前回は森林限界以下(樹林帯)のみの山でも起こりうる、命に関わるリスクの話だったが、北アルプスなどの岩場のある山ではどうなるのか?初心者の方に伝えたい。



山で死なないために

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たとえ高尾山のような「ハイキング」的な山であっても、死ぬ可能性はいたるところに潜んでいるとは言ったが、実際に山で亡くなる人のことを聞くと、とても痛ましい気持ちになる。

だから初心者の方、山を始めたばかりの方にもう少し伝えたいことがある。もう誰も山で不幸になってほしくない




北アルプスなどの岩場のに行く人へ

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この続編では、岩場のある山にはさらにどんな危険があるのか考察してみる。初めて北アルプス、特に穂高連峰、槍ヶ岳、剱岳、五竜岳周辺、八峰キレット、不帰ノ嶮(かえらずのけん)などに「挑戦」しようとする人は必ず知っておいて欲しいことだ。

低山でも、高山でも行動原則は同じだが、登降時の滑落リスクがグンと上がる。比較にならないくらい上がる。高尾山が時速40㎞の運転ならば、剱岳は時速140㎞くらいの運転をしている気持ちで臨まないといけない。

体力が十分あっても、ちょっとした油断が即命取りになることもある。一瞬のハンドル操作で大破する自動車と同じで、一瞬の気の緩みで数百メートル滑落する。

日本の岩稜は「一般ルート」と名こそついているが、余裕で死ねる道はたくさんある。少し極端なことを言えば、絶壁であってもロープで確保されたクライミングのほうが安全だ。「一般ルート」で危険と言われる場所では、ほとんどの人はロープで確保しないで通過するにもかかかわらず、落ちたら即死の場所も少なくない。



危険箇所以外こそ注意

油断は危険箇所のみならず、危険箇所の通過後にも起こりやすい。下りで道の上の石が浮いていて(グラグラしていて)、バランスを崩すこともあるだろう。

狭い登山道で人とすれ違うために少し無理に避けたら思わぬ悪い足場に足を取られることもあるだろう。

jRO(日本山岳救助機構)の昨年の事故報告では、同行者のザックに取り付けているマットを直そうとしたらバランスを崩して滑落というものがあった。

岩稜上ではまさに一挙手一投足が生死を分ける。いわゆる危険箇所を通過しても、上記に上げた北アルプスの岩山には、文字通り一歩踏み出せば死ぬような場所がわんさかある。

それに加えて、水分・エネルギー不足、到着時間の遅れ、そこからくる焦りなどが加わると取り返しのつかない結果になるかもしれない。



初心者は山を舐めない

初心者は山を舐めてるわけではない。用心深い人のほうが多いだろう。むしろ中級者くらいのほうが、自分の実力を過信して、「山を舐めてる」人が多いと思う。だから経験の浅い人が事故に遭ったときに「山を舐めてる」と批判するべきではない。

初級者が事故に遭ってしまうのは、知識と経験不足により、山の難易度をうまく推し測れないからだと思う。用心深いつもりでも、それが見当違いな行為だったりもする。それはたまたま周りに指導者がいなかったり、知らないことがあったりするだけであって、最初は誰でもあることだ。山を舐めてるわけでない。



今一度、自分自身の経験値を見直して

でもどうか、初心者の方は目指す山について、考えを巡らせて欲しい。今はインターネットで簡単に情報が手に入るが、安易な意見ではなく、厳しい意見の方を見て欲しい。

そして、自分が死ぬ可能性について、今一度想像をしてみて欲しい。まさか自分が?なんて思わずに、謙虚に、焦らず、落ち着いて山行計画を立てて欲しい。自分自身の経験値を見直してみて欲しい。

事前に、ゴツゴツでどこを歩けばいいか分からないほどの岩稜の写真を眺めながら、そこで自分が、呼吸を整え、足さばき、手の置き方を上手くできるのか想像してみて欲しい。滑落したらどこまで落ちてくのか見て欲しい。

やっぱり危ないかなと思ったら見直して欲しいし、山行中でも臨機応変に引き返したり、中止にする勇気を持って欲しい。

悲しい事故が少しでも減りますように。



おわり
2019年9月12日