「労務事情」連載中!!(毎月1日号)

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今日の労働判例

【一心屋事件】

東京地裁H30.7.27判決(労判1213.72)

 

 この事案は、休職から復職する際に、その処遇に納得できない従業員Xが、納得できる条件で合意し、しばらくするまでの間出社しなかった部分の給与につき、一部について会社Yに支払いを命じたものです。

 この事案には、勤務時間の認定など、その他の問題点もありますが、ここでは復職の際の条件の問題について検討しましょう。

 

1.復職のルール

 休職からの復職に際し、降格して減給したことを有効と評価した裁判例があります。「一般財団法人あんしん財団事件」(東京高裁平31.3.14判決、労判1205.28)です。

 このあんしん財団事件では、就業規則には、「復職にあたって旧職務と異なる職務に就いた場合は、職務の内容、心身の状況等を勘案して給与を決めることとする」という規定があり、これが降格減給を伴う復職の根拠となりました。

 この判断については、復職できるか解雇・退職となるか、の二者択一でない柔軟な対応を可能にする面もあるため、降格減給を伴う復職がどのような場合に認められるのか、注目されます。

 この点、本事案では、復職の際、会社が「人事権の行使として、同様の事故が起こらないように配慮する目的でその勤務内容を決定すること自体は不自然なことではな(い)」とし、業務内容の変更可能性を認めました。さらに、「人事権行使の裁量の範囲内であれば、職務内容の変更に伴い、職務に対応する手当等の支給が廃止されることも許容される場合もあり得る」としています。

 つまり、一般論として、復職の際の実質的な減給について、合理性があれば認められる余地があると認めているのです。

 けれども、あてはめの問題として、裁判所は本事案での減給の合理性を否定しました。

 これは、Yが廃止しようとした固定残業代や諸手当に関し、Xの職務内容の変更との間に合理的な関係がないことを理由とします。つまり、職種を変更しても残業が無くなるわけでなく、通勤が無くなるわけではないからです。

 このように、結果的に、(降格かどうかはともかく)減給は否定されたのです。

 

2.実務上のポイント

 復職の可否について、片山組事件最高裁判決(最一小判H10.4.9労判736.15)が、断枠組みを示しています。

 片山組事件最高裁判決は、①職種限定がない場合、②休職時の業務について労務の提供ができなくても、③当該労働者が配置される現実的可能性がある他の業務の労務を提供でき、④その提供を申し出ているならば、⑤債務の本旨に従った履行の提供がある、と判断しています。

 これに照らすと、ここでの裁判例は、④の部分について、合理的な業務内容の変更であり、それに伴う合理的な減給であれば良い、と置き換えているようにも見えます。

 特に、調理部での業務ができなくなった、という本事案の特徴を考えれば、②の部分も一致すると言えそうです。

 しかも、片山組事件最高裁判決は、休職していた従業員に対して、休職前と違う業務を与えることによって復職の機会がより広くなることを、会社側に求めているのに対し、この事案でも、結果的に合理性が否定されましたが、もし合理的な業務変更と減給の提案であれば、復職の機会がより広くなる点で共通します。

 このように、復職の際の業務変更と処遇の変更(特に言及)の可能性を、一般論としてですが、広げた面が、今後の実務上の参考になります。

 とは言うものの、実際にこの事案で減給の合理性が認められたわけではありません。また、この事案は地裁での判断にすぎず、復職の条件もメイン論点ではありません。

 さらに言えば、復職の可否、というデリケートな問題と同時に発生する減給について、その有効性を「合理性」という概念だけで評価して良いのか、ここで示されたルールがルールとして適切なのか、について十分な検証がされた状態ではありません。

 したがって、実際の会社人事上は、復職希望者に対し、一方的に業務変更・減給を通知するのではなく、この裁判例を参考にしながら、両者が納得できる復職の在り方を模索する、という位置付けが現実的でしょう。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!