歪んだ心理空間における精神的被害

モラハラ、DV、ストーカー、セクハラ、性犯罪等における加害者心理と被害者心理

性犯罪被害者に対する過酷な法律と裁判

娘に準強制性交で起訴の父に無罪 「抵抗不能」認定できず

 平成29年に愛知県内で抵抗できない状態の実の娘=当時(19)=と性交したとして準強制性交罪に問われた男性被告に、名古屋地裁岡崎支部が「被害者が抵抗不能な状態だったと認定することはできない」として無罪判決(求刑懲役10年)を言い渡していたことが4日、分かった。判決は3月26日付。

 

 公判で検察側は「中学2年のころから性的虐待を受け続け、専門学校の学費を負担させた負い目から心理的に抵抗できない状態にあった」と主張。弁護側は「同意があり、抵抗可能だった」と反論した。

 

 鵜飼祐充(うかい・ひろみつ)裁判長は判決で、性的虐待があったとした上で「性交は意に反するもので、抵抗する意志や意欲を奪われた状態だった」と認定した。

 

 一方で被害者の置かれた状況や2人の関係から抵抗不能な状態だったかどうか検討。「以前に性交を拒んだ際受けた暴力は恐怖心を抱くようなものではなく、暴力を恐れ、拒めなかったとは認められない」と指摘した。

 

www.sankei.com

 

 日本では、意に反する性行為であっても、「暴行・脅迫」がなければ強制性交罪が成立しません。

 

 「悍ましい法律!」、「悍ましい判決!」、としか言いようがありません。どうして、「暴行」まで受けた後でなければ、「レイプ被害」が成立しないのでしょうか? 一体、被害者はどこまでの被害を受ければ、「被害者認定」してもらえるのですか? 第一、抵抗しなかったら、父親が娘にそういう事をしても良いのでしょうか??? 上のケースでは、中学2年のときからの性虐待まで、無罪なのですか? (あと、女性は性被害を受けないようにするためには死にもの狂いの抵抗をするもので、操を守るためなら死んで当たり前、とでもいうような感覚が、どこかにあるのだとしたら恐いのですが・・・。)

 この件については、矢川冬さんも批判していらっしゃいます。

yagawafuyu.hatenablog.com

 

被害者と加害者の心理についての理解がない

 こうした法律や裁判は、加害者が〈正常者〉であることを想定しているものだと思われます。いわゆる〈常識〉というものは、〈正常者〉が〈正常者〉に対したときの振る舞いが基本になっています。被害者が必死になって嫌がったとき、分かってやめてくれたり、諦めたりしてくれるのは〈正常者〉の範囲の人です。

 

 近親相姦やレイプといったタブーを犯してくる人というのは、〈正常者〉ではありません。そしてしばしば〈異常者〉は、支配欲や攻撃性が強く、執念深く根にもって復讐してきたりします。たとえば DV や悪質なセクハラ、モラハラというのも、そういう人たちが起こしています。

 

 加害者がそうした人間である場合、被害者が必死になって抵抗すれば、加害者は猛威をふるって支配しようとし、攻撃してきます。この場合、被害者が必死の抵抗をすることは、単に被害の拡大を意味します。被害者は、それを避けたいのです。嫌なことをできるだけ小さくして済ませたいから、我慢して済ませられることは、我慢してしまったりします。*1

 

 ところが、相手が〈異常者〉である場合、ここでまた嫌なことが起こります。被害者が一度我慢すると、そこに付け込んでくるのです。こうなると被害者のほうは、その前に我慢して受け入れてしまったことを、自分でも何と説明して良いのか分からなくなり、自分の対処の仕方がまずかったために事態を悪化させたという、妙な負い目を感じます(そこまでの異常者だとは、想像もついていなかった、というだけなのですが・・・)。

 

 ここらへんから、被害者は心理的に〈加害者と二人きりの密室状態〉に置かれるようになってしまいます。下手に人に話しても、「どんなやましいことがあって、そんな事を我慢したのか」と、疑われてしまいそうな気がするからです(だから、ここで話を打ち明けられた人は、本当はすぐに何が起こっているのかを察して、全面的に被害者の味方になって、助ける必要があります)。現に、上のような裁判でも、「抗拒不能の状態にまで至っていたと断定するには、なお合理的な疑いが残る」などと言われてしまっています。

 

 こうして加害者にいいように、どんどん付け込まれてくると、当然のことながら、最後に被害者は我慢しきれなくなります。しかしこのとき、「それまで〈合意〉の関係が成り立っていた」と判断されてしまいます。でも、被害者はこんな事までされるのを予想して、加害者に譲歩していたのではありません。常識的には、そんな予想はできませんから。むしろ、被害を最小限にしたいと思って、大騒ぎにしたり、関係を決定的に破綻させたりしないで済ませようとしています。

 

 〈正常者〉同士の普通の人間関係は、そういうところで成り立っていて、それが常識となっているし、ふつうの家族関係や職場の人間関係では、お互い、大騒ぎにしたり、関係を破綻させたりしたくない、と思っています。ところが、そうした人間らしい気持ちは持たず、タブーを犯して、侵犯してきてしまう〈異常者〉がいるということです。

 

 加害者が〈正常者〉だとしたら、「被害者の態度は腑に落ちない」と思われて当然です。でも、加害者が〈異常者〉である場合、被害者は〈正常者〉に対するのと同じ態度を取っていられません。〈正常者〉ベースの〈常識〉で判断されたのでは、〈異常者〉を相手にしている被害者はたまりません。

 

 脅迫にしても、邪悪な人間であればあるほど、自分が警察に捕まるような脅迫は、簡単にはしてきません。極端な話、「分かっているだろうな」と凄まれるだけでも、被害者は「一体どれほどの事があるのか」と、空恐ろしくなるのです。〈常識では想像もできないほどの怖ろしい事をしてくる人〉に対しては、具体的に何を怖がっていいのか分からないような、際限のない恐怖が湧いてきます。

 

 よく言う〈心理的支配〉というのは、こういうおかしな所で起こることで、ふつうの話し合いによる上下関係なんかではありません。

 

 DVもモラハラも悪質なセクハラも、おそらく被害者は〈正常者〉に対するのと同じ態度を取るだけで、それにより〈心理的支配下〉に置かれることになっていくと思います。というのも、こうした〈異常者〉たちは、〈正常者〉同士の関係を〈常識〉として前提にして、自分だけが卑怯なやり方をすることにより、相手を出し抜けるということを、心の奥底で、よく知っているからです。

*1:レイプ犯などが見ず知らずの人である場合も、そうです。被害者は加害者の暴力性を肌で感じるので、抵抗すれば、被害を大きくすることを予想しています。逆に、痴漢でも何でも、簡単に撃退できる相手というのは、大した暴力性、攻撃性のない人で、ある意味、被害者はそういうことを感じとって、簡単に抵抗したり、文句を言ったりできています。加害者が〈正常者〉の範囲の人間である場合と、〈異常者〉である場合とを、同じように考えるのはナンセンスです。

 問題は、性被害などのケースで、〈異常者〉の精神性がほとんど視野に入れられないことだと思います。