萌華(もか)の家まで行って折角行ったのに結局近所のカフェまで一緒に戻ってきた美咲。
歴史ある中山道沿線には紙やプラスチックではないちゃんとした容器で提供してくれるカフェチェーンが点在する。
ひとつは駐車場が肉臭いが銀座の老舗のカフェが展開するコーヒーショップだ。
しかし、ここは通過した。
その先にもう一つある。
これは筆頭株主が埼玉に通っていない私鉄が運営する元々はシャンソン喫茶から始まったものだ。
美咲はここに入ることにした。
コーヒーやフードの味は先に通過したお店の方が美味しい。
しかし、別のお店を選んだのには確固たる理由があった。
Wi-Fiである。
このお店のWi-Fiは接続が安定しているうえに時間制限もなくゆっくり使うことができる
萌華(もか)のためにゆっくりとコーデを練るのにうってつけである。
店内に入って右側にある一瞬喫煙席のように見える区切られたコーナーにあるテーブル席は会話をするのには最適だ。
「とりあえず何か頼もうか。萌華(もか)ちゃん、何か食べる」
「どれも美味しそうですけど・・・。なんか、ヤバいことになりそうで・・・」
「ヤバいことって」
美咲はあえてちょっと意地悪な質問をした。
「ヤバいことって何ダイエット中だから食べない」
「それもありますけど・・・」
「それもありますけど何」
美咲は答えを聞きたくて質問を続けた。
「多分、後でお腹がすごく苦しくなりそうです」
「だよね~。こういう時のコルセットってマジヤバいよね」
「えっ、美咲さんもそうなんですか」
「うん。そうだよ。特に小麦はヤバい」
天からのAbooの囁き
多分、一度挽いたり潰したりしてから加工した食品は、コルセットをした状態で食べると、「マジヤバい」世界に入ります。
特に、水分量が少ないもので、火を通すことでふっくらするようなものは「超絶マジヤバい」ことになります。
最初は案外食べても平気じゃんって気がするのですが、お腹の中で膨れ上がってきてエラいことになるんです。
もちろんコルセットを緩めればよいだけのことなのですが、ここでコルセットの締め上げ方が正しくないとコルセットが緩まなくて大変です。
背中で蝶結び派の人は引っ張る紐を間違えると固結びになって手探りで紐をほどかないといけないです。
絶対やってはいけないお腹で縛っている人の場合はどうなるかというと結び目がめちゃくちゃ固くなってしまいます。
お腹が膨れることで手では締められないほど強い圧力でお腹側に回した紐を引っ張ってしまうからです。
「よかった私だけじゃないんですね」
「阿部部長も言っていたから、多分、小麦でお腹が苦しくなるのは普通だと思うよ。じゃあ、飲み物だけ頼もうか。」
「はい。」
「何がいいかな~。私はブレンドコーヒーのLサイズにする。」
「じゃあ、私もそれで。」
美咲はピンポンを押した。
このお店は客席の死角が多いせいか、ファミレスにあるようなピンポンで店員さんを呼べる仕組みになっている。
美咲は注文し終わるとスマホを取り出してコーデを考え始めた。
画像投稿サイトとしてもよく使われるSNSでもよいのだが、いざ買おうと思ったときに商品のリンクがなくて残念なことになることも多いことから、すぐに購入ボタンを押せる楽天ROOMアプリを起動した。
天からのAbooの囁き
楽天ROOMアプリは自分で購入した商品の画像をアップしたり、お気に入りの商品を「コレ」ボタンでシェアしたりできます。
また、ROOM経由で誰かが購入してくれると楽天ポイントなどが貯まる仕組みになっています。
コルセットの場合は使用前、使用後画像を載せることでかなりのアクセスを稼ぐこともでき、貯まったポイントで実質0円になったり、人によっては利益が出ることもあります。
こういった仕組みの場合は、いわゆるインフルエンサーが稼ぎまくるイメージがありますが、楽天ROOMの特長として、購入した商品のオリジナル画像をアップすることで初心者でも案外簡単にアクセスを稼げることです。
さらに自分のSNSアカウントからリンクを貼っておくと一気に拡散し、お小遣い以上の稼ぎになることもあるようです。
さらに楽天カードのユーザーなら、一定以上のROOM経由での売り上げがあがることでクレジットカードで登録した口座に現金で入金されます。
楽天ROOMの面白いところはAIが自動判別してユーザーが好きそうな商品を無限に見せてくれるところだ。
美咲は萌華(もか)に画面に表示されたいろいろなコーデを見せ始めた。
「萌華(もか)ちゃん、こんなのはどう」
萌華(もか)は目を細くして画面に見入っている。
楽天ROOMに限ったことではないがこの手のサムネイル表示がたくさん流れるアプリの弱点は、サムネイルの状態だと画像が小さすぎてよくわからないことだ。
萌華(もか)はバッグからタブレット端末を取り出した。
テーブルに備え付けのWi-FiのSSIDとパスワードを見ながらWi-Fiにあっという間に接続した。
「へえ萌華(もか)ちゃんってこういうの上手だね。」
「そうですか2次元オタの腐女子なんで、こういうのは必須なだけですよ」
そう言いながら、楽天ROOMのインストールまでした。
萌華(もか)は自分の好きなアニメのグッズを買ったりするのに楽天市場のアカウントは持っていたがROOMの存在は知らなかった。
新規登録したての萌華(もか)の画面には雑多な商品が雑然と並んでいる。
「うわ~萌華(もか)ちゃんの画面大きくて見やすいね。」
「そうですか私はいつもこれ使っているんで、あまり感じないですけど」
「でも、こういうのって高いから私には買えないや」
「そんなことないですよ。スマホとセットにするとセット割引になるので、運がいいと本体タダゲットとかもできますよ」
「そうなんだ・・・。でも使わないかな~」
「そうかもしれないですね。二次元ヲタ的には別売りのペンシルを使うと絵を描いたりとかできるんで、かなり重宝するんですけどね」
そうか。
萌華(もか)ちゃんってやっぱりそっち系の人なのか・・・。
うちの会社って一応アパレル業界だから、ファッションとかに興味あるのがフツーと思っていたけど、萌華(もか)ちゃんは違うのかな
「ねえ、萌華(もか)ちゃんってどうしてうちの会社に入ったのファッションとか興味あったの」
「あの別にファッションに興味があったからではなくて、帰りに池袋とか寄れるんででも池袋で働くと、どっぷりオタクの道にはまっちゃいそうで怖くて、渋谷も考えたんですけど、私にはちょっと無理かなって、新宿はちょっと怖い感じがするし、それで恵比寿にある会社で事務職で入りたいなって思って」
「そうなんだ」
美咲はやっと萌華(もか)が他の人よりちょっとやぼったい感じがする理由が分かった気がした。
「で、萌華(もか)ちゃんはどんな感じのコーデにしたいの」
「それなんですよね。私が考えるといつもコスプレみたくなっちゃうんですよ。で、無難なの選ぶとなんかうまく行かないんですよね。デブスだからってのもあるかもしれないですけど・・・」
「別に萌華(もか)ちゃんデブスじゃないよ。ただ服の選び方をよくわかってないだけじゃないかな」
美咲の悪意のないグサッと刺さる一言がさく裂した。
「私ってやっぱりセンスがないんでしょうか」
「えっ、あ、そ、そうじゃなくて・・・」
うわ~。
またやっちゃったよ。
別に悪気があるわけじゃないんだけど、ついついやっちゃうんだよね。
気を付けなきゃ。
「多分、萌華(もか)ちゃんってあんまり、ファッションのものとか見ないからよくわからないんじゃないかな私だって逆にアニメのことだったら何にもわかんないし、萌華(もか)ちゃんみたいにタブレットとか使いこなせないよ。」
「美咲先生がそうおっしゃるなら。了解頑張ります」
萌華(もか)はびしっと敬礼をした。
美咲はあっけにとられた。
多分何かのアニメの影響だろう。
軽く流すことにした。
ROOMの画面をどんどんスクロールさせよさそうなものを探していく。
「萌華(もか)ちゃん、このジャケットなんかどうちょっと大人な感じのシルエットだけど、フリンジがついててなんか面白いよ。」
「あっ、はい。素敵ですね。でも・・・ちょっと違うかなぁ。」
「じゃあこっちのはどう」
「それもちょっと・・・。」
「う~ん。難しいなぁ。じゃあ、こっちのパンツは」
「そうですね。可愛いんですけど・・・。」
美咲は自分の趣味でガンガン萌華(もか)に推していった。
しかし、萌華(もか)は不服そうであった。
「そうね、萌華(もか)ちゃんってどういう系が好きなのかな」
「あっ、別にどういう系っていうのは拘ってないんですけど、私に似合うかどうかとサイズがあるか・・・
美咲は完全に萌華(もか)の体格のことを忘れ、自分の体型に合うものをみて、勧めていたのだ。
だから、いざ商品ページにリンクしくと、実は萌華(もか)の着られるサイズではないものも多かったのだ
「ごめん。そういうことか。」
「はい。これから痩せるつもりなので痩せる前提で買ってもいいですけど、それだと明日着ていける服がすでにないです」
「そっか、ごめん、ごめん」
美咲はこの時急に思いついた。
あるキーワードを入れて検索することだ。
それは、「大きいサイズ」だ。
楽天市場のお店の多くは自力で商品を選ぶか開発するかしている。
そのため、商品名に商品コンセプトが埋め込まれていることも多いのだ。
検索キーワードに「大きいサイズ」をいれて再度サムネイル一覧を表示させた。
ついでに「オリジナル画像」チェックボックスにチェックを入れて、購入者の撮影した画像に絞った。
萌華(もか)の目の色が変わった。
そういえばこの間萌華(もか)ちゃんは大きいサイズの店でしか買えないって言ってたな。
もう少し気遣ってあげないといけないな。
反省した美咲であった。
To Be Continued...
■登場人物紹介■
美咲
主人公28歳。独身。彼氏あり。
恵比寿のアパレルメーカーでネットやカタログ向けの画像加工を行う部署でお仕事中。
自宅は大都会埼玉の大宮駅から少し先のJRの駅からすぐのところに家賃8万円の1LDKに乗り換えなしで職場に通えるというだけの理由で一人暮らし。
性格は周りから周りからちょっとちやほやされてみたい気もするけど、目立つのは苦手という結構ありがちなタイプ。
案外見栄っ張りな一面もある。
大関萌華(もか)
美咲と同じ会社で経理課に勤める。
Hカップの巨乳の持ち主といえば聞こえがよいが、肥満の家系に生まれ育つ。
子供のころのあだ名は横綱。
コルセットで急にカッコよくなった美咲にいち早く気づきコルセットダイエットを決意する。
美咲と同じ電車で通勤している。
美咲より数駅遠い町で祖父母と両親、兄3人と暮らす。
大関一家(年齢順)
祖父:寅(とら)
祖母:桂(かつら)
父 :健人(けんと)
母 :貴理子(きりこ)
長男:塁(るい)
次男:コナン
三男:三斗(さんと)
長女:萌華(もか)
阿倍 沃(あべ よう) 商品開発部長
会社で一番の美人で、モデルもこなし、仕事もできる。
社長の愛人という根の葉もない噂もある。
女子社員は陰で「倍沃」(べよう)と呼んでいる。
本人はそれに気づいているが、そのことはまんざらでもないらしい。
なぜなら倍沃(べよう)はコルセットダイエットの一番人気のバーヴォーグ(Burvogue)の漢字名だからである。
そして今では美咲にとってのコルセットの師匠でもある。
美咲の彼氏さん
美咲の同僚。
お人好しで頼まれたら断れない性格。
それ以外は未設定。
陽菜
23歳。
美咲の勤める会社で派遣社員をしている。
社内ではかなりイケているルックスの持ち主。
美咲は彼氏さんの「陽菜ちゃんってかわいいよね」の一言でやきもち持ちを焼いたことから、勝手に美のライバル視している。
陽菜本人はどう思っているかは定かではない。
というかまだ未設定。
■作者紹介■
)プロクビレイター(のAbooです。
世界中のウエストを くびれ させることが野望のプロのクビレイターです。
クビレイトに欠かせないものといえばコルセット
コルセットで肋骨を引き締めることでアンダーバストからヒップにかけて整形級のボディラインを作っちゃおうっていう痩身術です。
世間ではコルセットダイエットなんて呼ばれています。