高齢者の転倒に対して、極度の恐怖感にさいなまれる症状として
「転倒恐怖感」
というものがあります。
転倒恐怖感について考え評価しているセラピストはどれくらいいるでしょうか?
転倒恐怖感があるかないかで
その後の転倒リスクやリハビリの治療効果にも
影響してくるということをご存じでしょうか?
知っていてもあまり気にしていないという人が多いように感じます。
患者様の自立を目指すうえで必要な「転倒恐怖感」の克服について考えてみましょう。
高齢者に多い転倒恐怖感とは何か?
転倒恐怖感は、
一度転倒を経験した人(主に高齢者)が再び転倒することへの恐怖心を感じることで、
歩くことや活動することにも恐怖感を感じてしまうことです。
「転んだらどうしよう」
「転ぶのが怖い」
という感情です。
定義では
「身体能力が残されているにもかかわらず、移動や位置の変化を求める活動を避けようとする永続的な恐れ」(Tinettiら)
と言われています。
ある報告では、対象者の約半数が転倒恐怖感を感じており、
その特徴として
- 後期高齢者
- 屋外移動に歩行補助具を使用している
- 痛みがある
が挙げられました。
(「高齢骨折患者における転倒恐怖感に影響する要因の検討」日本職業・災害医学会会誌 JJOMT Vol. 62, No. 1)
高齢者の生活で転倒恐怖感があることでどのようなリスクがあるのか?
転倒恐怖感は、活動の制限をもたらし、閉じこもりへ移行し、廃用症候群や身体機能の低下を引き起こします。
それがさらに転倒のリスクを増加させると言われています。
(「転倒の先におこること」鈴木隆雄 整形・災害外科 Vol.50 2007)
転倒恐怖感が強いと、
いくら身体機能が回復したとしても、
必要以上に介助者や福祉用具に頼ってしまったり、
歩く活動範囲を制限してしまったり、
閉じこもりがちになってしまう場合もあります。
しかし、ある研究では、
Time up and go test(以下TUG)が13.5秒以上かかる高齢者においては、転倒恐怖感あり群に比べて、転倒恐怖感なし群で転倒発生が多かった
という報告もあります。
転倒恐怖感がある方が転倒「は」しにくい、ということになります。
この違いとは、
単に「転ぶかもしれない」と考える場合、
転倒を回避しようと転倒予防をするため、転倒が減りますが、
そこから恐怖感が強くなり、
「転ぶかもしれないからやらない」と思ってしまうならば、
その恐怖感から活動制限につながり、身体機能も低下という悪循環に陥ってしまいます。
単純に筋力や可動域などの機能が上がったとしても、
それが歩行能力に結び付くとは限らないのです。
高齢者の転倒予防には身体面だけでなく、
転倒恐怖感などの精神面に対するアプローチも必要となります。
高齢者の転倒を増長する転倒恐怖感を測る評価法とは?
高齢者の転倒恐怖感を図る評価法として、Modified Falls Efficacy Scale(以下MFES)というものがあります。
転倒不安尺度 MFESとは、
転倒に対する自己効力感から転倒恐怖感の程度を測定するための尺度です。
以下の14項目について転倒することなく遂行できる自信の程度を 0 点(全く自信がない)から 10 点(完全に自信が ある)より決定してもらいます。
合計点数が低いほど転倒恐怖感を感じていることを表しています。
- 衣服の着脱を行う
- 食事の準備(調理・配膳)を行う
- 風呂に入る
- 椅子に掛ける・椅子から立ち上がる
- 布団に入る・布団から起き上がる
- 来客(玄関・ドア)や電話に応じる
- 家の中の廊下や畳を歩き回る
- 戸棚やタンス・物置のところまで行く
- 軽い家事を行う
- 軽い買い物を行う
- バスや電車を利用する
- 道路(横断歩道)を渡る
- 庭いじりをする、又は洗濯物を干す
- 玄関や勝手口の段差を越す
カットオフ値を 110 点とし、
110点未満を転倒恐怖感があると考えます。
高齢者の転倒恐怖感を軽減するためにリハビリでできることとは?
転倒恐怖感と似た言葉に「転倒自己効力感」という言葉があります。
簡単に言えば、「転倒せずに日常的な行為を実現しうる自己信頼度」のことです。
転倒恐怖感とは真逆の言葉と言えますね。
転倒自己効力感が高いほど、
逆に行動意欲に結び付き、身体機能の改善にもつながりやすくなります。
これを高めるために必要なのは、
何よりも「成功体験」です。
「転ばずに○○できた」
という体験が転倒恐怖感を軽減させ、活動意欲に結び付きます。
そのためにも、
「転ばない環境」を周りの介助者や環境面など多方面から評価して設定することが大切です。
制限するのではなく、安全に動ける範囲を広げることがリハビリテーション職種の仕事でもあります。
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