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― 隔離の箱 ―

2022/05/12
文字数:約586文字

8【隔離の箱】

チクッと何かがさす痛みが指先に走った。
指を見ても何もないように見えた。
じーーーと見つめる。
細く赤い線がひかれるのが見えた。

「かまいたちだ」

次は頭がジンジン痛む。
「何バカな事言ってるの? 単に紙で切っただけ」
声だけが部屋に響く。
「妖怪……頭を叩く妖怪って何?」
「知らない」
僕は彼女を知らない。いや、女だろうというのも僕の勝手な判断だ。

バンエイドを指に巻く。
「家?」
声が僕に問う。
「そうだよ」
紙で作った家に屋根を乗せる。
閉じてしまおうかとも思ったが、閉じたら中が見えない。だから、ただかぶせるだけにした。
「よく出来てる」
「うん。暇だから」
ここには時間がない。あるのは家と音声ガイド。
そして、空間転移で運ばれて来るモノたち。
僕はここがどこなのかも知らない。

「ねぇ。僕はいつ出られるの?」
「病気が治ったらね」

どちらの?と聞きたくなる。
病気なのは本当に向こう側なのか。僕が病気だから隔離されているのではないか。
「夜更かしもほどほどにね」
「ここには夜はないんだ」
眠そうなあくびが聞こえた。
窓には一応、昼と夜の時間の映像が流れている。
けれど、その先は闇だ。真っすぐ歩いて、この家に戻ってくる。
闇の中で方向感覚が狂うせいなのか、何かからくりがあるのか判らない。
「そうね。でも、私は寝るわ」

通信が切られる音がする。
闇に向かって歩き出す。
ぐるりと回って家に戻る。
何も変わらない日々がまた続く。




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