「労務事情」連載中!!(毎月1日号)

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/

今日の労働判例

【一般財団法人あんしん財団事件】

最高裁三小R2.3.10決定(労判1220.133)

 

 この事案は、業績の悪化によって、①総務的な業務を担当していた女性従業員らを営業担当にして、人事異動させる内示をしたこと、②狭心症・不安障碍によって休職していた管理職者を、従前の地位に戻せるのかを見極めるために降格減給したこと、その他、様々な論点について判断された1審判決(そのうち、①は一部請求認容、②は請求否認)に対し、従業員らXと会社Yの両者が控訴し、特に①②の2点について判断を示しました。

 2審(#122)は、①を変更し、①②いずれもXらの請求を否定し、最高裁もこの判断を維持しました。

 

1.復職制度の拡張

 詳細は、#122をご覧いただくとして、ここでは、②の部分のポイントを確認します。

 すなわち、休職していたXの様子を見るために、 Yの就業規則の「復職にあたって旧職務と異なる職務に就いた場合は、職務の内容、心身の状況等を勘案して給与を決めることとする」という規定に基づいて、一時的にXを一般職として復職させました。

 2審は、当該従業員は営業の管理職者として電話勧誘等の支援指導等をして営業活動に習熟していたこと、などを理由に、「一時的に降格させて管理職の職務に耐え得るかどうか評価を加えることが人事権の濫用に当たると認めることはでき(ない)」と判断しました。

 

2.実務上のポイント

 従前、休職から復職する際、元の業務を遂行できるかどうかが、多くの事案で問題になりますが、この事案のように、元の業務よりも軽度な業務での復職が認められる(但し、給与などもそれに見合うものとして変更される)ことが可能となれば、従業員にとっても、降格減給の危険がある代わりに、元の健康状態に戻っていないことを理由に復職が否定される危険が減らされるメリットがあります。

 すなわち、元の健康状態に戻っていないから、復職を認めない(=雇用関係が終了する)、というオールオアナッシングの硬直的な運用しかできないのではなく、様子を見るために、軽度の業務を与えて、復職を認める、という選択肢も認められるようになるのです。

 この、法的な構成について、片山組事件最高裁判決との関係など、理論的に詰める必要があります。また、この裁判例が適用されるための条件や、適用される範囲も、詰める必要があります。

 しかし、復職の選択肢が広がる、という点で、休職制度の設計上参考になる判断です。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!