ハルちゃん。
ユリさんはよく、ある人の名前を口にしていた。
それは、“ ハルちゃん ” という人。
ユリさんが学生時代に仲良くなった先輩(女)で、今でも交流があるという。
実はユリさん、意外とアクティブでフットサルやらテニスやらいろいろしている。
ハルちゃんとはフットサルを一緒にやっていて、飲みに行ったりもするようだ。
ユリさんはよく私にハルちゃんの話をしていた。
「ハルちゃんは○○に勤めていて・・・」
「ハルちゃんが○○って言ってて・・・」
「ハルちゃんが昨日・・・」
ハルちゃんが・・・、ハルちゃんが・・・、
ユリさんは気づいてなかったかもしれないけど、本当に頻繁にハルちゃんの名前を口にしていた。
だから私は少しだけ(いや、おもいっきり?)ハルちゃんに嫉妬していた。
ハルちゃんの話をされるたびに、ちょっとムキになったり、話を逸らしたりした。
私はやっぱりユリさんの1番でありたい。
ハルちゃんに負けたくはなかった。
そんなある日の休日、ユリさんに呼び出されてドライブをしていたときのこと。
日も暮れて暗くなってきた頃に、ユリさんが、
「ちょっと人を乗っけてもいいですか?」
と言い出した。
『え、誰??』
と聞くと、なんとあのハルちゃんだという。
なにやらハルちゃんから借りていたものを返すついでに、ハルちゃんを近くまで送り届ける約束をしたという。
なんで私がいるときなんだと思ったけど、仕方ないのでしぶしぶ了承した。
しばらくすると、車は閑静な住宅街にあるアパートの前で止まった。
すると暗闇の中からこちらに歩いてくる人影が。
『あれがハルちゃん?』
と聞くと、
「あ、そうです。」
とユリさんは言って、ハルちゃんに向けて手を振った。
てか、ハルちゃん・・・。
めっちゃカッコイイんですけど!!
身長が高くて細身。
髪は短くて顔も小さい。
フットサル用のトレーニングウェアのようなものを着ていて、いかにもスポーツできます!って感じの、ボーイッシュな人だった。
ハルちゃんが近づいてくるとユリさんは車の窓を開けて、ハルちゃんに
「後ろでいい?」
と訊いていた。
そのときに助手席にいる私に気づいたハルちゃん。
「あ、どうも」という感じで私に頭を下げたので、私もペコっと頭を下げた。
そして後ろに乗り込むハルちゃん。
とりあえず何か言わなきゃと思って、私の方から
『こんばんは~』
と声をかけた。
するとハルちゃんも、少し気まずそうに笑いながらも
「こんばんは。」
と応えてくれた。
そしたらユリさんが、車を走らせながら
「こちら、ハルちゃんです。」
と、私にハルちゃんを紹介してくれた。
そして、
「こちらは木下さん。会社の先輩。」
と、私のことをハルちゃんに紹介した。
私は改めてハルちゃんに「ども」と頭を下げ
『ユリさんから話はよく聞いてますよ。』
と言ってみた。
するとハルちゃんは「あ~」と、また気まずそうに笑った。
するとそこで会話が途切れ、シーンとなる車内。
いや、気まずい!気まずいぞ!
なんだこの空気は?!
と、ひとり焦る私。
私の勘違いかもしれないけど、ハルちゃんなんだかご機嫌ななめ?
それともただの人見知り?
それともそういうタイプの人?
よくわからないけどユリさんもハルちゃんも全然喋らないし、すんごく気まずかった。
とりあえず、この気まずい空気をどうにかしたかった私は、
『ハルちゃんって、かっこいいね~』
と持ち上げてみた。
『なんかすんごいスタイルいいしさ~、フットサルも上手そうだし、うらやましいな~』
とか言ってみた。
それでもハルちゃんはあいかわらず、「ハハ・・」と気まずそうに笑うだけ。
近場なはずの目的地がずいぶんと遠くに感じた(笑)
それから10分ぐらいたってから、ようやく目的に到着した。
「じゃあ、また」と言って車を降りるハルちゃん。
私も一応、笑顔で手を振り、ハルちゃんを見送った。
そしてすぐさまユリさんに
『いや、気まずすぎるんですけど』
と愚痴る。
『ハルちゃんもなんか嫌そうだったしさ~』
と言うと、ユリさんは
「いや、いつもあんな感じですよ?」
と笑っていた。
でも実はこのとき、私は直観的に
ユリさんとハルちゃんの間には何かある!
と感じていた。
ただの友達とか、先輩後輩とかそういう仲ではないんじゃないか。
そんなことを考えていた。
だってハルちゃんは女だけどめちゃくちゃイケメンだし・・・。
ユリさんもなんだかいつもよりおとなしいし・・・。
なによりも、ふたりの空気感がなんだかおかしい。
そんな風に感じていた。
もしかしたら私の嫉妬心からそういう風に見えてただけかもしれないけど、私は人間観察が得意な人間なので、意外とそういう直感は当たってしまう。
実際にユリさんは、ある時期を境にぱったりとハルちゃんの話をしなくなった。
でも結局、ふたりがどんな関係だったのかは未だに分からない。
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ドキドキが聞こえてしまう!!
結局、二次会でもユリさんとはほとんど話せなかった。
ユリさんと一緒に飲めることを楽しみにしていたんだけどなぁ~
と少し落ち込んでいると、ユリさんの同僚のエミちゃんが私たちの席にやってきた。
「木下さ~ん!○○で三次会あるらしいんで行きましょ~!」
あからさまに酔っ払っている感じのエミちゃんが、私の腕をとりながらそう言った。
すると後ろからユリさんもやってきて
「いぇ~い!」
と、持っていたワイングラスを突き出してきた。
ん‥?
ユリさん、酔っ払ってる?
と、少し驚いていると私と同じ席に座っていた男性社員たちが
「いぇ~い!!行こ―!!」
と盛り上がる。
もうみんないい感じに酔っていてテンションが高い。
もちろんユリさんが行くなら私も行く!!
ということで私もグラスを突き上げ
『よしゃ!行こ―!!』
と高らかに声を張り上げた。
それからみんなでワイワイと歩きながら三次会の店まで移動した。
その間もユリさんが気になったけど、ユリさんは私の後ろで営業部のエース桃田さんと親し気に話ながら歩いている。
私はエミちゃんに腕を引っ張られながらなすがまま(笑)
後ろのふたりの会話が気になりながらも、そうこうしているうちに店に到着した。
三次会の会場は、割と広めなミュージックバーだった。
社員の知り合いが経営しているバーで、この日は貸し切りにしてくれていたそうだ。
ドアを開けると中はすでに騒がしい。
空いている席を探しているとテーブル席に座っていた先輩社員が
「こっち座りなよ~」
と声をかけてくれて、一緒に座らせてもらうことに。
でもふと気づくとユリさんは、桃田さんと別の席へ。
(えぇ~、ユリさ~~~ん(ノД`)・゜・。)
と思いながらも、自分から声をかけることができない私。
先輩たちにもせっかく声をかけてもらったので、とりあえずはこの席でしばらく呑むことにした。
それからしばらくたった頃。
お手洗いに行った帰りに、ベンチソファーに座っていた桃田さんに声をかけられた。
「お~、木下さ~ん」
と、ニッコリ笑う桃田さん。
(あれ?ユリさんは一緒じゃないのか?)
と思いながら、私はソファに腰かけ桃田さんと話をすることにした。
桃田さんは私より2つ年上の営業部のエース。
仕事はできるし、優しいし、ノリもいい。
細身で身長も高く、いかにもデキる男といった感じ。
こうやって話していても、桃田さんは聞き上手だからついつい喋ってしまう。
もしもユリさんが桃田さんのことが好きだといっても、桃田さんなら応援したい。
そう思えるほど、桃田さんはいい男なのだ。
するとそのとき、ふと背中に気配を感じ、誰かが私の隣に座ったのを感じた。
私は桃田さんに体を向けた状態で喋っていたので、誰が座ったのか分からなかったのだけど、おしゃべりに夢中になっていた私は気にせず喋りまくっていた。
でも次の瞬間、その誰かが私の背中に頭をトンッと預けてもたれかかってきた。
(ん?誰だ?)
と思って振り返ると・・・
ユリさんやないか――――――い!!!
すごく酔っ払っている感じのユリさんが、私の背中にもたれながら目をつむっている。
その姿がかわいすぎて、私の体が一気に熱くなる。
ドキドキと心臓が速くなり、
(ヤバい!ユリさんにドキドキしてるのがバレてしまう!!)
と内心焦っていると、桃田さんがユリさんの顔を覗き込みながら
「お~い、大丈夫かぁ?」
と笑った。
私もドキドキを必死に抑えながら
『ユリさん、飲み過ぎ~(笑)』
と、いたって普通に声をかけると、ユリさんはむくっと起きて、今度は私のひざの上に頭をのけってきた。
そして再び目を閉じるユリさん。
私はそっとユリさんの頭をなでながら
「大丈夫?」
と声をかける。
ユリさんは返事もせず眠ったまま。
(ユリさんでもこんな酔っ払うことあるんだ~)
と思いながら顔を覗き込むと、ユリさん家にお泊りした朝のことを思い出して胸が締め付けられた。
そしてその後、ユリさんは家が同じ方向のエミちゃんと一緒にタクシーに乗って帰宅した。
結局あまり話はできなかったけど、最後の最後にユリさんにドキドキとさせられ、それだけでもなんだか幸せな気持ちになった。
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二次会
二次会はホテルから車で数分のところにあるダイニングバーで開催された。
ここには役員たちは来ないので、みんなのびのびと飲んでいる(笑)
ビンゴゲームや余興など、ホテルとは打って変わって楽しい雰囲気だった。
私もゲームに参加したり、久しぶりに会った同期や先輩たちと話が盛り上がり、テンションは高めだった。
お酒も結構飲んで、いい感じに酔いが回っていたと思う。
ガハガハと笑いながらふと顔を上げると、ワイングラスを持ったユリさんがこちらに歩いてきた。
ユリさんと目が合った瞬間、私は思わず
『ユリさ~ん!』
と手を伸ばした。
するとユリさんはニコニコと笑いながら、私の手を握ってくれた。
ユリさんの細くてキレイな手。
指を絡ませながら
『飲んでる~?』
と聞くと、ユリさんはまたニッコリと笑った。
私の隣に座っていた先輩(男)も、
「ユリさんこっちで飲もうよ~!!」
と言っていたけど、ユリさんは軽く頭を下げて行ってしまった。
その瞬間、心の中では
(ユリさ~~~~ん(ノД`)・゜・。)
と泣きがらも、ユリさんを追いかけることはしなかった。
でも、後々思ったけど、ユリさんへの好意がバレるんじゃないかと思うぐらい、ユリさんの手を握りまくってしまった(しかも結構長い時間(;´∀`))。
まぁ女同士の場合、こういう絡みはよくあることだけど、分かる人は分かると思う(笑)
だって思いっきり指を絡めながら、ユリさんをうっとりした目で見つめてしまってたから(目が座ってたともいえるけど(笑))
とりあえず誰も何も言ってこなかったけど、私はひとり(やばっ!)と焦ってた。
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忘年会
ユリさんと仲良くなって数ヶ月後の年末。
全社員、そして役員たちも参加する会社の忘年会があった。
会場となるホテルに到着すると、すでに多くの社員でにぎわっていた。
この日はみんなフォーマルな装いで華やかな雰囲気。
この日で仕事納めということもあり、みんなテンションも高めだ。
会場内は立食スタイルで、壁際にはおいしそうなごちそうがずらっと並んでいる。
すれ違う社員たちとあいさつを交わしながら奥に入っていくと、同じ部署の先輩が「こっちこっち」と手招きしてくれた。
そしてさっそくビールで乾杯。
先輩たちのおもしろトークで盛り上がっていると、少し離れたところにユリさんの姿が見えた。
黒のドレスに、髪は編み込みのアップスタイル。
本当にどこぞの女優さんかと思うくらい、ユリさんは品があって美しい。
同僚たちと楽しそうに話しているユリさんを横目に、私はグラスに残っていたビールをグイっと飲みほした。
しばらくすると役員たちが到着し、ステージでは社長挨拶やら優秀社員の表彰やら、お決まりのプログラムが進んでいく。
お酒好きな上司や先輩たちも役員の前ではおとなしい(笑)
正直、私はこういうお堅いやつはあまり好きではないので、 心の中では
(早く終わらないかな~)
とか思っていた。
そしてようやく堅苦しい挨拶も終わり、歓談タイムに入った。
おいしい料理にお酒も進む♡
ユリさんと話したかったけど、ユリさんは遠くのテーブルで同じ部署の人たちと談笑している。
でもまぁ、夜はこれからだ。
この会社の忘年会は、ほとんどの社員が二次会まで参加する。
そこでユリさんとも飲めればな~と期待した。
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叶わない恋
ユリさんとふたりで出かけるとき、たいていはユリさんが車を出してくれた。
私も車はもっているのだけど、タバコ臭いとのことでユリさんに嫌がられてしまい、それ以来いつもユリさんが車を出してくれる(当時は喫煙者でした(;´∀`))
そんなユリさんの車でよく流れていた曲がある。
ユリさんが好きだといっていたこの曲。
有名な曲なので耳にしたことはあったけど、よくよく聴くと歌詞が切ない!!
むしろ私のためにつくられた歌なの?!
と思うほど歌詞が私の気持ちにどんぴしゃだった。
このまま 忘れられなくて
閉じ込めては いられなくて
踏み込んじゃいけないと わかってても
この気持ち どうしても gotta let you know
あつく 激しく 動く時間の中で
欲しいよ 君の heart,boy…一瞬でも
叶わない恋におぼれても このまま
夢から覚めたくないcan't let go
ワガママでもいい 揺るがない愛がここに欲しいよ
でもユリさん・・・
ユリさんはなんでこの曲が好きなの?
もしかして叶わない恋をしているの?
そう考えると、余計に切ない気持ちになった。
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第一印象
初デートをきっかけに、私たちは頻繁に会うようになった。
たいていはユリさんから、
「ひまぁ~、どっか行こう~」
というようなLINEがきて遊びに行くのだけど、暇なときに私を思い出してくれることがすごく嬉しかった。
あとは仕事終わりにも、たまに私のデスクまできて
「今日ごはん行きません?」
とか言ってくる。
しかもそれをすこし恥ずかしそうにというか、照れ臭そうな感じで言ってくる姿がめちゃくちゃかわいい(T^T)
『いいよ~』
と返事をすると
「じゃあ、あとでまたLINEしますね」
と去っていくユリさん。
その背中が愛しすぎて、仕事どころではなくなる(笑)
そんなある日、ふたりでドライブをしているときに、ユリさんにこんなことを言われた。
「木下さんって、もっと怖い人かと思ってました」
『え!なんでなんで?』
「受付してた頃、木下さんいつも怖い顔で入ってくるから」
たしかに・・・私は真顔が怖いとよく言われる(-_-;)
あの頃はユリさんのことをまったく意識していなかったから、自分がどんな顔をしているかなんて気にもしてなかった。
『えー、私そんな怖い顔してた?』
「してましたよ~、いつも無表情でツカツカツカー!って通り過ぎていくし」
いや、だいぶ印象悪いね(^^;
「でも異動になって初めて木下さんと喋ったときに、あ、この人笑うんだって思いました(笑)」
私もユリさんはもっとクールで大人っぽい人だと思ってたけど、実際はめちゃくちゃよくしゃべるし、少し子どもっぽくてかわいいところもある。
もしもユリさんが異動になっていなかったら、きっとこんな顔を見ることもなかったかもしれない。
そう考えると、あの日の人事異動がとても運命的なものに感じた(笑)
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夜のドライブ
ショッピングモールを出てから、車はあてもなく走り出した。
ユリさんもまだ私といたいって思ってくれているのかな?
それともただの暇つぶし?
そんなことを考えながら、私は窓の外の景色を眺めていた。
だんだんとオレンジ色に染まる空。
紫がかった雲とのグラデーションがきれいで、思わず見入る。
いつもならイライラする渋滞も、この日ばかりは気にならない。
(むしろユリさんといれる時間が長くなるので嬉しい)
ユリさんとの会話も弾み、最初は緊張していた車内も、いつの間にか居心地のいい空間になっていた。
それからしばらくすると、車は海岸沿いに到着した。
日はもうほとんど沈んでいて、向こう岸に見える夜景がキラキラと輝いている。
「ここ結構好きなんですよね~」
ユリさんはそう言いながら、車を寄せてエンジンを止めた。
窓を開けると、波の音とともに、潮風がふわーっと入ってきた。
周りにはカップルらしき男女の姿がちらほら。
(いや、おもいっきしデートスポットじゃん!)
そう思いながら、なんだかドキドキする私。
あまりにもいい雰囲気に思わずユリさんの手を握りたくなったけど、そんな度胸もないから自分の手を握る(笑)
胸がギューっと締め付けられるのを感じながら、目の前の景色を眺めていた。
それから私たちは、しばらくおしゃべりを楽しんだ。
きれいな景色と、心地いい波の音、そしてとなりにはクスクスと笑ってるユリさん。
たまに目が合ったときのユリさんの表情がかわいすぎて、何度も胸がキュンとなる。
(もしかしてユリさんも私のこと・・・)
そう思うこともあったけど、それは勘違いだと自分に言い聞かせた。
そして夜もだんだんと更けてきた頃、
「そろそろ帰りましょうか」
とユリさんが言った。
(いやだ!まだ帰りたくない!)
そう心の中で叫んだけど、ユリさんには届かない。
エンジンがかかりゆっくりと動き出す車。
そうやってユリさんとの初デートは終わった。
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