リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

夏の夜の怪談

2020-09-02 05:30:53 | オヤジの日記

夕方、ウォーキングの終わりに、私としては珍しいことに、国立駅前のスターバックスに寄った。
国立に越してから、スターバックスに入るのは3回目だ。国立に限らず、今はスターバックスなどのカフェに入ることは、滅多にない。
オジサンは恥ずかしいのですよ。あきらかに浮いているような気がして。オジサンは、365日お洒落な格好をしないので、気が引けます。

スターバックスのテラスは、空いていた。私は、壁側の4人席に席を取った。
飲むのは、ホットコーヒーだ。アイスコーヒーは飲まない。
昔、祖母から言われた言葉を私は忠実に守っていた。
「暑いときは、冷たいものを飲んだり食べたりしてはいけません。暑いときは、温かいものを食べなさい。人間は、本来冷たいものを摂り入れるようにはできていないんです。内臓を守りましょう」
だから私は、スイカや生のキュウリなどを食ったことがなかった。キュウリやトマト、レタスなどは、必ず熱を通したものを食わせられた。それが当たり前だと思っていた。
冷たいものは、内臓に悪い。その教えが染みついていた。
ただ、私は家族や人様にその考えを強いるつもりはない。スイカを食ってもいいし、かき氷もオーケーだ。
食い物にストイックになる必要はない。それは、私だけでいい。

テラスを見渡すと、殆どの人が、スマートフォンかノートパソコンに夢中だった。
私のスマートフォンには、メールソフトとLINE、ツィーター、ウェザーニュース、乗り換えナビ、JR東日本運行情報しか入っていない。ゲームはいれていない。暇のつぶしようがない。
だから、たたただボーッとしていた。

そんなとき、「相席いいですか」という声が上の方から聞こえた。見上げると体格のいい50歳くらいの男が立っていた。
いや、相席といっても他にいくらでも席は空いてますけど。
「久しぶりにお会いしたので、話がしたいと思いまして」
久しぶりに会った? 人違いではないですか。私の記憶では、あなたが抜け落ちています。人違いとしか思えないんですけど。

「お話しているうちに思い出すと思います」と言って、男は強引に私の向かいの席に座った。手にはアイスコーヒーを持っていた。
それを男は、一気に飲み干した。「暑がりなんで、夏は水分がないと。ちょっとすみません。もう一杯買ってきます」
後ろ姿もでかいな。身長は185センチ、体重は85キロと見た。もし男が本当に私の知り合いなら、知り合いの中では1番背が高いかもしれない。
男は、アイスコーヒーを持って戻ってきた。意外と動きが俊敏だった。スポーツ経験があるのかもしれない。
「今年の暑さはこたえますね、本当につらいです」と言って、またアイスコーヒーを一気に飲んだ。
本当に暑さに弱いようだ。額には大粒の汗。首筋にも汗がしたたっていた。
着ているものは、上が白黒のボーダーTシャツ、下は白黒のブチ柄の短パンだった。そのTシャツが汗でビショビショだった。滅多にいない大汗かきだ。
その男が、「4ヶ月前まで、よくお会いしていました」と言った。
4ヶ月前?最近のことだな。懸命に記憶をたどってみた。よくお会いしてました、と言ったな。そんな親しい関係の人を思い出せないわけがない。
頭が混乱した。
男は、自信満々だ。私の記憶が歪んだのだろうか。それともやはり人違いか。
男は、私の心を見透かしたように断定的に言った。
「人違いではありません。お世話になった人を僕は、絶対に忘れません。ここでお姿を見たときは泣きそうなほど感動しました。会えた、会えたと思って神に感謝しましたよ」

悪いけど、ヒントをもらえるかな。
「あなたの名前は、ホニャララ。仕事はデザイン。料理とランニングが好きですよね。好きな女優は、柴咲コウ」
当たっているがな。ますますわけがわからなくなってきた。
混乱の極みのとき、男が突然言った。
「お母さん、お兄さん、お姉さんは元気ですか。皆さんにもお会いしたかったです。でも、もうあまり時間がないので」
それを聞いて、私の頭に閃いたものがあった。頭に稲妻が走った。
だが、突拍子もない話だ。この話を他人が聞いたら、おまえ狂ったかと言われかねない。
しかし、意を決して聞いてみた。喉がゴクリと鳴った。
私は声をかすらせて聞いた。馬鹿げた話だが、いいだろうか。突拍子のない質問だ。
男は、余裕を顔に見せてうなずいた。

君はセキトリなのか。4ヶ月前まで我が家にいた愛猫セキトリなのか。

「やっと思い出してくれましたね。そうです、セキトリです。やっと会えました。本当は、新盆に帰ってくるつもりでしたが、あのときは猛暑で体がいうことをきかなくて、さっき戻ってきました」
もう一度よく男の顔を見てみた。体がでかいわりに小顔だった。髪の毛はフサフサ。だが、所々にセキトリのような模様の白髪が分散していた。
そうか、セキトリ、帰ってきてくれんだね。
しかし、猫ではなく人間の姿だね。そんなことってできるのかい。
「どんな姿にでもなれます。お父さんに会うなら、この格好がいいかなと思って」
そのあと名残惜しそうな顔で、セキトリが言った。
「あーっ、時間がありません。もう行かないと」
セキトリが立ち上った。
「最後に、これだけは言わせてください。お父さん、お母さん、お兄さん、お姉さん。大好きです。今も」
「また会いにきます。さようなら」

セキトリの体が、徐々に薄くなっていった。そして、すぐに消えた。
暗くなった空を見上げると、ハチワレの白黒ブチが空を飛んでいた。セキトリの体が、瞬く間に雲の中に見えなくなった。
セキトリ、会いにきてくれて、ありがとう。
また会いにきますと言ってくれたな。
いつでも待っているよ、セキトリ。
君の顔は覚えた。もう忘れないよ。
椅子を見ると、彼の座った跡に、猫の毛がまとまって残っていた。
私は、セキトリの残したその毛とコーヒーカップを持ち帰った。宝物が、また増えた。


夢のような時間だった。

実際に、これは夢だった。今朝見た夏の夜の夢だった。
 



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5 コメント

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怪談どころか (ままちゃん)
2020-09-02 07:08:03
松尾芭蕉並みの感傷を覚えました。
おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな です。意味は少々異なっても、です。
先日日本の姉夫婦の長い間可愛がっていた猫が老衰で逝ってしまいました。その姉たちの悲しみがマツさまの哀惜と重なります。夢にでも会いにきてくれる愛猫の健気さが心にしみます。
Unknown (オバンジーナ)
2020-09-02 07:54:17
やっと 会えましたね。😢
Unknown (サクラ母)
2020-09-02 08:22:00
いいですね
家のサクラも帰ってきてほしい
そんなこともあるのかしらんと期待しちゃいます
Unknown (みしがん)
2020-09-02 08:40:12
朝からフォロワーを泣かせるマツさん…。
現れた出で立ちが、さすが猫さん( ;∀;)
セキトリ (はな)
2020-09-02 10:12:44
こんにちわ 
国立に稀勢の里来るのかな,と思いましたが、
そうでしたか愛猫が夢にー、それも まいう のような姿でー、いいですね。
うちのはなは、18年いっしょに暮らしてもほとんど夢に出てこないのです、別嬪でも薄情モンです。

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