ご無沙汰しております。久々の更新になってしまいましたが、今回は論文を英訳, 自分なりに要約してみたいと思います。今回、参考にしたのは"Impact of Endovascular Therapy in Patients With Large Ischemic Core; Subanalysis of Recovery by Endovascular for Cerebral Ultra-Acute Embolism Japan Registry 2"(H.Kakita, S.Yoshimura et al. Stroke. 2019;50:901-908)です。
(1) Reserch Question
急性期の大血管梗塞(内頸動脈など主幹脳動脈が閉塞した脳梗塞のこと。Large Vessel Occlusionとも; 以下'LVO')に対する血管内治療(endovascular therapy; 以下'EVT')の有効性を証明した複数のrandomized controlled trial (RCT)のデータに基づき作成された今日のガイドラインには、EVTの適応について「ASPECTSは6点以上」という項目がある(※ "ASPECTS"の詳細については以下の記事をご参照下さい)。
上記RCTでは、脳出血等の合併症を懸念し「虚血コアが大きい症例(つまりASPECTS≧6)」を除外しているものも含まれる。例外的に、ASPECTSに関係なく急性期のLVOを全て含めた2研究"MR CLEAN", "THRACE"ではそれぞれ、「ASPECTS 0~4では有効性を示せなかった」, 「MRI DWIでASPECTS 0~4でEVTは有効であった」と互いに異なる結果が出ている。他方、「ASPECTS 0~5であってもEVTが有効」という報告もあることから、ASPECTSが6点を下回る急性期LVOに対するEVTに対する是非は未だに結論が出ていない。
そこで、本研究では「ASPECT 0~5の急性期LVOに対するEVTの効果を解明する」ことを目標にした。
(2) Study Design
本研究では、"Recovery by Endovascular Salvage for Cerebral Ultra-Acute Embolism Japan Registry 2 (RESCUE-Japan Registry 2)"のデータを用いた。"RESCUE-Japan Registry 2"では2014年10/1から2016年9/30の間に日本国内の46施設で登録された2,420名の急性期LVO患者が登録されている。
1. Patient seleciton:
① 急性の内頸動脈, もしくは中大脳動脈M1領域の閉塞
② 単純CT or MRI DWIでASPECTS 0~5
なお単純CT, MRI両方が治療前に撮影されていた場合には、DWI-ASPECTSで評価した。
2. Intervention: EVTを行った患者群(EVT group)
3. Comparison: EVTを行わなかった患者群(non-EVT group)
4. Outcome:
Primary Outcome: "Good functional outcome" (mRS 0~2と定義)で評価。
また、以下のようなsubgroupへ分類してprimary outcomeを分析した。
① 年齢; 75歳未満と75歳以上
② ASPECTS; 0~2と3~5
③ NIHSS; 15点以下と16点以上
④ 発症前mRS; 1点以下と2点以上
⑤ 発症から来院までの時間; 180分未満と180分以上
⑥ t-PA使用の有無
⑦ 血管閉塞部位; 内頸動脈閉塞とM1閉塞のみ
Secondary Outcome: 以下の4項目で評価。
① 入院後24時間における、NIHSSの8点以上の改善
② "Excellent functional outcome"; 90日後におけるmRS 0~1
③ "Moderate functional outcome"; 90日後におけるmRS 0~3
④ 90日後の死亡率
Safety Outcome: 入院後72時間以内の頭蓋内出血(CT, MRIで診断)
これらに加え、supplemental analysisとしてASPECTS 6~10の患者の解析も行い、ASPECTS 0~5の患者とも比較した。更に、「発症〜来院までの時間」の替わりに「発症から血管穿刺(治療開始)までの時間」を含んだmultivariable analysisを行った。
(3) Result
1. Patient Characteristics
下に示すFigure 1の写真のように、"RESCUE-Japan Registry 2"に登録した2,420名のうち、上記'patient selection'の条件を満たす計504名(うちEVT group 172名, non-EVT group 332名)が最終的に対象となった。
Non-EVT groupで有意に多かったのは① 高齢患者, ② 女性, ③ 発症前mRS不良, ④ NIHSS高値, ⑤ 低ASPECTS。他方、EVT groupで有意に多かったのは① 発症から来院までが早い, ② t-PA投与, ③ 発症から血管穿刺までが早い, であった。それ以外の既往歴, バイタルサイン, 閉塞部位については両群間で有意差はなかった(Table 1)。
国際的に脳梗塞の診断で最初に行う検査はCTであることから、データの解析をCTのみで行おうとした。しかしCT単独で評価された患者数が少なく統計的に有意となり得なかったため、① MRIのみ, ② CTのみ, ③ CT・MRI両方, で評価された患者をそれぞれ別に解析することにした。
2. Primary Outcome (Table 2)
”Good functional outcome"は、non-EVT groupよりもEVT groupで見られた(19.8% vs 4.2%; P<0.0001; adjusted OR 2.33; 95%CI 1.10~4.94)。
また、本研究ではMRIを撮影した患者が大半を占めた(前方循環系の脳梗塞患者1,886名中、1,714名)一方で、CT・MRI両方を撮影した患者も多く、704名の患者にてCT-SPECTSの分析が行われた。本研究では、CT-ASPECTS群vsDWI-ASPECTS群の解析も行われ、EVT groupにてnon-EVTよりも有意に"good functional outcome"が見られた(CT-ASPECTS群: EVT 16.7% vs non-EVT 2.7%; P<0.0018; adjusted OR 5.98; 95%CI 1.40~25.5, DWI-ASPECTS群: EVT 20.0% vs non-EVT 4.7%; P<0.0001; adjusted OR 2.31; 95%CI 1.08~4.90)。
一方、t-PA投与が行われた患者はEVT群(39%)・non-EVT群(12.4%)両方で少なく(Table 1)、また両群間で"good functional outcome"の有意差は無かった(adjusted OR 3.47; 95%CI 0.81~14.85)。
3. Secondary Outcome (Table 2)
① 24時間後のNIHSS改善が8点以上(26.8% vs 4.8%; P<0.0001; adjusted OR 4.16; 95%CI 1.97~8.81), ② "moderate functional outcome"(34.9% vs 7.5%; P<0.0001; adjusted OR 3.82; 95%CI 2.04~7.18), の2項目で両群間に有意差が見られた。
"Excellent outcome", 及び死亡率で有意差は無かったが、EVT群で死亡率は少ない傾向が見られた(14.0% vs 26.8%; P=0.0007; adjusted OR 0.59; 95%CI 0.32~1.08)。
4. Safety Outcome (Table 3)
計504名の患者中450名について、治療後に頭蓋内出血の有無を調べた。EVT groupとnon-EVT groupの間で、頭蓋内出血の割合に有意差は無かった。
5. ASPECTS 6~10の患者のPrimary Outcome
EVT groupで有意に"good functional outcome"が見られた(42.3% vs 29.2%; P=0.0003; adjusted OR 1.81; 95%CI 1.23~2.66)。更に、adjusted ORはASPECTS 6~10よりも、同0~5で大きかった(2.33 vs 1.81)。
6. Shift Analysis (Figure 2)
90日における全てのmRS分布について、両群間で有意差が見られた。
7. Subgroup Analyses (Figure 3)
発症〜来院までの時間 及び NIHSSによるグループ分け以外では、subgroup間で有意な関連性は無かった。
「発症〜来院までの時間」<180分のsubgroupでは、EVT groupにて"good functional outcome"が有意に多かった(adjusited OR 4.86; 95%CI 1.7~13.85)。また、「発症〜来院までの時間」<180分のsubgroupと「発症〜来院までの時間」≧180分のsubgroup間の比較でも有意差が見られた(interaction P values 0.02)。また、NHISS≧16のsubgroupでは、EVT groupにて"good functional outcome"が有意に多かった(adjusted OR 4.98; 95%CI 1.9~13.05)。NIHSS≧16のsubgroupとNIHSS<16のsubgroupの間でも有意差が見られた(interaction P values 0.0014)。
他のsubgroupの結果については、以下の通りである。
- 発症前mRS<2のsubgroupではEVT groupにて"good functional outcome"が有意に多かった。しかしmRS≧2のsubgroupでは有意差が無かった。
- ASPECTS 3~5のsubgroupでは、EVT groupにて"good functional outcome"が多い傾向が見られた(adjusted OR 2.04; 95%CI 0.96~4.37)。但し、ASPECTS 0~2のsubgroupに関しては、十分な数の患者が集まらなかったのでadjusted ORの計算ができなかった。
- 内頸動脈閉塞のsubgroupではEVT groupにて"good functional outcome"が有意に多かった。
(4) Discussion
これまでも、虚血コアの大きい脳梗塞患者へのEVTが有益である可能性を示す報告が存在していた。また、過去のEVTで治療されたDWI-ASPECTS 0~5の患者を含むregistryを基にした後方視的研究では、DWI-ASPECTS 3~5は良好な予後を予測させるマーカーの一つであった。本研究において、ASPECTS 3~5であった369名の患者ではnon-EVT groupと比較しEVT groupにて"good functional outcome"が多く見られた(20.4% vs 6.6%; P<0.0001; adjusted OR 2.04; 95%CI 0.96~4.37; Figure 3)。対照的に、ASPECTS 0~2であった135名の患者については、EVT groupで15名の患者中2名で"good functional outcome"だった(13.3%)一方で、non-EVT groupではそうではなかった(0%)。
「発症〜来院までの時間」は、non-EVT groupと比較してEVT groupで有意に短かった(110[95%CI 50~195] vs 270[95%CI 110~656.3)。またEVT groupにおいてt-PA治療を受けた人が有意に多かった(39.0% vs 12.4%; Table 1)。多くの医師が、来院が早かった患者に対し「t-PA + EVT」というaggressiveな治療を選択したことは想像に難くないものの、t-PA治療の有無に関係なく"good functional outcome"はEVTを受けた患者にて多く見られた(Figure 3)。EVT groupとnon-EVT group間の「発症〜来院までの時間」の有意差が示すように(110[95%CI 50~195] vs 270[95%CI 110~656.3]; Table 1)、ASPECTSは虚血コア, 脳梗塞重症度と関連するだけでなく、脳梗塞発症後経過時間とも強く関係している。すなわち、虚血コアが大きい脳梗塞を治療する場合、脳梗塞発症からの経過時間はEVTによる治療の最も重要な因子の一つである。
EVT groupの患者はnon-EVTよりも若かったが、75歳以上のsubgroupでもEVT groupにて"good functional outcome"がより多く見られた(Figure 3)。NIHSS≧16のsubgroupでは"good functional outcome"がEVT groupで有意に多かったものの、NIHSS<16についてはそうではなかった。BaselineのNIHSSが高値であるほど、EVTの効果が大きいと思われる。他にも、内頸動脈閉塞を伴うEVT groupでは、"good functional outcome"が有意に多かったが、中大脳動脈M1閉塞のみを伴うEVT groupではそうではなかった。
虚血コアが大きい脳梗塞では、EVTによって出血が起こるという懸念があったが、本研究ではEVT groupで出血イベントの増加がないことが示された(Table 3)。
今日、EVTはASPECTS 6~10の患者で推奨されているが、本研究はEVTが虚血コアが大きい患者においても良好な予後と関連していることを示した。
(5) Limitations
- 本研究は、全国レベルの他施設registryなのでEVTの適応は施設や医師によって異なる。
- 本研究では、2年をかけて46施設から急性LVOを登録し、これまでにない規模のstudy出会った。しかしながら、それでもASPECTSが極めて低い患者を評価するにはサンプルサイズが不十分だった。
- 画像検査が標準化されておらず、また画像のセンターでの分析がなされていない。
- 大半の患者はMRIで評価されており、結果がCT-ASPECTSに当てはまるか不明確。
- 本来、MRI perfusion or CT perfusionのパラメーターがEVTを行う際の意思決定に影響するはずである。しかし、このregistryではperfusion imagingは必要とされていなかった。最近、米国では"RAPID (tapid processing of perfusion and diffusion)"というシステムを用いて虚血コアを計測するのが趨勢となっている。日本ではそのようなシステムはまだ導入されていない。
- 患者の治療法がmaskされていなかったため、独立した医師により評価はされていたものの、mRS評価にバイアスが入っていた可能性がある。