リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

トンだボーズ

2018-11-25 06:08:00 | オヤジの日記

今週の金曜日、大学時代、2学年下だったカネコからLINEが来た。

「話したいことがあるのだが、時間は取れるか」

とれない、あばよ〜〜(豚がバイバイしているスタンプ)

 

今度は、LINE電話が来た。

「俺が国立に行く。1時間でいいから頼む」

頼まれる。国立駅南口から213メートルのところにあるロイヤルホストで2時に集合。1時間だけ時間をくれてやるのだから、おまえの奢りでいいな。

「もちろん」

 

このロイヤルホストは、月に一回、カネコの娘・ショウコが二人のガキを連れてやってきて、強制的に私に昼メシを奢らせるところだ。

人呼んで「ガイコツいじめのショウコ」。とても可愛い娘だ。

この日は、その仇をとってやろうかと私は目論んだ。店のメニューを片っ端から平らげてやろうと思ったのだ。

 

ここで補足説明。

カネコは、私が大学3年の時、新人として私が所属する陸上部に入ってきた。800メートルと1500メートルが専門の線の細い男だった。

カネコは体型が細いだけでなく、心の線も細かった。結局、陸上部になじめず、半年足らずで部をやめた。

才能があるのに、惜しいなと思った。

カネコのことが気になった私は、キャンパスで彼を見かけると必ず声をかけた。最初の頃は、反応の薄かったカネコだが、1年の後期終わりには、学食でメシ食おうぜ、と誘うとついてくるようになった。

そして、陸上部の仲間との飲み会にも、誘えば2回に1回はついてくるようになった。一番端っこで、黙って飲むだけだったが、内気なカネコとしては大きな進歩だった。

おまえは、未成年者に酒を飲ませたのか、というご批判には、私は左耳を手で覆うことで答えることにする。

 

そんな気持ち悪い付き合いが、それからのち1年間続いた。

私は、他の大学のことは知らないのだが、私が通っていた大学では、規定の単位を取得すると卒業できるシステムになっていた。

私は、不覚にも取得してしまったので、大学を追い出されることになった。

卒業式の前の日。カネコから電話があった。

「マツさん、卒業おめでとうございます」

それから、沈黙が続いた。面白いので、何も言わずに放っておいた。

沈黙。おそらく1分6秒くらいだっただろうか。でかく息を吸う音のあとに、カネコの叫び声が、私の耳の鼓膜を震わせた。

「卒業しても、会いたい!」

とんだ愛の告白だ。言う相手を間違えているんじゃないか。

こんなワタクシで、よろしいのかしら?

「ボクは、真面目です!」

このときまで、カネコは冗談の通じない、つまらない男だった。

 

しかし、時は流れて、いま目の前にいるカネコは・・・・・。

芋洗坂係長に似た滑稽な男に変身していた。

初めて見たときは、173センチ、60キロのアスリート体型だった。それがいま、100キロ弱の家畜体型になっていた。

私は、他の大学のことは知らないのだが、私が通っていた大学では、規定の単位を取得すると卒業できるシステムになっていた。

カネコも、その結果、大学を追い出された。そして、中堅の住宅設備会社に就職した。

就職というのは、内気なカネコに、相当な試練とストレスを与えたようだ。カネコは、仕事帰りに食い物を大量に口に入れることで、自分の心をコントロールすることを覚えた。だが、体型だけはコントロールできなかった。

ほとんどの人は、食べれば太る体質を持っていた。カネコは、3年間で25キロの肉を体に巻きつけた。85キロになったのだ。逆RIZAP状態だ。

 

話は遡って、私が大学を卒業して2ヶ月経った頃、カネコと酒を飲んだ。そのとき、私はカネコに言った。

俺は、先輩風を吹かすのが好きじゃないんだ。俺は、おまえより2年早く産まれただけだ。たいした違いはない。だから、友だちとして付き合おうぜ。「マツ」って呼んでいいから。

カネコは、最初のうちは遠慮して、私のことをいままで通り「マツさん」と呼んだ。しかし、25キロの肉を巻きつけてからは、少しづつ態度が変わってきた。

「俺は、85キロ。こいつは58キロ。こんな貧弱な男より、俺の方が上等なんじゃないか」

カネコが、そう思ったのかどうかはわからない。

しかし、デブになってから、あきらかにカネコの私に対する態度が段階的に変わってきた。

「マツさん」から「マツ」、そして「おまえ」に。

カネコが、30を超える頃には、もう2歳差など無いに等しかった。むしろ、私の方が負けていると言ってよかった。

カネコは、内気を克服したのだ。よかったね!(怒り)

 

その後、カネコは35歳で結婚した。この結婚には、数々の偶然のロマンスがあったのだが、豚のロマンスを書いても美しくないので、当然ながら割愛する。

この結婚で、カネコは最初から6歳の娘を手に入れた。

ショウコだった。

ハッキリと物を言い、頭の回転が早く、とても母親思いの大人びた子だった。

結婚披露宴で、初めて私の顔を見たショウコは、「おじさん、ビョーキ? やせすぎじゃない?」と容赦のない声を私に浴びせかけた。

この日のご馳走のために、昨日の朝から何も食べていないんだ。

「ハハハハ、バーカ」

 

その披露宴で、ショウコは、私の膝に座りっぱなしだった。ずっと座りっぱなしだったから、スピーチもショウコを膝の上に乗せてやった。

ショウコとの出会いは、そんな感じだった。

ショウコとは、それからのちも、それなりに濃密な時間を過ごしていたが、この回は、それがメインではないので、以下省略。

 

目の前の芋洗坂係長(私は密かに『紅の豚』と呼んでいた。サングラスをかけるとソックリになるので)は、サーロインステーキとライスセットを頼んだ。

私は、生ハムとソーセージグリル、一番搾りを頼んだ。お代わりするのが面倒くさいので、いっぺんに三杯頼んだ。

一杯目を飲み干したあと、紅の豚に私は言った。

話ってなんだ。

紅の豚は、あっという間にサーロインの半分を胃に収め、ライスも収めて、ライスのお代わりをした。心なしか、ブヒブヒという声が聞こえたような・・・。

豚がライスを頬張りながら言った。

「女房と喧嘩したんだブヒブヒ。もう四日間、口をきいてくれないんだブヒブヒ」

「仲直りの方法を教えてくれないかブヒブヒ」

 

普通の人だったら、喧嘩の理由を聞くところだろうが、私は、そんな面倒くさいことはしない。

よその夫婦喧嘩の理由になんか、興味がない。そもそも紅の豚の夫婦関係が仮面だったとしても、世の中の大勢には何の影響もない。そのままで、いいのではないか。

だが、そんな心とは裏腹に、私はカネコに親切心を出した。

おまえのうちは、犬を飼っていたよな。たしか、コーギーだ。

「ああ、昨年の暮れに死んでしまったが」

奥さんは気落ちしたろ。

「声もかけられない状態だった。そのせいで、正月は暗かったな」

奥さんは、今もボランティアに行っているのか。

カネコの奥さんは、災害の大小に関わらず、困った状況の人がいたら、お友だちを募って四駆で駆けつけた。

そして、普段はご近所の一人暮らしのご老人たちの様子を見に、頻繁に動き回っていた。

ボランティア精神あふれた人なのだ。まあ、カネコと結婚したこと自体が、ある意味ボランティアではあるが。

 

私は3杯目の一番搾りを飲み干したあとで、カネコに向かって空のグラスを振った。

カネコは、まるで豚のように短い指で、3を表現した。器用な豚だ。

3杯の一番搾りが目の前に並んだのを確かめた私は、カネコに言った。

奥さんとふたりで、保護犬を飼うってのは、どうだい。ふたり協力して、不幸だった犬の面倒を見る。夫婦の絆が深まるとは思わないかい?

これは、最近、極道コピーライターのススキダが、保護猫を飼い始めたのをヒントに、適当に言ったことだった。

私は、一部の中国人のように、他人のものをパクることを何とも思わない恥知らずだ。パクリは文化だ。

私のいい加減な提案に、カネコは小さい目をパチパチさせて、興味を示した。そして、ライスのお代わりをまた頼んだ。

それから、鼻息をブヒブヒと吐き出した。

「いいな、それ。まさしく、女房好みのブヒブヒじゃないか」

そうだな、ブヒブヒだな。

 

3杯目のライスを食い終わったあとで、カネコが突然バッグから包みを取り出した。

「おまえ、誕生日が近かったよな。もらいもので悪いが、これ受け取ってくれないか。BOSEのヘッドフォンだ。おまえ、音楽好きだったろ」

(ため息をつきながら)カネコ、おまえ、俺にまったく興味がないだろ。

「どういう意味だ?」

覚えてないのか。俺は、右耳が聞こえないんだ。だから、25年間ヘッドフォンを使ったことがない。右側の音が聞こえなかったら、音を楽しく聞けないからな。

目の前の紅の豚の口が大きく空いた。そして、その口がパクパクと動いた。おお! これが噂に聞く「紅の豚金魚」か。額から汗が急速に吹き出してきたぞ。

「とっぱつせいなんちよ〜〜」

紅の豚が、汗を手の甲で拭きながら、頭髪の薄くなった頭を下げた。

「すまん、本当にすまん、うっかり忘れていた。それは、取り下げる。何か欲しいものはあるか? 何でも言ってくれ、すぐに買うから」

では、そのヘッドフォンをくれ。

「はあ?」

俺の娘が、昔からそのヘッドフォンを欲しがっていた。しかし、高くて手が届かなかったんだ。絶対に娘が喜ぶから、くれ。

「ああ、いいぞ、もらってくれ」(紅の豚が嬉々)

 

誕生日  BOSEもらって  まるもうけ     高浜キョンシー

 

その日の夜8時前に、カネコからLINE電話があった。

「女房と仲直りした。保護犬の話は効果絶大だったな。ものすごい乗り気だった。前のめりすぎて、ブレーキをかけるのが大変だったよ。しかし、助かった。本当に、ありがとう。礼をしたいんだが、何がいい?」

 

今年の暮れ12月30日に、娘が正月休みで東京に帰ってくるんだ。ものすごく米が好きな娘でな。おいしい米を食わせてあげたいんだ。年の瀬で悪いが、お願いできないか。

「年末年始は、予定がないから構わない。米のうまい店だな。任せてくれ」

 

しかし、そのあとで、カネコが「うーーーーーーん」と唸った。

「あれ? おまえの娘、東京の鉄道会社に勤めているって言っていなかったか」

 

電話を切った。 

 

 

 

はっぴばーすでー  じぶん〜  🎶

 


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
薄い字で(笑) (結羽)
2018-11-25 09:43:43
matsuさま

もしかしてお誕生日?

うっす~い字で書いてある(笑)

happy birthday matsuさん✨
うっすくて恥ずかしい (matsu1217)
2018-11-26 05:06:09
柚木結羽 様

ありがとうございます。

薄い人生なので 薄くしてみました。

体も薄いですが。

薄々気づいてましたか?
友情 (浅葉@Webで売れるコピーライティングの基礎講座)
2018-12-01 13:22:56
こんにちは浅葉といいます。
カネコさんとの友情。
お互い変わってもいいものですね。
応援クリックしました。
ありがとう (matsu1217)
2018-12-02 05:32:54
浅葉 様

ありがとうございます。

駄文ですが、友情を感じていただけたら、これ以上の喜びはありません。

これからも よろしくお願いいたします。

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