菅原氏の贈答品問題 釈明するほど深まる疑惑
<毎日新聞社説>
2019年10月22日 東京朝刊
いまだにこうした疑惑が取りざたされること自体が驚きである。
菅原一秀経済産業相(衆院議員、東京9区)の事務所が有権者らに贈答品を送っていたとされる問題だ。
選挙区内の有権者に、お中元などを贈る寄付行為は公職選挙法で禁じられている。菅原氏は違法行為を否定しているが、その説明は納得できるものではない。
毎日新聞の取材などで明らかになった「リスト」は、2006~07年の夏と冬に贈答品を送るために使った名簿とみられ、「メロン」「たらこ・すじこ」といった品名が付記された239件分の連絡先が記されている。安倍晋三首相や菅義偉官房長官らの名前もあったが、多くは選挙区の有権者とみられる。
菅原氏の元秘書が「リスト作成は菅原氏本人から指示された」と明言する一方、選挙区の複数の有権者は「メロンやカニが宅配便で送られてきた」などと証言している。
寄付行為の公訴時効は3年で、仮に時期が06~07年とすれば刑事責任は問われない。しかし有権者への買収的行為は政治家が最もしてはならないことの一つだ。元秘書の証言が事実なら政治責任は免れない。
自民党の小野寺五典氏はかつて選挙区内で名前入りの線香セットを配り、公選法違反と認定されて議員辞職した。安倍政権下でも5年前、松島みどり氏が自身のイラストや名前入りのうちわを選挙区内で配った問題で法相を辞任している。
菅原氏の説明が次第にトーンダウンしているのも見逃せない。
野党から「有権者に金品を渡したことはないのか」と問われた菅原氏は当初「そのようなことはない」と明言していたが、その後、「金品というのは現金かなと思い、それはないと答えた」と修正した。釈明するほど疑惑が深まっている状況だ。
経産省は電力業界を所管する。菅原氏は関西電力役員らの巨額な金品授受問題に対し、「言語道断」「徹底してうみを出し切る」と言い切っていた。当然、自らの疑惑についても厳正に調査し、きちんと説明しないと不信は増すばかりだ。
安倍首相らは菅原氏の説明に委ねている。だが、あいまいにしたままでは任命した首相の責任も含め政権全体への批判が強まるだろう。
ラグビーW杯 躍進をつなげるために
<朝日新聞社説>
2019年10月22日05時00分
自国開催のラグビーW杯で、日本は1次リーグを4戦全勝で突破する快進撃をみせた。過去2回優勝の南アフリカに敗れて準決勝進出はならなかったが、大方の予想を上回り、大会にさして関心のなかった人たちにも響く健闘ぶりだった。
前評判を覆して勝つ。スポーツの醍醐(だいご)味の一つだが、ラグビーはそうした番狂わせが極めて少ない競技といわれる。
ボールを一歩でも前に運ぶために15人が総がかりで「格闘」するのがラグビーだ。身長2メートルを超す巨漢から160センチ台の小兵まで、それぞれが明確な役割を持ち、責任を担う。体をぶつけ合うため消耗も激しい。
勝敗を分けるのは選手層の厚さと戦術の深さ、経験があいまった真の総合力であり、「強い者が勝つ」ゆえんだ。そのハードな競技でアジア勢として初の8強に食い込んだ。会見した選手・スタッフの多くが「誇り」「成長」を口にした。
この成果は一朝一夕に得られたわけではない。
話は約20年前にさかのぼる。一時期のラグビー人気が去り、未来像を模索するなかでW杯誘致が構想された。三つに分かれていた地域リーグを再編・統一した「トップリーグ」を03年につくり、南半球の強豪が集う国際リーグにも参加して、少しずつ地歩を固めていった。
W杯に国籍条項はなく、代表選手31人のうち15人は外国出身だ。半数以上は高校や大学から日本で学び育った。ラグビーを普及・強化しようという熱意が若者を引きつけ、結果として多様化が進む日本社会を映す構成になった。体格面の劣勢を運動量と技術、チームの一体感で補うスタイルを確立させた。
大切なのはW杯後も火をともし続け、さらにすそ野を広げ、高みをめざすことだ。リーグのプロ化が検討されているが、それに加え、アジア諸国や強豪国との連携など、広い視野で「次」を考える力が求められる。
今回のW杯の収穫は日本代表の好成績にとどまらない。
ウェールズ代表が合宿した北九州市では公開練習に1万5千人の市民が集まり、代表歌で歓迎した。試合前の各チームに対しても同様の声援が見られ、母国からの観戦客にも喜ばれた。
逆に選手たちには、試合後、観客に感謝の思いを伝える日本流の「お辞儀」が広がった。台風の影響で試合が中止になったカナダチームが、会場だった岩手・釜石の人たちと残念な思いを共有しながら、被災地区でボランティア活動をする姿は、多くの人の胸を熱くさせた。
大会は11月2日まで続く。残り4試合。世界最高レベルのプレーを堪能したい。
海自中東派遣へ 必要性、根拠に乏しい
<東京新聞社説>
2019年10月22日
政府が中東情勢の悪化を踏まえ、自衛隊派遣の検討に入った。米国主導の有志連合ではなく、独自の活動だというが、派遣の必要性や根拠に乏しい。調査・研究という「便法」を乱用すべきでない。
米国とイランとの対立により、中東情勢が緊迫の度を高めていることは否めない。原油輸入の八割以上をこの地域に依存する日本にとって、中東の緊張緩和と情勢安定化は死活問題ではある。
とはいえ、日本関連のタンカーへの攻撃が頻発しているわけではなく、自衛隊艦船による警護を必要とする状況でもない。自衛隊を派遣する切迫した必要性がどこにあるのだろうか。
安倍晋三首相の指示を受け、菅義偉官房長官は記者会見で現在、ソマリア沖アデン湾で海賊対処活動をしている海上自衛隊の護衛艦や哨戒機の活用に加え、護衛艦の派遣も別途検討すると表明した。
トランプ米政権が参加を求める有志連合とは一線を画す日本独自の活動として、護衛艦などを年内にも派遣する見通しだ。
自衛隊を中東派遣することで米政権の顔を立てる一方、活動範囲からホルムズ海峡やペルシャ湾を除外し、友好国であるイランへの刺激を避ける苦肉の策ではある。
実力部隊である自衛隊の海外派遣は「国家意思」の表明だ。対話による緊張緩和を探ってきた日本外交の方針転換と受け取られるかもしれない。周辺国を刺激し、派遣部隊が偶発的な衝突に巻き込まれる危険性はないのか。
自衛隊による有事の活動や海外への派遣は、国権の最高機関であり、国民の代表である国会の承認を原則必要とする。国民の意思によって自衛隊を運用する「文民統制」である。
しかし、今回の中東派遣は、国会の承認を必要としない防衛省設置法の「調査・研究」が根拠だという。自衛隊の海外派遣という重大事を国会の判断を経ないで決定する「便法」でもある。
そもそもほかに根拠となる法律が見つからないから、「調査・研究」目的で派遣するのだろう。便法を乱用し、海外派遣を拡大することは許されない。
政府は自衛隊派遣の検討に当たり、「中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けたさらなる外交努力」の方針も確認している。
中東各国と築いてきた信頼関係を生かすことこそ、平和国家としての道だ。良好な関係を犠牲にしてまで、自衛隊派遣をはやるようなことがあってはならない。
「原発マネー」疑惑 「再稼働利権」の核心に迫れ
<しんぶん赤旗主張>
2019年10月22日(火)
関西電力役員が高浜原発のある福井県高浜町の元助役から3億円を超す多額の金品を受け取っていた「原発マネー」還流疑惑について、安倍晋三政権が真相解明に背を向ける姿勢を際立たせています。
日本共産党など野党は、関電役員らの国会招致を求めていますが、政府・与党は応じようとしません。国会での審議を通じ、今回の疑惑の大本には、安倍政権が推し進める原発再稼働政策をめぐる利権と癒着の構図があることが浮き彫りになっています。
国策の中から噴き出した疑惑の全容解明は国政の最優先課題です。“関電まかせ”で済ませることは許されません。
経産職員が高浜町に出向
関電の会長や社長の経営トップらにたいする金品提供をめぐる疑惑では、東京電力福島第1原発事故があった2011年から7年間、原子力部門を担当していた役員ほど多額の金品がばらまかれていたことが明らかになっています。
元助役には原発関連事業を請け負っている地元の建設会社から約3億円の資金が渡っており、国民が支払った電気料金を原資とした原発マネーが、元助役を介して関電の役員に還流していたことは疑う余地はありません。
関電は11年以降、原発再稼働のため家庭向けの電気料金を2度値上げしています。それを認可したのは経済産業省です。公益事業を担う関電に対する政府の監督責任が厳しく問われるのは当然です。
さらに、衆参予算委員会での日本共産党の質疑などで、政府と高浜町との深い関係を示す重要な事実が判明しています。
藤野保史衆院議員の質問(11日)は、高浜町に経産省から4人の職員が08年から現在まで出向していることを明らかにしました。この期間は、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して原発の燃料に利用するプルサーマルを政府が推進する時期と重なっています。
出向職員がプルサーマルをめぐり関電と地元との調整で中心的な役割を果たしたことは明白です。経産省は、出向者と元助役との関係について詳しく説明していません。徹底調査し、国会で議論すべき大問題です。
井上哲士参院議員は質問(16日)で、原発再稼働にともなう「追加的安全対策費」についてただしました。福島原発事故後、関電の安全対策費は年々増え続けています。それにつれて元助役から関電の原子力部門幹部役員に提供された金品額も膨らんでいることを示しました。
元助役に資金提供した建設会社は、国の原発関係の交付金を使った公共工事を受注しており、この交付金が関電に還流している疑いも濃厚です。経産省は、建設会社の受注状況などを記した資料を国会に提出することを拒んでいますが、解明を妨害することはただちにやめるべきです。
関電役員の国会招致を
政府が旗を振って推し進めた再稼働の中で、どう金が動き、だれがどうかかわったのか―。関電、地元の自治体や政財界だけでなく、政権との関係も含め、全体像を明らかにすることが必要です。
関電の調査報告書には、元助役が国会議員をはじめ幅広い人脈があると明記されており、あいまいにできません。隠ぺい体質を改めない関電の「第三者委員会」では期待できません。安倍政権は関電役員らの国会招致に応じるとともに、全容解明に責任を果たすべきです。
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