Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

生命倫理関連の話題でちょっと気になることがあったので

 昨晩YouTubeをなんとなく見ていたら、ちょっと気になる話題を目にしたので今回はそれについて持論を展開したいと思います。その件の動画とは、以下のようなものです。

絶滅危惧種の野生馬のクローンを作成し、それを種の保存に活かそうという試みについて、賛否両論の議論や, クローン羊『ドリー』の話題等について述べられていました。ドリーの誕生は1996年, 死亡は2002年ですが、私は当時小学生〜中学生でした。特にドリー死亡に関しては、当時のメディアがクローン技術の完成度や安全性に関する懸念を強調していたことを記憶しています。

 ところが、2016年の記事ではドリーと同じ体細胞を使って(正確には、体細胞から核のみ抽出し、同種の核が抜かれた卵細胞に移植する)2007年に誕生したクローン羊4頭が、2016年時点で特に健康状態に支障なく生存している事実が報道されています。また上述の動画で述べられているように、ドリーにおいて指摘された「テロメアが短い」という点については「クローンとテロメアの相関関係は立証されていない」という研究結果があります。私の記憶では、2002年当時ドリーの死についてはかなり話題になっていましたが、その後の報道はパタリと止み、例えば「なぜドリーは早死にしたのか?」を検証した研究結果に関する話題や, 他のクローン羊の経過についてはメディアが話題にしていた、という記憶は私にはありません。要は、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」なのです。

 似たような傾向は福島第一原発事故の時もありました。放射線の人体への影響について、専門家による検証を経て蓄積・究明された知見や, それに基づく専門家・政府の発信には目もくれず、『専門家』を名乗って扇情的な発言を弄する人ばかりが注目されました。そして時間が経つと福島や第一原発のことをさほど気にもかけなくなり、処理水の行き先を巡る議論が浮上した時にだけ「そんなの放出すんな」と突っ込むだけ。2014年の西アフリカでのエボラ出血熱アウトブレイクの時期には、アフリカから帰国時に発熱していた患者の入院先にまで報道陣が押しかけ大騒ぎしたクセに、2020年になるまで感染症アウトブレイクに関する話題には総じて無関心でした。

 「(正確には一般人の多くが)分からない」, それが故に「危険」に見えるものがニュースのヘッドラインに登場した時、専門家による論理的・科学的な発信には目もくれず、扇情的なコメンテーターに飛びつき、かと思えば時間が経つにつれて関心を急速に失い、最後は忘れ去られる。あらゆる出来事が、それの繰り返しだったのです。

 しかしその現状を放置しておいても人類社会へ何らかの利益なんて生じませんし、むしろ多くの人が不利益を被ってしまいます。専門家によって一般人との溝を埋める努力はもちろんのこと、両者の橋渡しを担う人(開かれた政府, 良心的なメディア)によるより一層の協力が必要なのです。

 

※追伸

 YouTubeへまた動画をアップロードしています。9/19にはECMOに関する動画を上げていますが9/22午後2時現在で再生回数たった2回です。

また本日も、医学生向けの動画を公開しております。ここ約1ヶ月程度、せっかくアップロードした動画が総じて再生回数1桁に留まっており非常に困惑しております。別に収益化を目指している訳ではありませんが、あまりに寂しいのでチャンネル登録のみならず、高評価やSNSへのシェアもよろしくお願いします。

youtu.be