宇宙に強力な愛を注いだキング牧師
1960年代キング牧師の公民権運動に参加する人々は日に日に増えていきましたが、敵対する人々も現れました。
敵対する人々には、富める者、権力がある者が多くいました。
黒人も白人もいました。女性も男性もいました。
彼らは変化を恐れていて、キング牧師の預言者的発言を黙らせようとしました。
デモ行進をやめさせようと躍起になりました。
キング牧師を支持する人々は、こういった人々に厳しく対応することを望みました。
しかし、そんな時キング牧師はそんな時、目を曇らせ、眉間にしわを寄せて
「厳しい態度は、危険な人々を取り扱う際の方法ではない。暴力はただ、より多くの暴力を生むだけである。
強い人間とは、憎悪の鎖を断ち切ることのできる人のことである。」
と語りました。
「だれかが憎悪心を断ち切るだけの十分な信仰心と道徳心を持ち、宇宙の構造そのものに強力な愛の要素を注入しなければならない。」
そしてつねに「あなたの敵を愛さなければならない」と説きました。
そのためにキング牧師は投獄されたり、嘲笑にさらされたりしました。
キング牧師の存在そのものがアメリカという国にとって、さらに人々に愛を説く教会にとってさえ脅威だったのです。
”特権と特別な地位を得ていた人々の秩序を乱す者”と見なされました。
キング牧師の霊性が、多くの人々の無関心や冷淡さに疑問符を呈しました。
ガンディが説いた、”非暴力によって、世界を穏やかな方法で揺り動かす”ことを実行しました。
そして一人の人間でも真理と勇気をもってすれば、一つの国家全体を動かすことができることを証明したのです。
「I Have a Dream」の名演説は、あらゆるアメリカ国民に向けられましたが、「救いを必要としているのは黒人よりむしろ白人である」ことを示唆しています。
「白人の中には、報復を恐れている者が多いのだ。
黒人はかれらに何も恐れる必要なないことを示してやらなければならない。
黒人は過去を許すのであり、しかも喜んで許すからである。」
黒人を差別してきた白人は、自らの魂をゆがめてきた、とキング牧師は考えていました。
現代でも同じような反発が起きています。
BLM（Black Lives Matter)運動の声が大きくなるにつれて、黒人の報復や社会変化を恐れる人々が、見せしめに黒人の惨殺を行います。
あなたの敵を愛せよ。
天にいますあなたの父の子となるためである。
われわれはわれわれの敵を愛さねばならない。
なぜなら愛することによってのみ、われわれは神を知り、神の聖なる性質の美しさを知ることができるからである。
もちろん、これは容易に実行可能なことではない。
人生には仕返しがあり、打ち返され、手段を選ばない闘いがある。
今私が、イエスはわれわれに、われわれを傷つけ、抑圧する物を愛せよと命じておられると言うとき、それは大抵の牧師が言うように観念的で、非現実的に響くであろうか。
だがわが友よ、われわれはあまりにも長い間、いわゆる現実的な道を歩んできたのではなかろうか。
そしてその結果、どうしようもない混乱と無秩序に陥ってしまったのではなかろうか。
この国を救い、人類を救うためには、われわれは別の道を歩まねばならないのである。
愛の共同体を創りだす道はこれしかないのである。
その後、セルマの行進を成功させたキング牧師は、39歳で凶弾に倒れます。
困難を伴ったセルマの行進は映画化もされています。（グローリー/ 明日への行進）
当時の状況や、”黒人が行進する”という、ただそれだけのことがいかに困難であったのかがよくわかります。
キング牧師に先立って、マルコムXも40歳で凶弾に倒れます。
公民権運動の天才的リーダー達は若くしてこの世を去ることになりました。
今こそ、このキング牧師のメッセージが必要とされる時代です。
なぜなら、これは公民権運動だけでなく、私たちの人生を通じて、私たちを導く人生の教訓がそこにあるからです。
不安や恐怖から他人を非難し、差別し、攻撃し、自分を正当化することは簡単です。
しかし、自分を憎む人を許し、認め、愛するためには、自分が成長することが求められます。
一人一人が成長を遂げることこそが、差別を生まない世界を創り上げることにつながります。
ハンナ・アーレントが「全体主義の起源」で述べていた、ホロコーストはなぜ起きたのかに対する答えが、
この1950年代、1960年代にアメリカで起きた公民権運動を観察することによっても見つかります。
先人たちが命をかけて訴えかけてくれた言葉に耳を傾け、私たち一人一人の内なる世界を平和にすること。
どんな些細な事であっても、良心に基づいて行動すること、そして成長することがこれからの時代に求められています。
良心に基づいた行動をすることによって、私たちがどのような状況に置かれたとしても、混乱に巻き込まれずに冷静に行動することができます。
良心こそが、私たが平和な世界を創るための大切なアンカーとなるのです。