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『声なきものの唄~瀬戸内の女郎小屋~ (14巻)』感想

2020年5月3日(日)

レディコミが好き。

リアリティあふれる(?)シビアでハードな少女マンガ好きだった少女は鬼女になり、当然のようにレディースコミック(女性漫画)を好きになりました。
(※『鬼女』は「既婚女性」をあらわすネットスラングです)

そんなわけでいま追いかけているのは、安武わたる先生作の『声なきものの唄~瀬戸内の女郎小屋~』です。
『声なきものの唄~瀬戸内の女郎小屋~ (14巻)』感想

あらすじ

最下層遊郭に売られた少女が見る、この世の地獄!!
明治後期、瀬戸内海の伊之島で生まれ育った活発な少女・チヌ。
母はなく、幼いころから父親と、美しい姉・サヨリとともに暮らしていた。
ある時、父が死に、姉妹は人買いの競りにかけられる。
サヨリは高値で女衒に売られ、チヌは下層遊郭の「須賀屋」へ売られた。
生きていればいつか姉に会えると希望を持つチヌだったが……。
あらすじの出典はAmazonの販売ページより。

女郎だからこそのプラトニックラブ

ハードでシビアな物語ですが、数年前に流行った曽根富美子先生の『親なるもの 断崖』よりはまだ…………救いがあるお話、だと思っていました。
だって『あしながおじさん』ともいえる超絶イケメン美青年が、主人公チヌの旦那(パトロン)になってくれるんです! しかもわりと序盤で。

絵にしたのはこのあたりの話。
チヌの初見世(女郎デビューのこと。事情があり、チヌはこれより前に女郎デビュー済みなのですが……)のエピソードです。
若様としてはチヌのことを憎からず思っているのに、だからこそ「抱かない」というこういう展開、すっごい萌えますね。
レディコミが大人の少女マンガといわれるゆえんなのでは?

うっかり描いちゃったこのシーンは、原作ではチヌの表情のほうが描かれていて、若様のお顔は見えないんです。
ほんと、グッとくる演出……!

チヌは女郎だから、男性とのつながりは肉体関係ありきなわけですけど、だからこそ旦那となってくれた若様こと若水公三郎とのプラトニックな関係が文字どおり清いものとして光り輝きます。

ところが……新刊14巻を読んだところ、えらいことになってしまいました;;;;;;;

若様ご乱心

いままで本編14冊にわたって主人公チヌひとすじだった若様!
過去に命を懸けて愛した恋人がいたけど、チヌのことはとても大切にしてくれる若様!
(この恋人とは死別しているので、生きているチヌのほうがいつかは勝利すると思うの……ていうか思いたいの!)
強盗後藤田とさえあだなされる青年実業家に「チヌをくれ」といわれても、「あげません」とニッコリ笑っていいはなっていた若様!
海外に売り飛ばされそうになっていたチヌを、必死になって救い出してくれた若様!

それが14巻ラストシーンでいきなり登場したヨソの女を抱きしめて終了!! ですよ!!
チヌじゃなくても激怒展開です;;;;;;

山岸凉子先生の『日出処の天子』で、蘇我毛人(えみし)が、物部氏の斎宮 布都姫(ふつひめ)にいきなり心変わりしたシーンを読んだ気分になってしまいました(なんというたとえ……)。

そして分冊版へ……

若様の心変わりがある意味、毛人より衝撃すぎて、分冊版を購入……。
「いったいどうなるの!?」とチヌのことが心配でいてもたってもいられない気分です。
いまなら14巻のつづきの二話が配信されています。48話と49話ですね。

女郎にもかかわらずチヌとあくまでプラトニック、ていうところが若様×チヌかぽーの大事なポイントだとわたしとしては思うんですよ。
なので、14巻のラストで若様をかっさらっていったトッポでの女――早みどり(さみどり)を若様が抱いたのかどうか? が、とてもとても気になる事項でした。

そしたらさあ…………

まさかしちゃってたとは…………;;;;;;;

そりゃあ、早みどりが昔亡くした最愛の人に似ているからって……。

うーん、早みどり自身も悪い子じゃないんですよ。
不幸で、単体人物としてみるとじゅうぶん悲しい人。
その辺もホンマ、布都姫(日出処の天子)っぽくて…………。
読者としてはとってもニクイ敵役です。

とはいえ、死別した恋人に似ているから好きになるってのは、大和和紀先生の『あさきゆめみし』(源氏物語のコミカライズ大長編美麗マンガ)とか……、あの辺でもあった展開です。
『あさき~』の宇治十帖編(光源氏死後の物語)では、愛する大君(おおいぎみ)を亡くした薫が、下層の出だけど彼女にそっくりな浮舟を愛人にしてしまいます。

今回の『声なきものの唄』の早みどり事件、ムカつき度は布都姫級だけど、展開としては『宇治十帖』なのよねー……。

『宇治十帖』では、薫は元ネタ(?)の大君(おおいぎみ)でなく、けっきょくは浮舟を愛するようになってしまうので……。
若様がそんなアッフォなこと(!!)にならないか、一読者としてはとてもとても心配です;;;;;;

矢津の大地主である若様は、突き詰めてしまえばチヌを含めた女郎たちの稼ぎの上に暮らしていること――などもわたしとしては気になったりもします。
んで、そんな若様はいまは早みどりにものすご~~~~く大金をみついでいる状態なので(早みどりがほかの客と寝なくていいように、楼主にお金を払って彼女を貸し切り状態にしている!)、そのなかにはチヌの稼ぎやって入ってるわけやん……と、とてもとてもモヤモヤします。はい。

若様のアイデンティティにかかわることですし、彼自身は好青年なので気にすべきことではないのかもしれないけども……。
ただ、若様はホントに矢津の土地の運営だけで毎日有閑に暮らせるセレブなのでね……。
『仕事をしていない(ように見える)紳士』ってやつ……。

いつかはサヨリ姉さんと再会して、チヌは若様にめとられる……のがハッピーエンドかな? とは思いますが、遊郭は閉鎖するんだろうか? そしたら若様は一文無しになるのか!?;;;;; とか、いろいろと気になることがつきません。

そんなわけで今後の展開も目が離せないです。


鍋弓わた
近代史とイケメン軍人さんを愛でるイラストレーターの鍋弓わたです。
少女~女性漫画風味のイラスト・マンガを描いています。
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