リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

私の変態な夏

2019-08-18 06:02:00 | オヤジの日記

9回目の墓参り。

多磨霊園。

嵐の中の墓参りになるかと思ったが、雨は降らず風だけだった。きっと誰かの行いが良かったからだ。

 

大学時代の同級生・長谷川と長谷川の妹の養女と私の3人で行った。

1回目の墓参りは、私1人で行ったが、2回目からは長谷川の妹の養女・七恵と2人で行った。

長谷川と墓参りをするのは、今回が初めてだった。

なんでついてきたんだ、と聞くと、長谷川は「ひさしぶりにマツの顔が見たくなってな」という気持ちの悪いことを言った。

大学時代の友だちで、今も付き合いがあるのは、陸上部のやつが多い。陸上部以外では、仙台で学習塾を経営しているノナカとこの長谷川だけだ。

今もそうだが、長谷川はまともなことしか言わないつまらない男だった。口を開けば、いちいちごもっともな意見を垂れて、話をつまらなくするのだ。

だから、私は長谷川のことをいつも「きれいごとのシンちゃん」と呼んでいた。私が、皮肉を浴びせかけたり、少しブラックな冗談を言うと、長谷川は「さすがマツだな。皮肉や冗談にも愛があるな」と感心したように言うのだ。

お坊ちゃん長谷川。

長谷川と私の性格は、両極端と言っていいほど違うが、それが良かったのかもしれない。両極端の性格が、いい方に化学反応を起こしたのだと思う。その化学反応は、40年たった今も続いていた。

頻繁に会うことはないが、2年ぶりに会ったとしても、まるで、昨日も会ったような気分で話ができるのだ。それは、得難い関係だとは言えまいか。

 

長谷川は3年前まで、中堅商社の社長様をしていた。しかし、突然部下に社長の座を譲った。

「会社は、俺のものじゃないからな。世襲は、俺の代でおしまいだ」

ほかにも理由があった。長谷川が社長の座を降りたのは、奥さんに医師として復帰して欲しかったからだ。

長谷川の奥さんは、結婚後も出産後も病院の医師をしていたが、長谷川が社長を継ぐに当たって、長谷川のサポートに専念することを決めた。医師をやめたのだ。

長谷川は、そのことにずっと負い目を感じていた。

「だって、俺よりも妻の方が、確実に社会や人間の役に立つじゃないか。社長の代わりはいるが、医師は、数が多かったとしても、いて困るものじゃない。特に、有能な医師は、何人いたっていい」

さすが「きれいごとのシンちゃん」。あっぱれなりー。

 

リタイアした長谷川は、家事の真似事をするようになった。

掃除、洗濯、庭の手入れ、犬4人と猫ちゃん1人の世話、そして、奥さんの送り迎えをベンツという名のメルセデスで毎日しているのである。

長谷川は、料理が苦手なので、朝メシは奥さんが作ることになっていた。そして、昼間はカップ麺。元社長様が、昼メシ、カップ麺ですよ。落差が激しくないですかかー。

「だって、お湯を沸かしただけで、想像以上に美味いものが食えるんだぜ。これは、最高の発明だ。俺がノーベル賞の審査員なら、『麺で地球を救ったで賞』を絶対に贈呈する」

長谷川の冗談のセンスは、極めて低い。

私なら、「ウルトラマンはカップ麺を食いに地球に来たのに一生食えないで残念でショー」というアイスショーを横浜アリーナで開催する。

ほぼ同レベルのセンス。

 

ちなみに晩メシは、長谷川の豪邸に住み込み中の調理師免許を持った運転手さんが作っていた。長谷川は、奥さんを送り迎えするときしか運転はしないのだ。偉そうだな。元社長。

 

長谷川と七恵は、神妙な顔で手を合わせていた。私は、墓掃除人なので、手は合わせなかった。墓の掃除に専念した。罰当たりで、ごめんなさい。

 

話は急にM78星雲まで飛んで、七恵ほど私を雑に扱う女はいないということをアピールしたい。

この29歳で171センチの大型お転婆娘は、私のことを「マッチん」とか「ヒョロヒョロ」などと呼ぶのだ。

そのほかにも「その年で、こんなに貫禄のない男の人って珍しいよね」と言って褒めたりもする。

「身長180センチなかったら、ただのみすぼらしい男だもんね、ヒョロヒョロさんは」

ラーメンを一緒に食いに言って、私が餃子とラーメンとライスを食って大食いをアピールすると、「勿体ないなー、そんなに食べたって肉にはならないんだから無駄だよ」と一刀両断するのだ。

そして、私が油断をしているとボディにパンチが飛んでくるという悲劇もある。

 

俺をソンケーしろ! とにかくソンケーしろ!

 

そのお転婆娘が、長谷川邦子の墓の前で、私たちに言った。

「長谷川のおじさん、マッチん、絶対に死なないでね」珍しくメソメソしていた。

「私、義母さんを知っている人が、いなくなるのにはゼッタイに耐えられないから」長谷川と私の顔を交互に見た。目に水滴が盛り上がっていた。

苦手な展開になってきたので、私は「きれいごとのシンちゃん」に、この場を収束させようと考えた。こんなときこそ、長谷川の出番だ。

長谷川を見た。しかし、長谷川の野郎もメソメソしていやがった。この役立たず。強風にカツラだけ吹き飛ばされちまえ!

 

仕方ないので、私は七恵の両肩を掴んだ。そして、気の利いたことを言おうと思った。

そのとき、若い子の肩を掴むのは、何年ぶりだろう、などと思っていたら、頭にセクハラという言葉が浮かんだ。これって、セクハラ? 俺、やばいんじゃない。危険を感じた私は、咄嗟に両手を離した。

すると、今度は、七恵が私に抱きついてきたではないか。逆セクハラ? 墓場で、逆セクハラ。

いい匂いがした。とても気持ちがよかった。全身で満足した。若い人のエキスをいただいただいた。

いい墓参りだった。

 

土曜日、七恵は仙台に帰った。

長谷川と2人、見送りに行った。

新幹線の中で食うからと弁当を要求された。それは、いつものことなので、七恵の好きな「マッチん手作り鶏そぼろ弁当」を持たせた。

だが、手渡したすぐ後に、ボディにパンチが飛んできた。なんでー?

「どさくさに紛れて人を抱きしめやがって!」

え? 何を言う、ダルビッシュ有。田中将大。前田健太。

いいがかり、いきものがかりじゃないか。

 

まあ、拒みもせず、墓場で抱き返して「いい子いい子」と髪を撫でた私も悪いということに・・・しておいた方がいいか。

 

腹をさすりながら、前日のいい匂いと両手の感触を思い出しながら、新幹線に手を振った。

 

 

私は、この変態な夏を 一生忘れないだろう。

 

 

 


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2 コメント

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Unknown (こちウワ男)
2019-08-18 23:03:53
ほのぼの、ユーモア、テンポのいいお話、楽しませて頂きました。
Unknown (matsu1217)
2019-08-19 08:08:56
こちウワ男 様

ありがとうございます。

楽しんでいただけて幸いです。

これからもよろしくお願いします。

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