実録!競売不動産落札後はこう動け!第三話!(競売開札の立ち会い編・完)

前回からの続きです。


2件立て続けに本命、準本命の発表がされた後は、私が入札をしていない物件の発表が続いた。入札していない物件の時も、他社の値付けや落札金額は自分が同じような物件に入札する時に役に立つ情報だ。私は下記のようなシートをエクセルで簡単に作って印刷し、開札結果を記入し、その後パソコンに打ち込みなおしている。

事前に事件番号や所在地を打ち込んでいき、1~5位の入札結果と競合会社の金額をメモしておく。「A会社は築年数が浅い物件には積極的だが、25年を超えたら途端に入札しなくなるな…」
「B会社はウチと同じような物件に入札して、金額も似通っている、B社を仮想ライバルと想定して、少なくともB社に負けない金額で入札する必要があるな…」
など、他社の入札データは非常に利用価値が高い

また、手っ取り早くそうしたデータを収集したい場合は、開札情報を纏めてデータ化して販売しているサイトもあるので、そういったサービスを使うのも手。実際、自分がわざわざ朝早くに行って(しかも足利の場合は開札が水曜日にあるので休みの日に行くことになる)メモを取るよりも、一月あたり1万円に満たない料金で業者からデータを買ってしまうほうが費用対効果が高いかもしれない。私の個人的な感覚としては、なんとなく競売開札の雰囲気は好きなので、毎月しっかり通い続けたいとは思っている。


そうこうする内に私の入札物件である「足利市南大町」の入札状況の発表が開始された。本物件は足利と太田の堺にある物件で、立地は足利市内の格付けでは並程度、築年数は22年で室内はかなり劣化が進んでいる、駐車場は3台分あり、南東向きの角地で日当たりは大変よさそうだ。総合評価としては安めの金額で買えれば十分価値のある商品にできそう、という感じだろうか。

ただし、競売資料に「サッシの建て付けが悪く、躯体の歪みの可能性もありえる」との記述があるのが若干の不安要素である。とはいえ、築年数が20年も超えればほとんどの家は建て付けの悪い箇所くらい出てくる。入札前に現地の確認をした時は目立った基礎のクラックなどもなく、重度の傾きなど建物の欠陥がある可能性は低そうに思えた。

競売資料を作成しているのは「不動産鑑定士」という資格を持つ人間だ。この資格は日本の三大国家資格とも呼ばれており、非常に難易度の高い試験をパスしたエリートにしか与えられない資格である。

しかし、実態は「不動産の相場観や建築知識はほぼ皆無」の人間がほとんどで、土地の値段は国土交通省の発表する路線価を参考に、建物の値段は間取りや構造などを一切考慮に入れず、建物面積×再調達価格で計算するだけ。今回資料に記述のある「建物躯体の歪みの可能性」も水平器などを用いて計測したものではないことが推測される。(実際に水平器などで確認していたら資料に記述されるだろうし)

よって、本当に大きな傾きがあることも当然ありえるが、「後で文句言われるのが怖いから可能性だけは記述しとこ」というのが本音ではないかと私は考えた。

入札書の曖昧なリスク記述だけで、利益がそれなりに取れそうな物件をスルーするのは、チャンスの少ない小規模事業者にとってはもったいない話だ。

体感できる傾きであるのならば、それ相応の記述がされるはずで、この程度のリスク記述であれば十分にリフォームで調整可能と判断できる。リスクを取らなければリターンは得られない。個々人の経験値・協力工務店さんの腕など、取れるリスクと取れないリスクはあるが、私ならばこの程度のリスクは背負うことができる。何事もそうだが、自分にあったリスク許容度を設定し、取ることのできるリスクの中で最大限度のリターンを獲得できるように動くべきだ。


「物件番号~~~~~、所在地は足利市南大町、、、適法な入札者は、、、13件です。」

これまた多い人数だ。「躯体の問題リスク」の記述があるのにここまでの人数が入札したことに驚いた。しかし、発表が進むと入札件数の多さの理由が分かった。

本物件の「売却基準価額」は2,514,000円。そして「買受可能価額(最低落札可能価格)」は2,011,200円。入札の大半は250万円より下の数字だった。要するに前回の記事でも書いた「最低落札価格付近で大量に入れて、どれか1つでも落ちたらラッキー作戦」をしている人間が非常に多かったわけである。

仮に躯体に問題があったとしても、最悪解体して土地として売ってしまえば、250万の落札金額であればまず赤字にはならない。躯体の問題が無ければリフォームをしないでそのまま転売しても多額の利益になるし、人に貸して収益物件として運用するのもおいしいだろう。

あらゆるビジネス的な能力が一般より劣る人がいても、もしその人がライバルより「安く」商品を仕入れることだけは上手くできる人であるなら、その人は「天才」と評価される。

それほどまでに「安く」買うということは、リターンを増幅させるだけではなく、リスクも減少させる最も効果の高い戦術なのである。これだけ多い人数が(しかも個人の人もとても多い中で)、その戦術を理解し、実践しているということに、今更ながら競売市場というのは甘い処ではないなと感じた。


半分以上の最低金額付近で入札した人々の入札金額が呼び終わると、段々と金額の上げ幅が大きくなってくる。私の入札金額は4,888,888円。リスク記述が無いなら絶対に大手の買取業者がもっと高い金額で買っていく数字だ。

しかし、年々競売物件が高騰していくことで、大手業者上層部が競売落札の回避を指示するようになっている中、万が一、躯体の問題が重度である物件を落札してしまったら現場の責任問題になりうるだろう。

となると、大手業者はこの物件には手を出さない可能性が高いのではないか・・・?

実際、入札者にはほとんど大手業者の名前が出てこない。ライバル達が個人だったり、同等規模の小規模事業者であれば、経験値の多さと工務店の優秀さで、他社よりウチのほうが高い金額で入札することができているはず・・・。この勝負、もらった!


「~~~さん、入札金額~~~円です。~~~さん、入札金額~~~円です。
株式会社ハウスメディア、入札金額4,888,888円。株式会社ハウスメディアを最高価買受人と決定いたします。」

無事落札することができた!Sさん、Oくん、T社長からおめでとうと賛辞を受け取る。照れ隠しに「いや~、ちょっと問題はあるかもしれないんだけどね~・・・」と余計なことをいってしまう。「おめでとう」には「ありがとう」だ。素直な性格の方が営業マンは得をすることが多い。

落札後も明渡し問題や、リフォームについてなど考えることはたくさんある。しかし、ひとまずは1件の在庫確保ができたことを喜ぶ時間だ。私は1月1件の仕入れを目標にしている。小規模事業者にとって1月1件仕入れを行うことは大企業で同じことを行う場合と比べて段違いで難易度が高い。順調に仕入れができるようになってきた今でも、1件の仕入れが確定する度にホッとする感情が湧く。

今回、2位との金額差は約50万円だった。落札金額で10%以上2位と差がつくと、個人的には少しもったいない入札だったかなと感じる。要するに、値付けの「精度」が足りていないということだからだ。今回は「リスク要因」が絡んだ難しい値付けとなったことが原因だが、とにかく安く買えれば買えるほどリターンも増加し、リスクは低減する。今回の結果も次以降の入札に活かすためのこやしである。


落札した後の裁判所内の行動であるが、、、「特にすることは無い

何故なら、あくまで自分がその物件の最高金額をつけた人として決まっただけで、自分が正式に買うことが出来る「売却許可決定」がおりるのは、原則として開札1週間後となるからだ。

つまり、「アナタは最高金額つけたけど、もしかしたらアナタが売却不許可事由に該当するかもしれないし、執行抗告(詳しくはコチラを参照)の申し立てもあるかもしれない。だから一週間色々と準備するから待ってね~」ということなのだ。

よって、入札結果を確認した後に裁判所内で行う手続きは基本的にない。初心者の内は「最高金額で呼ばれたけど・・・あれ?私はこれからどうすればいいの?あれ?あれ?」なんてことになったりもする。(初めて開札に参加した時は私もそうなったw)

自分の入札した物件が全部発表されたら、その時点で帰るも良し。最後まで残って情報収集するも良しだ。落札しても焦らずに裁判所から郵送されてくる「売却許可決定通知」を待とう。


その後、最後の一件は自分も入札していた足利市利保町の入札発表が行われた。適法な入札件数は4件。駐車場が1台分しかないのがネックで入れる人がほとんどいなかったようだ。

駐車場のスペースが足りない場合だが、庭部分を転用したり、塀などを解体することで解決可能な場合と、単純に土地に対しての建物スペースが大きすぎて駐車場を拡幅できない解決不可能な場合で、「仕入金額」の設定が大きく異なってくる。そして今回の物件は解決不可能な物件だった。

解決可能な場合はリフォーム費用がどれだけ追加で発生するかを考えて、その分を差し引いた金額で落札すればいいだけの話である。しかし、今回のように解決不可能な場合は「地方で駐車場1台しか無い物件はゴミ以下と認識すべき」という鉄則から、非常に価値が落ちる。(つまり、注文住宅を建築する場合、「将来的な売却」を可能性として考えるのであれば駐車場の台数というのはしっかりと考えたほうが良い、複数台駐車場を確保したほうが良い、ということだ。自分の家族がたまたま車1台で生活できても、他の大多数の家族は地方で車所有台数1台では生活をすることはできないのだ。)

故に、買受可能価額(最低落札可能価格)付近での入札をしたが、他の入札者も同じことを考えたようだ。かなり低い金額での入札合戦が行われた結果、市外の買取業者が落札した。

数字はというと、やはりかなり「安く」落札しているので、赤字になることはなさそうだ。自社での販売は余り強くなく、地場業者の仲介に委ねることが多い業者が落札したので、商品化されたら早速広告掲載の連絡をしてみることにしよう。


そんなこんなで約1時間に及ぶ競売の開札が終了した。

(足利裁判所の場合)競売が1時間かかるのは私の感覚だと結構長めである。今回の開札はほとんどの物件で入札者数が多めだったことが長くなった原因で、特に個人の入札が多かったことが印象的だった。それだけ競売が開かれてる市場になりつつあること、ライバルが増えたことで「稼げなくなりつつある」市場になっていることを実感させる。

今は未だ「稼げる」市場である「中古住宅再生業」も、参入業者が増えれば増えるだけ需要と供給の原理によりどんどん「稼げない」市場になっていく。経営者にとっては競売の入札者数が増えることは、決して喜ばしいことではない。ライバルが増加すればするほど競争激化がおこり、仕入れ数は減り、販売利益も減っていく。

「もしかしたら未来の競売でウチの事務所が出る、なんてこともあるかもしれないな、、、」

経営者になってからは、そんな考え方も度々脳裏に浮かぶ。今は順調でも、来年はどうなるか分からない、来年は大丈夫でもその次は・・・。「昔はえらい儲かったけど、時代の変化で段々とダメになってしまってね…」そう嘆く自宅が競売にかけられてしまった経営者の人たちを、私は何十人と見てきているのだ。自分がそうならない保証なんてあるわけがない。

そうならないよう、しっかりと「今」の努力と、「未来」に備える努力、二つの努力を着実にこなし、時代が変わってもライバルに負けない実力を身につけねばならない。

経営者というは何歳になっても、どこまでいっても、努力をし続けるしかない職業だ。努力をしなければ死ぬしかない。

休んでいる暇はない。善は急げ、早速所有者に会いに行き出来うる限り早く明渡しの段取りをつけよう。 T社長、Sさん、Oくんに分かれを告げ裁判所を後にする。 今日は水曜日で本来ならば定休日だが、経営者に休息の時は無いのだ…。

開札立ち合い編だけで3記事も書いてしまいました…、いったい何記事までいくのか分かりませんが、次は所有者面談編です!

裁判所の開札立ち合いの時の注意点まとめ

①他社の入札データを分析することも自分の経験値となりうる、開札時は是非裁判所に行ってみよう。

②他社の入札金額から、想定販売金額、想定リフォーム内容、想定利益などの情報が透けて見える。しっかり研究することで自分の落札確率を上げる、また無暗な高値掴みが起こらないようにできる。

③落札した後、裁判所内で行うべき手続きは無い。一週間後程度に送られてくる「売却許可決定通知書」をゆるりと待つべし。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です