※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)

※ 司法試験考査委員(労働法)

※ YouTubeで3分解説!

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今日の労働判例

【パナソニックアドバンストテクノロジー事件】

大阪地裁平30.9.12判決(労判1203.44

 

 この事案は、H19年の就業時間中の組合活動以降、会社Y側とのトラブルが続き、その間、H21年に1か月、H22年に1年半、H24年に1年の長期休業、H23年に、労災申請(精神疾患、労基署が不支給処分、H29年大阪地裁・H30年大阪高裁が労基署の処分を支持)、等のあった従業員Xにつき、H24年~H25年の間のXによる問題行動を理由に、Yが解雇した事案です。

 裁判所は、問題行動の多くの存在を認定しましたが、その程度が解雇相当ではないことを主な理由に、解雇を無効と判断しました。

 

1.解雇理由

 ここで特に注目されるのは、これだけの具体的な問題行為が詳細に認定されているのに、解雇が無効と判断された理由です。

 これは、1つひとつの解雇事由該当行為について、その存在を認めつつ、解雇するほどの違法性がない、というものです。

 会社側のパワハラの成否に関し、必要性と相当性が問題にされ、特に相当性の部分で、ある程度の教育指導であれば許容される事例が散見されます。

 逆に、従業員側からの会社に対する苦情申出などについても、ある程度の言動であれば許容されるべき余地があるのは当然ですから、この事例は、このような従業員側の許容水準を具体的に示した事案として、参考になります。

 

2.実務上のポイント

 マスコミの報道によれば、この事件は、高裁で和解が成立した様子です。しかも、損害賠償請求や労災の訴訟と合わせて3本の訴訟をまとめて解決金3200万円になったとのことです。

 この金額は、本事案で裁判所が認めた賠償金額の約100倍であり、高裁でも従業員側に非常に厳しい評価が前提となっていた様子がうかがわれます。

 しかも、パワハラが原因の休職があり、そこから復職した経緯も指摘されていることからすると、Yの主張するXの能力不足の原因について、Y側にも何らかの関係があったのかもしれません。

 そうすると、本事案で明確な論点となっていませんが、復職の際に従業員の能力に配慮するように求める裁判例が見受けられるように、復職後の従業員の能力に対しても配慮すべきである、という問題意識が、上記解雇理由での判断、すなわち従業員側の言動について許容される範囲がある判断に、影響を与えているかもしれません。

 会社としては、トラブルが生じている従業員に関し、その時点での能力だけを問題にするのではなく、そこに至った経緯についても慎重に検討すべきである、ということがポイントになるでしょう。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!