人はどんな恋をするのだろうか。オレにとって、二度目はない。そう思ってる。オレは北山司(きたやまつかさ)。いつの間にか、45になった。未だ、ひとりでいる。オレは生涯、多分誰とも結婚なんかしないだろう。この先もずっとひとりでいるのだ。あの女のことだけを思ってね。

 

 オレの仕事は、大型汎用機と言われた時代のコンピュータのプログラマーをやっている。今の時代にこんな時代遅れな仕事をしているなんて、不思議に思う人もいるかもしれないが、この仕事も、実は細々と続いている。こんな仕事だから、やっているのは男ばかりだ。それもオレと同等、いやそれ以上の年齢の人ばかりだ。若い子はいない。本当に人手が足らなくなったら、補充するのだろう。オレはこの仕事に満足している。こんな仕事ができる人材はあまりいないので、それなりの給料をもらっているからだ。恐らく、老後もひとりでやっていけるだろうくらいには、貯蓄も貯まっている。

 

 ここ何年かは、会社と家の往復ばかりだ。休みの日にも誰とも会うこともない。そんなオレのところに、ある手紙が届いた。同窓会の案内だった。中学の時のだ。オレにとっては一番思い入れがある時期だった。それなのに、誰とも連絡を取っていない。まあ、せっかく案内を送ってもらったんだし、行ってみようか。オレはそんな気になっていた。

 

 中学の時、オレには一目惚れした子がいた。自分でも不思議なくらい積極的になって、彼女にアタックをした。彼女は鹿野香澄(かのかすみ)といって、割と背の高い、オレにとっては可愛らしい感じのする子だった。

 

 彼女はオレからの求愛に、ごめんなさいとは言わなかった。でも、本当に好いてくれてるのかもよくわからなかった。デートも2、3回くらいした。といっても、ふたりで話をしたくらいのデートだったけどね。彼女は歩いて20分くらいのとこに住んでいたけど、手紙をよく書いた。当時は電話か手紙。そんなもんだった。学生のオレらにとって、電話は高くつくので、やはり手紙が主流だったのだ。どんなやりとりをしたのか、今となっては覚えていないが、最後に彼女からの手紙の中で、「私だけじゃなく、もっといろんな人と付き合ってみれば?」と言われたことが、当時のオレには、嫌われたんだとしか思えなくて、それ以上付き合うことはなくなった。たったそれだけでしかなかったけど、オレには忘れられなくなっていた。みんなからには「だんだん恋に恋してるって感じになるんだ」とか言われたりした。でもオレは、またいつか、偶然会って再燃するかもしれない。そんなことばかり考えていた。だから、他の女になんか目も向かなかったんだ。

 

 そんな彼女も来るのだろうか。オレは当日を思い、年甲斐もなくドキドキしていた。そうなると仕事もそっちのけで、早くその日が来ないのか、そればかり頭を駆け巡った。どんな服装で行けばいいんだ?どんな髪型で行けばいいんだ?できるだけ自分を良く見せたい思いでいっぱいだった。中学卒業から30年、みんなどうなっているんだろう。でも、香澄のことが、一番頭の中に膨れ上がっていた。

 

 当日、オレはドキドキしながら、会場に向かった。来ていたのは20人くらいで、男女ほぼ半々だった。

「いや~、おめ~全然変わらんなあ。」

「だいぶ、薄くなったよ。」

「貫禄でてきたな。」

 

 男どもはだいたい誰だかわかったが、化粧するとわからなくなる女子たちは、わかるまで時間がかかった。でも、みんな旧姓の名札を付けておいてくれたので、わかりやすかった。その中に、オレのお目当ての彼女も来ていた。オレはすぐには話をすることができなかった。でも、やはり何も変わってなかった。オレにとって、香澄は中学のままだったんだ。

 

 同窓会では、まあ30年も経っているんで、それぞれ自分の近況を話していくことになった。オレ以外みんな既婚だった。まあ、そんなもんだろう。すぐにオレの近況を話す番になった。

 

「北山です。今は、製造業の会社で、大型汎用機というコンピュータのプログラマをやっています。」

オレが簡単に話を終わらせようとすると、みんなから質問が挙がった。

「結婚してるの?お子さんは?」

「オレはまだ独身です。」

「ええ~、うっそ~。」

 

 ちょっと意外だったのかも知れない。オレは、雰囲気的にいい家庭を築いているように見えたみたいだった。だから、オレが独身だということは、みんなにはとっても意外だったのかも知れなかった。

 

 香澄は当然結婚していた。お子さんもいるって言っていた。そうだよな、もう45だもんな。

「でも、意外ね、北山クンが独身だなんて。」

「鹿野さんと別れたからなん?」

「いや、そんなことないよ。」

でも、内心、そうだ、とつぶやいていた。

 

 オレの傍に彼女がやってきた。

「結婚してなかったの?」

「まあね。」

「私のせい?」

「いや、そんなことないよ。」

「なんか、申し訳ない気持ちになるわ。」

「気にすんなよ。たまたま、出会いがなかっただけだよ。」

「そう?」

「ああ、そうさ。」

 

 でも、本心はそうじゃない。いまでも、オレは彼女にぞっこんだった。30年という月日が経っても、オレの気持ちは変わってなんかいない。でもいまさら、そんなこと、言えやしない。彼女はすでに結婚していて、家庭がある。オレの入る隙間なんてないんだ。そう思うと、なんか絶望感しかなかった。

 

 その後、2次会とかあったけど、オレは1次会で帰った。もう十分だ。彼女の近況もわかったし、もうこれ以上話してもなんかつらいだけだった。

 

 家に帰ると、電気のついていない、いつもの淋しい部屋だ。これから先もずっと一人で生きていくんだろう。また、いつもの生活が始まっていくんだろう。

 

 

 

 

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(つづく)

 

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