パンデミック下で、日本の情報処理の遅れが世界的な話題になった。保健所が、患者の報告をFAXで行い計算違いを引き起こしたからだ。これ以降、DX(データー・トランスフォーメーション)が流行語になっている。日本は、ひとたび認識を変えると怒濤の勢いで進んでいく。今まさに、AI(人工知能)の普及が過熱化している。
こういう背景で、ドイツ調査会社スタティスタによると、日本の生成AI関連市場は2030年には23年比で4.8倍の87億ドル(約1兆2900億円)になる見通しだ。657億ドルの米国や296億ドルの中国に次ぎ、英国やドイツなど欧州の先進国を上回るという。日本のAI需要が急増するとの予測は、AIの普及で生産性が上がることでもある。日本経済にとっては、「ありがたい予測」である。
『日本経済新聞』(4月18日付)は、「オラクル、日本に10年で1.2兆円投資 データセンターを増設」と題する記事を掲載した。
(1)「米オラクルは、2024年から10年間で計80億ドル(約1.2兆円)超を投じ、日本でデータセンターを増設する。クラウドサービスや人工知能(AI)開発で、重要なデータや個人情報を海外に持ち出さず日本国内で保管・処理できるようにする。米中対立などを背景に経済安全保障の重要度は急速に高まる。自国データを国内で管理する「データ主権」の動きに対応する」
オラクルは、2007年には世界第3位のソフトウェア会社となり、2019年現在はマイクロソフトに次ぐ第2位の企業へと成長している。このオラクルが、24年から10年間で総額80億ドル(約1.2兆円)の投資を行う。この背景には、先の日米首脳会談によって、日米が固い絆で結ばれて地政学的リスクのないことを改めて認識したのであろう。
(2)「オラクルは現在、データセンターを運営する東京と大阪の2エリアを中心に増設するとみられる。データの保管に加え、足元では膨大な情報処理が必要な生成AIの開発に使われるケースが増えてきた。このため、AI開発向けの画像処理半導体(GPU)を調達し、計算基盤としての能力も高める」
オラクルは、AI半導体(GPU)確保も目指している。日本が、国策半導体企業ラピダスを創業し、27年から2ナノ半導体の生産を開始することも、オラクルの日本戦略には含められていることだろう。そういう意味で、世界に名だたる情報企業が、日本で一斉にデータセンターを建設していることは、ラピダスにとって好都合であろう。
(3)「日本のデータセンターを巡っては、テック大手が相次いで巨額投資を打ち出している。米マイクロソフトは2年で計29億ドルを投資する。AIの開発や運用に適した最先端半導体などをデータセンターに組み込む。クラウドサービス最大手の米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、5年で2兆2600億円を投じる。生成AIの普及に伴うデータ処理量の急増を見越して投資を加速する。オラクルも、こうした流れに加わる構図になる」
米マイクロソフトは、日本で2年間に29億ドルを投資する。日本への投資額としては、過去最大となる。AIがデータを学習し、推論するための計算能力はデータセンター内のサーバーが供給している。言葉を巧みに操る生成AIでは膨大な計算が必要だ。マイクロソフトは2024年から東日本と西日本にある2つのデータセンターに、精度向上に向けて大量の演算を並列してこなす最先端の画像処理半導体(GPU)を組み込む。ラピダスにとって、大きなビジネス相手が日本へ進出するのは大きなチャンスだ。
マイクロソフト、3年間で300万人を対象とするAI関連のリスキリング(学び直し)支援策やロボットやAIを研究する国内拠点を設立する。サイバー攻撃対策における日本政府との連携にも取り組むという。世界一のソフトウェア会社として、オラクルの追撃をかわそうとしている。日本にとっては、この世界的巨人が競争してくれることは大きなメリットである。
クラウドサービス世界最大手の米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は今年1月、2023~27年の5年で日本に2兆2600億円を投資すると発表した。クラウドの基幹設備であるデータセンターの増設などに充てる。生成AIの普及に伴うデータ処理量の爆発的な増加を見越して投資を加速させるものだ。
(4)「オラクルは、設備投資に加えて情報管理体制も整える。データセンターの運用や顧客支援を担う人員を日本国内居住者に限定する仕組みを取り入れる。政府機関や金融機関、ヘルスケア業界、通信業界といった顧客の需要に応える。データ主権を重視する動きは国内外で強まる。個人情報の厳格な管理を企業に求める欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)が代表例だ。日本政府も個人情報保護法で国境をまたいだ個人データの移転を制限している」
オラクルは、データセンターの運用や顧客支援を担う人員を日本国内居住者に限定する仕組みを取り入れる。「データ主権」という世界的な流れにそった管理体制を構築するという。