“人々はなぜカネを使おうとしないのか?”

これほど容易に答えられる問いは他にないと思うが、小学二年生でも速攻で回答できそうな問題に頭を悩ます大人たちを見るにつけ、日本人の劣化ぶりを嘆かざるを得ない。

 

消費増税で真に注意すべきは「駆け込み需要が見えない」ことだ(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹 鈴木明彦)

https://diamond.jp/articles/-/213712

 

上記コラムで鈴木氏は、10月からの消費税率10%への引き上げまで1ヵ月を切ったが、駆け込み需要があまり出てきていない」現状を踏まえ、「これまでの消費増税のときと異なって、景気は調整局面に入り、消費者マインドも2年近く悪化が続いている。政府の対策がなくても駆け込みが出てくる雰囲気ではなかったのではないか」と分析している。

 

“折からの景気後退局面により消費マインドが冷え込み、3度目の消費税率引き上げを控えた消費者は財布の紐を緩める選択ができなかった”という結論だけならよい

 

だが、鈴木氏は、その後もくだらぬ御託を並べた挙句、「消費が減少すれば、やはり消費税を上げると景気が悪くなる、だから、今後、しばらくは消費増税を封印しようという雰囲気が強まるかもしれない。しかしこれは、財政赤字や社会保障費の今後のことを考えると問題だ」と述べ、増税断行すべしと訴えている。

 

「人々がカネを使わず、恒例の増税前の駆け込み消費すら起きない理由は、現にカネがなく、将来の収入も増える見込みがないから」で終了なのだが、鈴木氏のように、国民が低収入に困窮している事実を認めず、庶民の収入を増やすのしとしない輩は、なんのかんのと理由をつけ、増税やむなしという結論に持っていきたがる。

 

彼は、駆け込み消費が起きない理由について、

・2014年の増税時(5%→8%)に今回の10%への増税は織り込み済みだから、出てくる駆け込みは限られる

今回は2%ポイントと小幅の増税なので、増税前に購入しておこうという気持ちにならないのかもしれない

・“駆け込み祭り”に乗り遅れまいという消費モードが盛り上がるのは、景気回復局面であり、過去2回の消費税率引き上げの時はそうだった

・高齢化が進み人口減少時代に入ったなかで、個人消費の基調は構造的に変わっている

とアホな分析をしている。

 

まず、前回(2014年)の増税時に将来の10%への引き上げ分(※当時は2015年10月を予定)まで織り込んだ駆け込み消費が起きたのでは、という分析だが、今年2月の流通ニュースによると、「認知状況では、8割以上の人が10%への消費増税を認知している。前回の認知度は62.3%で、今回は80.7%となり、前回の消費増税時よりも 18.4ポイント増加した。

消費増税までの間に、「事前に購入する/買い置きする」などの対策を、何かしら検討していると答えた人は、7割近くとなり、駆け込み需要がある」と予想されていた。

【参照先】https://www.ryutsuu.biz/promotion/l022646.html

 

前回よりも多くの人々に増税が認知され、7割近くが事前購入などの対策を講じると答えていたという調査結果がある以上、2014年に駆け込み需要の先食いが起きたというのは、あまりにもバカすぎる推論だ

 

次に、今回の増税幅はたったの2%Ptだから、人々にスルーされたというのもおかしい。

 

常識で考えれば、消費刺激力において、2%Ptと3%Ptとの間に格段の差異があると思う方がどうかしている。

前回の3%Ptアップ時に3.3兆円もの駆け込み需要が起きたのに、今回の2%Ptがスルーされたのか、たった1%Ptの違いで大きな差異が出るはずがなかろう。

 

長年に亘り、モノを買うたびに8%ものペナルティを課されてきたのに、このうえ更に2%Ptの重しを乗せられる国民の痛みを、鈴木氏はまったく理解していないのではないか?

2%Ptもの増税を“小幅”と言い切る無神経さに、それが如実に表れている。

 

また、彼は、「景気動向指数で確認すると、89年4月の消費税導入、97年4月の消費税率引き上げ(3%⇒5%)、そして14年4月の消費税率引き上げ(5%⇒8%)と、過去の消費増税の際は、いずれも増税前まで景気動向指数は上昇(回復)していた」と述べている。

 

景気動向指数(CI指数)を確認すると、いずれも増税6か月ほど前から景気動向指数(CI指数)は上昇傾向にあるが、増税発動とともに降下している。

(1989年3月~4月:104.2→101.6、1997年3月~4月:97.1→94.7、2014年3月~4月:105.7→100.8 「2015年=100)

【参照先】https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di.html

 

鈴木氏は、景気動向指数が上向いている局面なら増税も許容されるかのような言い草だが、万年病み上がり体質の日本経済において、景気回復局面(といっても、回復度合いとやらは微々たるものだが…)で行うべきは、増税ではなく、更なる景気刺激策でなければなるまい。

 

だいたい、指数の基準となる2015年の値が、四半世紀も昔よりも低いなんてこと自体おかしいではないか?

こうした体たらくを放置したまま、駆け込み消費の理由探しに右往左往するなど、まったく意味がない。

 

最後の高齢化や人口減少の影響云々も滑稽でしかない。

 

我が国の人口はピークの2008年/1億2,808万人から減ったとはいえ、その減少率は10年間でたったの1.5%に過ぎず、減少人口の大半はお金を自由には使えない若年人口が占めており、人口減少自体が由々しき大問題なのは間違いないが、これを駆け込み消費減の主要因に挙げるのはあまりにもバカげている。

 

鈴木氏はコラムの締めに、「今回の増税では一見、駆け込み需要が出ていないように見えても、消費増税後の個人消費が下方に屈折する可能性があるが、それは覚悟していなければいけないことなのだ」と述べている。

 

要は「この先増税の影響でいくら個人消費が落ち込んでも文句は言うなよ! それが日本の消費の実力だろ? 財政赤字や社会保障費のことを考えた消費税増税以外の選択肢なんてあり得んだろ(# ゚Д゚)」と言いたいわけだ。

 

増税前の駆け込み消費すら起きぬ原因は、「消費に使えるカネがなく、今後入ってくる見込みもない」だけのことだ。

 

懐にカネがないばかりに、値上がりすることが判っているのに駆け込む元気すらない

もはや日本経済は終了の赤ランプが灯ったと言えよう。

 

我が国は、国民がモノやサービスを満足に消費できぬような貧乏国家に片足を突っ込んでいるという自覚を持つべきだ。

 

いま議論すべきは、増税を前提とした弥縫策の在り方ではなく、ご臨終寸前の個人消費をいかに回復させるか、それを早急かつ効果的に実行するためにどんな経済政策を打つべきかであろう。

 

消費税廃止は無論のこと、社会保障費の国民負担の大幅な削減や直接給付金、大学までの学費無償化、国庫負担による公共料金の大幅値下げ、年金支給年齢の60歳への引き下げなど、あらゆる手段を総動員する覚悟が必要だろう。

 

緊縮絶対主義やくだらぬ政策選択論は要らない。