かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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少女漫画としての『日出処の天子』、など…

 

日出処の天子 全7巻 (漫画文庫)

日出処の天子 全7巻 (漫画文庫)

 

先日の友人との読書会で『日出処の天子』を読みました。聖徳太子が超能力を持ち、同性への愛に煩悶するという設定で、一世を風靡した作品です。

いくつかの点でやはり少女漫画的な要素が強いね、との意見が多く出ました。まず基本的に、厩戸と毛人の恋愛物語が主軸であり、厩戸が政治の舞台の中で何を目指したのかは(断片的には述べられるものの)整合的に読み取れませんでした。どうしても私は史実との比較対照という関心で読み進めてしまいましたので、恋愛という話の幹はありながらも、そこに絡まって進む政治史の蔓はプツプツと断線しているような印象が強かったです。ですので、本編では摂政としての聖徳太子の事績にはほぼ触れずに終わっていま須賀、恐らくそれを恋愛物語の「支線」として描くことは難しかったでしょうし、作者にもその意図はなかったように思えます。

加えて、厩戸と母の関係が「勉強の出来る娘と母の微妙な関係」を表現しているとの指摘もありました。厩戸を敬遠するような言動や、父(母にとっての夫)の死の際のやり取りは、少女漫画にしばしば見られる母娘の軋轢に当てはめて考えられます。こうした点から、少女漫画としてこの作品を論ずる参加者が多かったです。

雪の峠・剣の舞 (KCデラックス)

雪の峠・剣の舞 (KCデラックス)

  • 作者:岩明 均
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2001/03/21
  • メディア: コミック
 

もう一冊の題材はこちらでした。関ヶ原での敗戦のショックの中にある佐竹家の中で、若い世代がベテランたちから主導権を奪っていく「社内政治」的な過程に関心が集まり、「日出処の天子」との関心の違いが印象的でした。個人的には、家臣団の世代間対立を経て滅亡に至った甲斐武田家との対照を思わざるを得ませんでした。

 

さて、最後に「日出処の天子」の副読本として読んだ歴史書を簡単にご紹介します。

聖徳太子: 実像と伝説の間

聖徳太子: 実像と伝説の間

  • 作者:石井 公成
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2016/01/21
  • メディア: 単行本
 

歴史上の人物としての聖徳太子、および日本史における聖徳太子像の変遷を描いているのはこちらの本です。

太子像としては、「天皇を殺した蘇我馬子と組んだ」という水戸学の批判はあったものの、戦時中・戦後とそれぞれの理由づけによって敬われたこと、ただ戦後はその事績について制限的に捉えようとする潮流もあり、その極致として「聖徳太子はいなかった」説が論争を呼んだこと、また、太子自身を悩める存在として描く議論も現れたこと*1、などがポイントでしょうか。

聖徳太子の生涯についても、寺院の瓦や仏像のパターン、漢文の誤用の仕方などから実証的に迫っています。曰く、聡明で仏教をよく学んだのは事実のようで、多くの部民や土地を手に入れて寺院の建立を進め、馬子と協調して政治に参画したものの、後年については分からないことが多いのだそうです。 作者も述べていましたが、かなり歴史上の出来事は踏まえながら描かれたマンガだったのだなと感じさせられました。

蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)

蘇我氏 ― 古代豪族の興亡 (中公新書)

 

こちらはどちらかというと、大化改新後の蘇我一族の消長を追った本です。いわゆる大化改新で滅んだのは蝦夷・入鹿の本宗家であり、内部対立などを経るまでは、朝廷内で強い影響力を持ち続けたとしています。また、藤原不比等蘇我氏の女性を娶ったことは、その後「蘇我氏的なもの」として藤原氏が振る舞う上で重要な意味を持ったとの指摘は興味深かったです。

 

読書会では、2冊の本をお題にしてその対照性や類似性を楽しむことをコンセプトにしているので須賀、例えばこの『聖徳太子』が2冊目であれば違った議論になったわけで、その辺のバランスが面白いというか、センスを問われる部分なのでしょう。

 

 

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*1:日出処の天子」はこの流れにあるということでしょう