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涙を止めたい




チャンミンを悲しませる

全てのものから守るように

抱きしめる腕に力を込めた




大丈夫、大丈夫だよ、チャンミン

俺が守るから





***




大丈夫だよ、泣かないでって

ぎゅーって抱きしめたら




「泣きそうなのは、あんたなんじゃねーの?」



そう言って突き飛ばすように腕の中から逃げ出したチャンミン



泣いてると思っていたチャンミンからは何故かきつい視線



あれ??



よく見れば、ふわふわの髪からぴょこって覗く耳が赤くて、落ち着かない風に周囲を窺う素振りをみせる



その様子に、ん?て周りを見渡せば、遠巻きにチラチラとこちらを窺う人たちの姿が...


中には柱の影からガン見してる年配の女性もいて、バッチリと目が合う



み、見られてる?!



「うわあっ!!」



チャンミンの事しか頭になくて
ここがどこだかすっかり失念していた事を今更ながらに気付く


ヤバい


俺がプチパニックしてる間に、当のチャンミンは俺のことを置いて、すでにその背中は数メートル先


「チャンミン、待って!」


慌てて呼びかけるけど、背中は止まる気配なし


置いてくなんて酷えって思いながら
それが何時ものチャンミンらしくてホッとする


さっき見たのは見間違い?


ふに落ちない疑問が残るが、とにかく今はどんどん遠ざかっていくチャンミンの背中を追いかける


「置いてくなよ」


発車ベルの鳴る電車の扉に滑り込んで
涼しい顔で扉の横に立つチャンミンにぼやく


「あんたが恥ずい事するからだろ...セクハラ」


セクハラって...まあ、確かに
でも言い訳させて貰うなら、チャンミンの涙を止めてやりたかっただけなんだけどな...


「ほんと、何考えてんだよ、あんた」


目の前のチャンミンにはそんな様子はなく
やっぱり見間違えだったのかと不思議に思う


なんか納得いかないけど、とりあえず...


「ユノだから!」


「は?」


「あんたじゃなくて、ユノ。はい、言って」


「はあ?そんなの...どーでもいいだろ」


「ユノ!」


大好きな人には、どうせなら「あんた」じゃなく「ユノ」って呼んでもらいたい、いじらしい男心だ


呆れたみたいに口をあけて俺を見るチャンミンに
譲らないぞって意思を込めて視線を合わす


「...ユノ」



根負けしたチャンミンが、諦めたように名前を呼んでくれる



「そう、ユノ!良くできました!」



うん、やっぱり好きな人に名前を呼ばれるっていい



「あっチッ、やめっ、やめろ!僕は犬じゃねえ!」



ふわふわの頭をガシガシと撫でたら

バシッと振り払われる



もうちょっとチャンミンの柔らかい頭を撫でてたかったのに...残念



フーフーッと毛を逆撫でた子犬みたいに怒ってるチャンミンに笑いながら、やっぱりさっき感じたのは俺の勘違いだったんだと思った



でも...確かめずにはいられない



「なあ、チャンミン」



「今度は何だよ」 



気のせいだったならその方がいい



「何かさ...あった?」



チャンミンが悲しんでるのは辛いから



「...なんで?」



一瞬、チャンミンの瞳が見開いたように見えたのは俺が気にし過ぎだから?



「さっき、泣いてるように見えたから」



何かあるなら俺がチャンミンを守りたい



「泣いてねえ」



そうはっきり告げるチャンミンの瞳は乾いてて

確かに少しの動揺も、涙の跡も見つけられない



「うん、そっか」



気のせいならそれでいい

でも、何故だろう

どこか納得できない自分がいる

この胸にある焦燥は

どこからくるんだろうか



しばらく窓の外に視線をやるチャンミンを見てたけど、こうして見れば何時もと変わりないようにも見えてくる




きっと前に会った時より

線が細くなったチャンミンに

そんな風に感じたんだろうと

無理やり納得させる




「よし!チャンミン、肉食いにいこう!」



まだどこか胸に残る疑念を振り払うように

殊更明るい声でそう提案する



は?1人でいけば?なんてつれないチャンミンの腕をガッチリ捕まえて行きつけの焼肉屋がある駅で無理やりおろしてしまう



「お前、痩せすぎだから」



そうだ、痩せすぎて顔色が悪く見えるんだ

ちゃんと栄養つけさせないと



だから変な心配をしてしまうんだと

そう思ったらそれが正解な気がしてきた



「...みん」



「ん?」



肉に、冷麺、ビビンバ

あれもこれもって考えてたからチャンミンの言葉を聞き逃してしまう



「なに?」



焼肉以外が良かったのか??



「チャンミン」



「え?」



「お前じゃなくて、チャンミン」



「....」



「ユノが言ったんだろ」



早口にそんな事を言って、そっぽを向く耳が赤い


チャンミンがさっきの俺の台詞を当てこすってるんだと気付いて、破顔した



「だな、チャンミン」



チャンミン、チャンミン、チャンミン

馬鹿みたいに名前を連呼したら、舌打ちしたチャンミンに脇腹に手刀を入れられて呻く羽目になったけど

フンってそっぽを向いたチャンミンの耳がこれでもかってくらい真っ赤に染まって、俺の顔は緩みっぱなし



そんな、ちょっと残念な俺をチャンミンは呆れた顔して見てたけど、こっちだと前を歩けば、ぶつぶつと文句を言いながらもついて来てくれるから、俺の顔はますます緩んでいく



チャンミンの毒舌やつれない態度は、言わば恥ずかしさの裏返し、最近気付いたチャンミンの可愛い癖だ




チャンミンの小言や赤い耳

ユノって呼ぶ声だとか

ぜんぶぜんぶ嬉しくて、幸せで




「チャンミン、こっち!」



「ユノ声デカい!」



自分の中にある違和感を

...単純な俺はすっかり消してしまったんだ




ごめんな、チャンミン



Y.チャンミナ〜、こっちこっち!美味しい焼肉屋さんだよ

C.ほんとに美味しいんです?

Y.いっぱい食べろよ〜

C...いっぱい?

Y.うん!いっぱい!(チャンミナ少食だから痩せてるんだ!ポクがいっぱい食べさせないと!)

C.ふーん。後悔してもしらねーですよ

Y.あはははーー(強がっちゃって。笑)



ユノはしらなった...チャンミンのお腹がブラックホールなのを。笑


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