全固定電話が不通になった。携帯電話やインターネット、防災行政無線も使えなくなった。固定電話が不通なら市町村は防災電話と防災情報システムで県と情報共有するが、システムがダウンした。市内の各支所との電話も通じなくなったという。

 停電時の連絡手段の確保は想定しているはずなのに、なぜ失われたのか。システム上の不具合なのか、他の自治体も含め、一段落した段階で「情報途絶」の原因を究明し、連絡手段を再構築しなくてはならない。

 県は市町村の連絡待ちではなく、積極的に被害把握に動くべきではなかったか。市町村が報告できない場合、県の地域防災計画では職員を派遣すると定めている。だが、県が南房総市などに派遣したのは12日以降で、人数も十分ではなかった。

 医療機関の停電や断水への対応など、仕事が多岐にわたるのはわかる。だが、17日になっても県の資料には、館山市や鋸南町など11市町村の被害状況が記されていなかった。これでは十分な被災地支援はできない。

 行政機関の業務で、電話やネットは欠かせない。だからこそ失った時の即応策を考えておく大切さを肝に銘じたい。

 政府にも、内閣改造で初期対応が遅れたのではないか、という指摘が野党から出ている。

 菅官房長官は昨日、「台風上陸前から迅速および適切に対応してきた」と述べた。だが、経済産業省が停電被害対策本部を設置したのは13日だった。新体制発足直後で、危機意識に甘さはなかったか。検証の上、結果を明らかにしてほしい。

 東京の伊豆諸島でも家屋が損壊し、横浜市でも護岸が数百メートルにわたって壊れるなど、台風被害は広域にわたる。災害ごみの問題や、農業被害も深刻だ。

 政府が主導し、目配りのきいた支援を、長期的な視点ですすめる必要がある。

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